それは吹雪の凄まじい日の夕刻。
「あなたは“雪の白”、辛いこと苦しいこと沢山あると思うけどあなたが良い子にしてたらきっと皆分かってくれるよ…」
白い老婆の、私の頭を撫でる手が少し怖かった。老婆は穏やかに諭すように話すのだがそれが何だか更に怖かった記憶がある。まだ何も知らなかったあの頃の私は周りのもの全てに怯えていた。
「すぐに、終わるから…大丈夫」
手を引かれ連れて行かれる中、私は小さく嫌々と首を振った気がする。だけど老婆はそれに気付いていなくて、今思うと老婆も早く御役御免したかったのだろう。私が嫌がっても関係なかった。
こうして名もなかった幼い女の子にひとつの名前が付いた。“ブランシュ”、またの名を“雪の白”、皆が畏怖する肩書き。
その後間もなく吹雪く雪山に置き去りにされ、まだ自分が何者かも分かっていなかった私の望んだわけでもない逃走劇はここから始まった。