星を映して


「もう、こんな時間…」

ズミと名乗った青年と別れ新居に入ったセヴリーヌ。荷解きをし、片付けや掃除に精を出していたらいつの間にか日が落ちていた。この時間ならあの日時計をちゃんと見られるかもしれない、などと考えているとがちゃがちゃとドアノブを弄る音。

「…シーヴル?」

「しーあ…」

「外に出たいのですか?」

セヴリーヌが尋ねるとシーヴル、相棒のグレイシアは鳴いた。ドアから外を見ると、まだ二十時過ぎだと言うのに人足は少ない。セヴリーヌはストールを被り、シーヴルの後を追う。

「…シーヴル、どこに?」

シーヴルは時たまセヴリーヌを振り返りながらも雪の降る街を足取り軽く歩く。彼女は雪が降っているからかご機嫌な様子だ。

「シーヴル、今日は星がよく見えますよ…」

寒空の下では星がよく映えて見える。セヴリーヌがシーヴルに話し掛けると彼女は小さく鳴いた。

・・・

昼間はあんなにも目映かった日時計であるが夜の方が私にはクリアに見えて、また瞬く星を映している鉱石をいつまでも眺めていられる気がした。

「…星巡る、時告げの…」

「…不思議でしょう?」

「…何もかもが謎という神秘に包まれています、あなたも…」

“上手いこと言うのね”といつの間にか現れた女性が笑った。内側に宇宙が広がるマントをはためかせ、マーメイドシルエットのロングドレスを身に付けたこれまた神秘的な人だ。

「あなたのことも星が教えてくれました…ようこそ、ヒャッコクシティへ」

「…あなたは?」

「私はゴジカ、このヒャッコクシティのジムリーダーを務める者です。」

彼女に手を差し出され、私は彼女の手を取る。冷たい手ね、と彼女は私の手を両手で包んだ。

「…私は、」

「セヴリーヌ?」

「!?」

名乗る前に名を言い当てられた驚きを隠し切れずに彼女が包む手を咄嗟に引っ込めてしまう。

「白き意識の持ち主よ、あなたが来た意味を私は知っているわ…怖がらなくて大丈夫」

彼女、ゴジカさんは私を白き意識の持ち主と称した。彼女には私の正体がもうわかっているかのように。

「…私は…、何も…」

そう私が言いかけた時だった、日時計が動き出し数多の金色の輪が何か記号を持つかのような動きをし始める。

「…これは…」

「…あなたは運が良いですね、来てその日にこれが見られたんですから。」

綺麗でしょう?と問う彼女に私は頷く。

「ここに在る星があなたの行く末を見守っています。怯えないでください、星達はあなたの味方ですよ」

不思議な彼女の物言いは、明らかに私を警戒させるものに他ならなかった。だが、何故だか優しい気分にもなっていることに気付いた。

星巡る、時告げの街…きっと星はあの冬が来たる時にも告げるのだろう。

 

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