意気地なしのバレンタイン

2011年のバレンタイン夢です!
お相手はハガレンのエド。
学園設定でギャグっぽい感じに仕上がっちゃいました(;゚∇゚)





『ずっと前からエルリック先輩の事が好きでした。よかったら受け取って下さい!』


・・・・・ダメだ。
そんなハッキリと言えるならとっくの昔にこの想いを告げている。
私は自分で今しがたした脳内シミュレーションに即行却下を下した。
もっとこう、それとなく伝える方がいい気がする・・・


『私、エルリック先輩のこと・・・・・あのっ、これ受け取って下さい・・・』


あぁ、ダメだ・・・
目で訴えるとか可愛い子がやるから効果があるんだよ。
あんなロックベル先輩みたいな美人さんな幼馴染がいるエルリック先輩相手に私なんかの涙目とか通じるはずがない。
またもや私は脳内シミュレーションに却下を下した。

どうしよう・・・
やっぱりコッソリ机の中にでも入れて帰ろうかな。

私は手に持ったままのチョコを見つめて大きな溜息を吐いた。
今日は2月14日。
年に一度のバレンタインデー。
昨日の休日を利用して朝から一生懸命作ったエルリック先輩へのチョコは未だに私の手の中にある。
朝一番に渡そうと早起きして登校したのに、結局勇気が出ずに教室に向かう先輩の背を見送ってしまった。
休み時間も呼び出す勇気が持てずに、自分の教室からすら一歩も踏み出すことが出来ないうちに終わってしまった。
それでも何とかと気合を入れた昼休みだったけど、弟のアルフォンス君と一緒にいるもんだから声がかけずらく結局断念・・・

で、現在放課後を迎えてしまって軽く諦めモードに突入中。
あぁ、頑張って作ったんだけどなぁ・・・

あれだけ近付く事すら困難だったエルリック先輩の教室も、誰もいないと分かっていたらこんなにも容易く入ることが出来る。
そっと先輩の席の前まで近付くと、自然とチョコを持つ手に力が入った。

このまま机の中に入れて帰っても十分じゃないかな?

ジッと机を睨んで思案。
もうこの際私が準備したチョコをエルリック先輩に受け取ってもらえるだけで十分な気がしてきた。
私の想いとか、私からのチョコって事はもう知ってもらわなくてもいいや。
いつも見てるだけでいいって思ってた私がここまで行動できたんだ。
それだけでもう褒めてあげるべきだよ、うん。
そうそう、また来年頑張ろう、来年。
明らかに後ろ向きな考えを無理矢理前向きっぽい雰囲気で誤魔化して一人納得してみる。

・・・いやもう本当に限界なんです。

あのエルリック先輩に告白しようなんて考えてた昨日までの自分反省した方がいいよ馬鹿。
って、ことでやっぱりコッソリ入れて帰ろう。
あぁでも机の中に手作りチョコとか不気味?
誰が作ったかも分からないものなんて食べたくないよね普通・・・
なら名前でも書けって感じだけど、だからそれがもう無理なんだってば!

ってなるとやっぱり・・・

私はチラッと鞄へと目を向けた。
そして中からもう一つ準備していたチョコを取り出す。
こっちは市販のもの。
昨日チョコを作り終わった後、『うぅっ、やっぱりいきなり手作りって重い?!』って不安になって急遽買ってきたものだ。
うん、こっちだったらもしかすると食べてくれるかもしれない。
だって市販だし!
異物混入の可能性だって無いしね!
それに美味しそうだし!
なんたって市販だから!!!
捨てるの勿体無いって感じで食べてくれるかもしれないしね!


「・・・って事で失礼します」


己の中だけでさっさと自己完結すると、そろそろと椅子を引いて机の中へとチョコを入れようと身を屈める。
しかし・・・


「何やってんだ?」

「うひゃああああぁぁぁぁ!!!」


突然後ろからかかった声に本気でビックリして大声を出してしまった。
慌てて立とうとしたけど、バランスが崩れてそのまま床に尻餅をつく。
しかも勢い余ってエルリック先輩の後ろの人の机に後頭部をぶつけてしまった。
痛い、本気で痛い・・・


