4.イノリとリンドウ


「異常に寒い」

炎タイプのポケモンを連れていない事を今ほど悔いた事はない。常に水タイプのポケモンと居る私にはなかなか縁がないのが炎タイプだ。

「アイル…君、今からブースターになれないよねえ…」

「しゃわぁ…」

シャワーズのアイルがもふもふのブースターになれたなら、なんて冗談で言ってみた。アイルは何言ってるのやら、という眼差して見てくる。ポケモンからの視線まで冷たい。

「ん〜、どうしてこんな吹雪いてるんだろうね…空を飛べば街が見えるかな?」

とは言うもののこんな酷い吹雪の中でペリッパーに飛ばせるのも忍びない。凍死したらどうしよう、なんて冗談では済まない事を考えながら一歩一歩進む。

「アイル、君も…モンスターボールに入った方が良さそうだね」

「しゃわ」

アイルをモンスターボールに戻す。何故私はこの酷い吹雪の中を歩いているのかというと、このリウエルという土地に居るというある考古学者を探している。というのも、あの石男にある物を渡して欲しいと頼まれたからだ。自分で行きなよ、と言ったがどうしても外せない用事があるのだとか。

とりあえず街を探そう。ポケモンセンターがあれば吹雪の終息を待つ事が出来る。目の前が雪嵐で真っ白だ、視界も悪い、何を目指して歩けば良いのかすら分からない。困ったなあ。

「あの」

「?」

どこからか声が聞こえた気がしたが一面の銀世界+吹雪の中で人影らしきものは見当たらない。気のせいかな?

「ここですよ」

「わあ…雪女だ」

私は遂に幻覚でも見えてしまったのだろうか。目の前に雪女が居る。こんな吹雪の中で全身真っ白な女の人、これはどう考えても雪女に違いない。

「雪女ではありませんよ」

「まさか」

「そんな驚かれましても…」

雪の中に紛れてしまいそうな白さを持つ彼女、しかもこの寒さの中、割と薄着で平然としている。死なない?

「そんな薄着で、大丈夫?」

「ええ、これくらいなら問題ありません」

私が死を覚悟した寒さを“これくらい”と言った彼女の感覚に理解が追い付かない。私、割と死にそうなんだけど?

「そうだ、この辺に街とかないかな?」

「ご案内します」

ひとまず助かった。こんな寒い中、何時間も歩き回るにしても限界がある。白い彼女を見ていると、雪山を歩く歩調も、やはり慣れたものを感じる。

「あなた、名前は?」

「キイラ…」

「キイラさんね。私はイノリ、よろしくね」

一応自己紹介をする。キイラ、と名乗った白い女性は改めて雪女ではありませんからね?と念を押してきた。

「街に着きます、そこですよ」

「助かった…」

街の灯りらしきものが吹雪の中にポツポツと見える、ような気がする。正直、キイラさんは涼しい顔をしているが、私は死ぬかと思った。

「リンドウ様!どちらに行っておられたのです!」

「散歩です」

街に着くなりリンドウ様、と呼ばれひとりの男性が私たちに駆け寄ってきた。その声に反応したのは誰でもなくキイラさんだ。キイラさんはすぐに戻りますから、先に行っていてください、と言った。

「リンドウ、っていうんだ、あなた」

「リンドウ・キイラ・ブランシャール…私の名前です」

どっちが名前だろう?多分どちらも、名前なんだろう。とすれば、彼女が最初に名乗ってくれた名前で呼んだ方が良い気がする。

「ありがとう、キイラさん。助かったよ。何かお礼出来ることあれば良いんだけど…」

「いいですよ、イノリさん。大した事ではありません」

「そうだ、大した物じゃないけど…」

「ドライきのみですか?」

私は鞄に入っていたドライきのみの袋を取り出し彼女に手渡した。手作りですか?と聞かれる。

「一応。きのみ育てるの趣味でね」

「ありがとうございます、大切にいただきますね」

それではまた、そう言い、薄紫かかった白の長い髪をなびかせ、去って行った。不思議な人だ、ってあれ?雪女か人間か、結局明らかにならなかった。というのは流石に冗談だが、きのみを手渡した時に軽く触れた手が氷の様に冷たくて、自分の手袋も渡したくなったのは内緒だ。



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