土方さんのお誕生日

5月4日、世間はゴールデンウィークだとか、浮かれている時期。残念だが真撰組には祝日も何も関係はない。副長である土方も同様だった。


「おい、小春見たか?」


土方は自分の補佐である少女を探していた。彼女は今日非番でもなければ、特に休憩を許可した覚えもない。つまりはどこかでサボっているとしか考えられないのだ。


「いえ、お昼から見てませんよ。副長と一緒だったんじゃないんですか?」


誰に聞いても返ってくる返事は同じものばかり。あいつなら、と望みをかけた山崎でもこの様だ。


「チッ、なら屯所にはいねェみたいだな。仕方ねェ。帰ったら説教だな」


いらだち、短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けて新しいものを取り出す。土方の眉間のしわと同様に灰皿の中身は増していくばかりだった。




****




そのころ、小春は万事屋にきていた。


「銀ちゃーん、神楽ちゃーん、新八くーん!!」


チャイムを鳴らすと同時に叫ぶ。そうしないと彼等は新聞勧誘と思って無視するか、お登勢さんの家賃催促と思って居留守を使うのだ。


「小春さん、どうぞ、上がってください」


新八が小春を招き入れる。小春は笑って挨拶をしてから手土産を渡した。

奥の居間に行くと、いつものようにソファに寝そべってジャンプを開くこの家の主、坂田銀時と酢昆布片手に昼ドラを見る神楽がいた。


「おー、小春。久しぶりじゃねェか」

「本当ネ!私寂しかったヨ」

「ごめんね神楽ちゃん。わたしも会いたかったよ」


テレビから小春に関心を移した神楽の頭を撫でながら小春は言った。銀時は体を起して腰掛け、小春に座るよう促した。

新八がお茶と小春の持ってきた団子を出すと、銀時が切り出した。


「…で?小春はどーしたんだ」


昔からの付き合いだからか、小春のちょっとした表情の曇りを見逃さなかった。言い当てられて小春はぎょっとしたが、観念したように話しだした。


「…実は…、土方さんの誕生日…、明日なの。何あげようかまだ決まってなくて…」


そう言ったきり項垂れてしまった小春を見た三人は、これは重傷だと思った。何だかんだ小春が土方を好いていることは勘付いているからだ。


「小春、元気出すヨ。酢昆布あげればきっと喜ぶネ」

「いや、それ神楽ちゃんだけだから。普通の人は酢昆布なんて喜ばないからね。…でも、土方さんか…」

「あんなの、マヨネーズでもあげときゃ十分だろーが。うちの小春をこんなに悩ますなんて、あのヤロー許さねェぞ」


土方の名前を聞いて少し不機嫌になっている銀時がぶっきらぼうに言う。妹のように可愛がっている小春が自分の好かない相手といい仲になるのは嫌なのだ。


「マヨネーズは総悟があげるって言ってたの。なんか、いろいろ準備があるって言ってたけど…。だから他のじゃないと!」

「準備って何!?絶対それマヨネーズじゃないよね?マヨネーズの姿をした毒薬でも渡すつもりなのか沖田さんは…」


相談をしてもいい案が出ないので小春の表情はますます暗くなってしまった。何といっても、誕生日は明日なのだ。小春には時間は残されていない。


「じゃあ、ライターとかは?土方さん結構煙草吸うから、ちょうといいんじゃないかな?」

「それも考えたよー…。でも土方さん、あの趣味の悪いマヨライターを生涯使うつもりらしいの…」

「姉御に相談するといいネ!ああ見えて乙女ヨ。いろいろ知ってるかもしれないアル!」


酢昆布をかじりながら神楽が言った。小春はハッと顔を上げて頷くと、お礼を叫んでから走って去って行った。




****




恒道館へ着いた小春は妙のところまで走った。


「お妙ちゃんッ!!」


今までの経緯を話すと、早速小春は本題に入った。何度も言うが、小春には時間がないのだ。今日も帰ったら説教くらうのは覚悟している。


「…そうねェ…、私はプレゼントは貰う専門だからなんともいえないけれど…」


