※旧拍手SS
「空却ってさ、女に興味ないよなぁ。なんでだ?」
「……は?」
なんでこんな話になったんだったか、もう覚えていない。素っ頓狂な声をあげた拍子に咥えていた紙パックのジュースをポロリと落としてしまった。幸いほとんど空になっていて溢れずにすんでよかった。いや、そうじゃない。
「別にいーだろ」
「いやまぁいいんだけど。…はっ、もしかしてお前……俺はそっちの気はないからな」
「こっちもねーよっ!たぁけ!」
気色悪いことを口走るその頭をバシッと叩けば大して悪びれた様子もなくワリィ、と笑っていた。オメェに言われたくねーわと返せばそれもそうなんだけどよ、と言われた。コイツの場合毎日毎日働き詰めで、どうせその頭の中には弟たちのことしかないのだろうが。
「………ナゴヤにおる」
「えっ?お前彼女いたのか?」
「彼女じゃねぇけど」
コイツとこんな話をするのなんて初めてでぷい、と顔を背けた。視界の隅にニヤニヤとした顔が見えて再び頭を引っぱたいてやった。結構な勢いで叩いたはずが痛がるどころか楽しそうに笑われて余計に腹が立つ。
「どんな子なんだよ?強いのか?」
「強さはいらねぇだろ」
どーいう基準だよ、と笑い飛ばしてからねーちゃんみたいなヤツ、とだけ言っておいた。
「年上ってことか。写真とかあるだろ?」
「それは…………ねぇ」
「いや、あるな!見せろ!」
小さな小競り合いを繰り広げてここか、ここかとあらゆるポケットを探られる。そんなとこに直接入れるわけねーだろ!と言えば、じゃあここか!と財布を取り上げられる。
「大丈夫だって、ちょっと写真探すだけだから」
「…だから!おい、おまっ…!!」
空却の抵抗も虚しく一郎は財布の中を覗き込んで一枚の写真を取り出した。
「おっ、カワイイじゃねぇか。にしてもお前、もっと笑えよ!」
「うっるせぇ!!」
見れたから満足したのか財布と写真を空却の手元に返した一郎ははははっと豪快に笑う。うるせー、自分でもそう思ってるわ。恥ずかしさを誤魔化すように空却は一郎のケツを思い切り蹴飛ばした。
彼女は元気にしているだろうか。もう撮ってから何年も経ったその写真を見つめる。まだ高校生になったばかりの彼女は幼さの残る笑顔で笑っている。この頃より少しは大人になった自分なら、彼女の隣で素直に笑えるのだろうか。
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