偶然会ったあなたと


カロス地方はカフェテリアの文化が古くからありカロス地方の中枢ミアレシティでは多くのカフェテリアが軒を連ね、またその他の街にも殆どカフェテリアがある。カロスの人々は自分の行き付けのカフェテリアをそれぞれ持つのだと聞いた。

自分が行き付けのカフェテリアを持ちたいなんて考えはなく、ただその雰囲気を味わってみたい。いざミアレシティに来てみるとやはりカフェテリアの数が多すぎてどこが良いのか見た目だけでは判断出来そうになかったためにそこそこ人が居て、それでも落ち着いた雰囲気のあるカフェテリアを選び店に入る。

タイミングが良かったのか店内のテーブル席にはまだいくらか余裕がある。私はフレーバードティーを頼み、店内のガラスケースの中に並べられていた色鮮やかなポフレを相棒のグレイシア用に頼んで席に着いた。

「シーヴル、どうです?」
「しあっ」
「ふふ…」

シーヴルとは彼女の名前である。ポフレをかぶりつきながら上機嫌な様子のシーヴルを軽く撫でてから私は漸くフレーバードティーに口を付ける。少し冷めてしまってはいるものの香り高いアールグレイの風味が鼻腔を通り抜けてゆく。

「ここ、相席させてもらって良いかしら?」

突然頭上から声が降ってきた。顔をあげるとそこには中年代くらいの人。

「ええ、どうぞ」

周りを見渡すと先程とは比べ物にならないくらいに店内が混んでいた。相席良いかしら?と私の前に座った方もどうやらフレーバードティーを頼んだ様子。紅茶の香りに加えほのかにアップルの風味が漂う、アップルティーだ。

「こんなに混む事って珍しいのよ」
「そうなんですか?」
「ええ」

言葉遣いを聞くからにきっとこの人はオネエさん、なのだろう。だがカロス地方の人のイメージにぴったり当てはまる人だ、なんて思う。椅子に座る体配りや紅茶を口にする身のこなしもひとつひとつに備え付けられた穏やかさを感じる。

「あなた、どこから来たの?」

突然彼女から問いを投げ掛けられ少し驚く。どこから来た、それは一番答えにくい質問かもしれない。

「シンオウ地方、です」

色々付け加える事は沢山あるが省いてしまえば概ね一言で済むのであるが。

「そうなのね、肌が真っ白だからどこから来たのかと不思議に思ったのよ」
「雪国育ちなんです」
「だと思ったわ」

そんな他愛ない会話をした所で彼女は「それじゃあ、お先に」と言って席を立ってしまった。一方で猫舌な私にも飲みやすい温度にまで冷めてしまった紅茶を私は飲み干した。

「シーヴル、行きましょうか」
「しーあ」

カウンターにいる店員さんに飲み終えたカップを返却すると私はシーヴルと共にカフェテリアを後にした。外に出た所で私は変な視線を感じた気がした。

「シーヴル、ごめんなさい。少し戻って…」

私はシーヴルをモンスターボールに戻しカフェの隣の裏道に早足で入り、どこに何があるのか少しも分からない裏道を焦る気持ちを表に出すまいと深呼吸しながら、だが歩調は緩めずに歩く。先程感じた変な視線は気のせいではなかったらしい。確実に私の後をつけている人が居る。

「セヴリーヌ!」

私だと確信を持てたからか、その声の主は私に向かって走ってくる。そしてその人物は自らも走りながらもゴチルゼルとグラエナを私に向かってくり出した。グラエナはともかくゴチルゼルに追い付かれると逃げられなくなる。私は咄嗟に自分の手持ちが入っているモンスターボールを掴むが、ポケモンバトルをする訳じゃない相手に応戦するよりも逃げた方が早いと判断しボールを仕舞い、前に向き直ったその時誰かにぶつかってしまった。

「す、すみません…。!!?あなたは先程の…」

見上げれば先程カフェで相席をしたオネエさん。先を急ぐ旨を早口に説明し、彼女の横を通り過ぎようとしたその時彼女に腕を掴まれた。

「あ、あの…」
「待ちなさい、とりあえずアナタもポケモンを出すのよ」
「で、ですが…」

迫り来る追っ手とそのポケモン達を目の前に応戦する事を戸惑う私に彼女は片手にモンスターボールを構え私を見る。

「ポケモンにはポケモンで対応するべきよ」
「そう…ですね」

先程の彼女に急かされ私はバイバニラが入ったモンスターボールを構える。触れるか触れないかの距離感の肩越しに彼女を見れば、目が合った。その時彼女がアイコンタクトをしたので握るモンスターボールに少し力を込め、私達はほぼ同時にポケモンを呼び出した。

「お願いね、サラ!」
「頼みます、シュニール」

彼女がサラ、と呼んでモンスターボールから出したのはサーナイトだ。一方私はバイバニラのシュニールを出した。

・・・

「あの、…ありがとうございました」

ダブルバトルを終え、追ってきていた人を振り切り先程のオネエさんにお礼を述べる。

「いいのよ、それよりも彼女は?」

彼女、つまり先程私を追っていた人物だ。

「彼女…彼女は私の義姉に当たります」
「良かったの?お義姉さんだなんて」
「ええ、まだ彼女に会うことは出来ないんです…」

彼女は事情があるのね。と呟くとふっと表情を緩めた。

「そういえば…私はイベリスっていうわ。よろしくね」
「あ、私は…セヴリーヌといいます」

彼女が私に手を差し出す。私はその手を掴むのを躊躇した。例の通り、人より体温が低い私が触れれば驚かせてしまうかもしれないからである。差し出すとも引っ込めるともつかない中途半端に伸ばしかけた手を彼女は掴む。

「あら?アナタ冷え性なのかしら…女の子は温かくしてなきゃダメじゃない」
「ええ、…」
「今から美味しい紅茶飲みに行きましょう?紅茶って冷えに良いのよ」

そして彼女に引き連れられるがままに彼女オススメのカフェに入る。本日二杯目の紅茶、先程もほんの少し感じた感情。

・・・ーーー誰かと言葉を交わしながら飲む紅茶は格段と美味しい。



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