「あぁ、うぅぅぅ・・・」


思わず両手でぶつけた箇所を押さえて前のめりになって呻く。
すると頭上からかかる声・・・


「おい、大丈夫か?」

「うぅ、はい、なんとか大丈夫で」


答えながら顔を上げて、相手を確認した途端言葉を失った。
正直後頭部の痛みを忘れるほどの衝撃を受けた。


「・・・・・・・・・・・・・エッエルリック先輩?」

「おう」

私の呟きに、どこか面白そうに返事をする先輩。
私はそんな先輩を暫くの間呆然と見上げた。
そして・・・


「すっすみませんでしたーーー!!!」


それだけ叫んでダッと逃げ出す。
いや逃げ出そうとした。
・・・・いつの間にか落としていたらしい自らの鞄に躓きさえしなければ


「うぅぅぅ・・・」


またもや呻く。
今度は膝を打ちつけた。
擦り剥きはしなかったけど痛い、地味に痛い。
でもそれよりも何か今の状況が痛い、痛過ぎる・・・


「おい、大丈夫か?」

「・・・・・・・・・・・大丈夫です、本当にすみません、気にしないで下さいごめんなさい。いやもう私の事なんてどうぞ綺麗に忘れ去って下さい・・・」


本気で今すぐ消えてなくなってしまいたい。
でもそんな事出来るはずも無く、とにかくこれ以上失態を晒すことだけは避けたい。
とりあえず私は落とした荷物を拾う事から始めた。
鞄を手に取り、少し離れた所に落ちてしまっていたチョコへと手を伸ばす。
しかし手を伸ばした先の市販のチョコは、後少しというところでヒョイッと取られてしまった。


「エッエルリック先輩?」


何を?と視線を向ければ、何やら楽しそうなその表情。


「これ、俺宛じゃねーの?机に入れようとしてただろ?」

「っ!!!いや、違っ、・・・わなくなはないですけど・・・・・」


真っ直ぐ視線を向けられて思わず伸ばしていた手を引っ込める。
あぁどうしよう・・・
そりゃもちろんそのチョコは先輩宛だけど、今の私って完全に不審人物状態。
そんな奴からのチョコとか・・・・・
思わず俯いてどうしようどうしようと考えを巡らせていれば、視界の端で先輩の手が動くのが見えた。


「んじゃこっちは?」

「えっ?って、あぁ!!!」


先輩のもう片手には私が作ったチョコ。
カァッと頬に熱が集まって、慌てて取り返そうと手を伸ばす。
しかし伸ばした手は虚しく空を切った。


「なっ何で・・・」


何で避けるんですかと視線を向ければ、真っ直ぐと向けられる視線とぶつかった。


「これは、どうすんだ?」

「えっ?」

「・・・誰かにやんのか?」


どこか探るような真剣な声。
どうして、先輩がそんな事聞くんだろう?
そんな疑問が頭を過ぎったが、今はそれよりもどう答えるかの方が問題だ。

先輩の声に驚いた際に落としてしまったチョコ。
どう考えても中が全くの無事とは考え難い・・・
市販の方はまだいい、だって元は綺麗だったんだろうって想像出来るから。
でも私が作ったチョコなんて元からぐちゃぐちゃなのか、落としてぐちゃぐちゃになったかなんて分かりっこない。
しかも現在先輩にとって私は不審人物極まりない状態・・・
確実に元からだと思われる、絶対そうに違いない。
そんな事態が容易く想像できるのに、今この場で先輩へのチョコです何て言えるわけがない。

でも先輩はジッとこちらを見て私の答えを待っていて・・・
私はそんな先輩の視線から逃れるように顔を逸らした。
そして・・・・


「じっ・・・・・・・自分で食べる用です」

「・・・は?」


あぁ、これ絶対私間違えた・・・
先輩の反応にすぐさま後悔したけどもう遅い。
もう今度こそこの場から消え去りたい、無理だろうけど消え去りたい。
そう思って俯く私の耳に、突然噴出したような笑い声が届いた。
思わずきょとんとして顔を上げる。
するとチョコを持ったまま可笑しそうに笑うエルリック先輩の姿。
うん、たぶん笑われてるのは私なんだろうけど、何故か嫌な感じは全然してこない。
そして先輩は一頻り笑うと、何とか笑いを抑えて口を開く。


「人の机の前で百面相してると思ったら叫んで頭ぶつけて逃げようとするし、あげくに手作りの方自分で食うとか言うしよ・・・」


うん、とりあえず私の行動全てがどうやら先輩の笑いの種になっているらしい。


「えっと、・・・・・すみません?」


とりあえず謝ってみたらまた笑われた。
しかし今度は早々に笑いを治めると、先輩は立ち上がって口を開く。


「ほら、いつまでもんなとこ座り込んでねーで立てよマイ」

「うあ、はい!」


先輩の言葉に慌てて手を取って立ち上がる。
しかし改めて先輩の言葉を脳内で反復させて「あれっ?」と首を傾げた。


「あの、何で私の名前・・・」

「あ?あ〜〜〜まぁ、見てたのはお前だけじゃなかったってことだろ」


あんだけ見つめられたら気付くっての、と先輩は苦笑を浮べる。
しかし私にはいまいちよく意味が理解出来なかった。
するとそんな私の様子に気付いたのか、先輩は掴んだままだった手を引きながら口を開く。


「とりあえず、この続きはこのチョコ食ってからな」


私の事なんて全然知らないだろうと思っていた先輩が実は随分前から私の視線に気付いていたとか、同じクラスのアルフォンス君から私の名前を聞いていただとか、さらには朝から私がチョコを渡そうとうろちょろしていたのに気付いていたことなんかを私が知るのはもう少し先の話・・・



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