あなたが見えなくなる前に
コロン…
それはこの場には適切ではない可愛らしい音をたてて床に転げ落ちた。落ちたそれは仄かに寒色の光を持っている。
「皮肉な音です…」
コロン…
まただ。また私の目から零れ落ちたそれは皮肉な音を立てて落ちた。どうしてこんな風になってしまったのだろう。それを教えてくれる人は居ないのだけれど。
「私はどうして泣いているのでしょう…シーヴル…」
「しーあ…」
彼女の名前を呼べば彼女は私を見上げながら切なげに鳴いた。あなたはこうなった私を嘆いてくれているのかしら。シーヴルは私が落としたそれをペロッと舐めて顔をしかめた。
「涙の代わりに落ちているものなのですから、美味しいわけないじゃないですか…」
彼女は唸りながら、落ちているそれを足で転がしている。
「…シーヴル…止まらないんですよ。どうにかしてください…」
「…れいしーあー…」
シーヴルは私の膝のところに足を乗せて鳴いた。足元には沢山の星。
「…理由を、どうしてこうなったのか理由を…」
何故かいつからか泣きたくなって涙を流せば星が落ちるようになってしまった。普通に泣くよりも疲れてしまうし、最近目が見えにくい。
「…誰か、どうにか…して…」
ただただ泣くだけしか出来ない私、病院にも行けない、誰かに聞くことも出来ない。あるとすれば…
・・・
「…ズミさん、最近何だか泣いた時に星が出るんです…何故なんでしょう…」
「それは……あなたは、きっと恋をされているのではないでしょうか?」
唯一この地方で知り合いの彼に聞いてみたら、恋をしているのではないかと。どういうことですか。
「…恋、ですか?それはどうして?」
「…星涙、という病です。誰かに片想いをしているときに表れることがあるものだそうです」
片想い、その言葉が胸の中に響く。ああ、なるほど。納得した、それと同時に彼は私のことを何とも思っていないということ。
「…片想い、…そうなのですか。…治す方法はあるのでしょうか?」
「治す方法、確か…その相手と両想いになれば症状は回復し、いずれは完治するといったものだったと」
そう、なら暫くは或いはずっとこれを治すことが出来ないだろう。何故なら、私が好きになってしまったのはあなたなのですからズミさん。
私の見る景色が、あなたが、モノクロになる前に…どうか、治してください。