一瞬、妙の誕生日に腕いっぱいの薔薇の花束を抱えたゴリラが小春の頭に浮かんだが、苦笑いで受け流す。


「新ちゃんは毎年ケーキを焼いてくれるわ。土方さんが甘いもの苦手なら、控え目で作ったらいいんじゃない?」


その妙の言葉に、小春は目を輝かせた。ケーキを焼くだなんて、なんて女の子らしいのだろう。


「ありがとう、お妙ちゃん!やってみるよ!!女中さんに作り方教えてもらえばわたしにも出来ると思う!」


来たときの焦った顔を一転、溢れる笑顔で小春は帰って行った。




****




次の日、小春は女中の一人に教えてもらった材料を買いに大江戸スーパーまで来ていた。

昨日は夜遅くまで土方に説教をくらってしまったが、今日の非番を取り消されなかっただけまだよかっただろう。代わりに次回の非番はなしになってしまったが。


(昨日は粘ってよかった。プレゼント買ったなら今日は一緒にいたかったんだけどなぁ…)


仕方ない、と頭を切り替えると、小さなメモを見てから生クリームを買い物かごに入れた。




****




副長の誕生日、となるとやはり夜は宴会になるものだ。今年も自分の誕生日を忘れていた土方は夜、部屋から引っ張り出されて初めて今日がその日だと思いだした。

土方が広間の襖を引くと同時にクラッカーが鳴る。そして野郎共の色気の欠片もない声で祝福の言葉がかけられる。土方が座ると小春は土方の前にケーキを差し出した。

それは、少しいびつなデコレーションだったが、十分おいしそうなショートケーキだ。一人で食べきれるように小さめのサイズにしてある。隊士全員の分を作るのは大変だからだ。


「…甘さ控えめにしたんで、大丈夫だと思いますよ」


照れくさそうに小春が小さく言った。


「これ…小春が作ったのか…?」


改めて確認されると余計に恥ずかしくなる。赤い顔を俯いて隠して、小春は頷いた。


「ありがとな…」


よく見ていないとわからないが、土方は少し微笑んで言った。それを見た小春は胸が温かくなるような感覚と共に頬を緩めた。

しかし、次の瞬間小春の顔は固まった。

白いクリームと赤いイチゴ、チョコレートにはHAPPYBIRTHDAYの文字。そう、白いケーキだったはずだ。

小春の力作ケーキは、白い部分の見えないくらいに黄色いもので埋め尽くされていた。ぶちゅぶちゅと卑劣な音がする中、当の土方は涼しい顔で黄色いチューブを握る。


「…な…に…、やってるんですか…」


唖然として、開いた口が塞がらない小春は喉から声を振り絞って言う。


「何って…マヨネーズかけてんだよ。何度も言っただろ?マヨネーズは何にでも合う奇跡の調味料なんだよ」


ふるふると拳を震わせて、小春は土方に近づいた。


「ん、どうし…グハッ…」

「最低ッ!!!土方さんなんて大っきらい!!!!」


渾身の一撃を土方の顔面にお見舞いすると、小春は走ってその場を後にした。


「…お、おい!小春!!」

「あーあ、土方さん最低ですねィ。折角作ったものを犬の餌にしちまうたァ、小春が怒るのも当然ですぜィ?」

「…確かに俺が悪かったかもしれないが、お前はなぜカメラを持ってるんだ」

「土方さんの顔面に小春の拳がヒットした瞬間がチャンスでしたねィ。ばっちり押さえやした」

「何がチャンスだッ!!ふざけんなよ沖田ァァァァ!!!」





****




おまけ




土方は、小春の部屋の前、襖に遮られた向こうにいるであろう少女に遠慮がちに声を掛ける。


「あー、悪かった。ケーキ、うまかったぜ。マヨネーズはいらねェくらい、うまかったよ。…ありがとな」

「…土方さん…、お誕生日、おめでとうございます。次はマヨなしで食べて下さいね?」

「ああ、もちろんだ」


スッと襖が開いて胸元にドンと衝撃が来る。がっしりとしがみついてきた小春の頭を撫でてその小さな肩を抱き寄せた。

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