あの時の約束を


「ズミさん!」

「何でしょう?」

「すごいです、街がキラキラしています…!」

「そりゃあ電飾が付いてますから光りますよ…」

ミアレシティを歩く私達、セヴリーヌは物珍しそうに電飾が施された街並みを見て嬉しそうな声を上げる。季節は冬、当然あのイベントのために街にはあらゆる飾りが付き始める。街がキラキラしているといった言葉に対し、電飾が付いているのだから光るのは当然だと返した私に彼女は少し不満気な表情をしている。

「そういう事じゃないんですよ。電飾が付いている事は私だって分かっていますし」

「珍しい、ですか?」

少し拗ねた様子のセヴリーヌにそう尋ねる。彼女は肯定した。

「ええ、人が多い所は好みません…なのであまりちゃんと見た事はありませんでした」

「ヒャッコクシティにも少し付いていませんでした?」

「付いていましたね」

当然ヒャッコクシティとミアレシティのイルミネーションの規模の差はある。彼女はこんな大規模なのは初めてだと言いたかったらしい。

「雰囲気、ありますね。まるでデートじゃないですか」

「デートですからね」

彼女にあなたの事を支えさせて欲しいと伝えてから十日程が過ぎた。彼女がこの様な惚け方をするのは言うまでもなくわざとである。

「相変わらずその格好なんですね」

「ミアレシティですよ?」

「そうですが」

彼女が相も変わらず変装をしているのでそう言ってみたが何か問題でも?とでも言いたげな口調である。

「人目を気にせず外に出るためには必要だと思うのですが…ズミさんは不満ですか?」

「不満、ではありませんけれど…その姿のあなたにはどうも慣れないと言いますか…」

こう言っておいて、彼女に素の姿で人前に出て欲しいのかと問われると別にそうではない。ただ何というか腑に落ちない気がするのだ。

「私がこれをしないと外に出られないだけなのですから気にしなくて良いんですよって言っても納得しませんよね…」

「納得するとかしないとかではなくてですね…別に私はあなたにいつもの姿で外に出ろと言いたい訳ではないんです」

思っている事をそのまま口にした。やはり案の定セヴリーヌはいつもの笑みの中に困った表情を見せた。

「ズミさんの中でも結論が出ていない、そういう事なのでしょうか?」

「ええ、まあそういう事になりますね…」

「大丈夫ですよ。いずれ隠す必要がなくなる日が来ますから…それまでですこの格好も」

どういう事ですか?と問う前に彼女はそれまでとは打って変わった少し弾んだ声を上げた。

「ズミさん!あれスケートリンクじゃないですか?」

「ええ、この時期になると設置されるんですよ」

毎年この時期になるとスケートリンクが設置される。子供達や私達と同じ年代の大人達とポケモンがスケートリンクで滑っているのを目の前に彼女は嬉しそうにしている。

「ズミさん!滑りませんか?靴もレンタルしている様ですし」

彼女は元氷上ダンサーだ。前に叶うならまた滑ってみたいと言っていたのを思い出す。

「ここでは踊れないと思いますよ?」

「何言っているんですか、ズミさん。踊りませんよ、流石に。一緒に滑りませんか、と言ったんです」

彼女はそう言いながらまた笑う。そして、私も氷の上に立つのはご無沙汰で…なんて言っている彼女には申し訳ないと思いながらも私は返事をするために口を開く。

「私は、遠慮しておきます…」

「あら…残念です。分かりました、今回はやめておきましょうか」

彼女は私の返事を聞くとあっさりとその様に言った。彼女が滑りたがっていただけに何だか拍子抜けしそうになる。

「私に遠慮せずに滑ってきて良いんですよ?」

「いえ、デートですから…ね?私だけが楽しい思いをするのは違う気がするんです」

何だか几帳面というか、変な所で開き直られると少し恥ずかしくなる。

「そういえば今日はズミさんが美味しいガレットをご馳走してくれるとかでしたよね?」

「初耳ですが…」

「まあまあ細かい事は気にしないで、前に食べ損ねちゃいましたし…」

悪戯な表情でそんな事を言う彼女の声色は生き生きしている。

「それってあなたのせいでしたよね?」

「そうですけれど、私だって残念だったんですから…」

当の彼女はそんな事もありましたね、なんて呑気に笑っている。いつもなら痴れ者が!と言っている所だが微妙に読みづらい彼女には何を言っても無駄な気がするので言わないでおいた。

「分かりました、ガレット食べに行きましょうか」

「はい」

 

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