夕焼け色の朝


「…う、ん」

窓から射し込む日差し、それは夕日の鮮やかな朱色をしている。私の起きる時間を告げる日差し。その日差しから逃げる様に窓のある壁の反対側に寝返りをうつ。そこで漸く鈍くなっていた脳が動き始め、意識が明るみに出る様な感覚を経、目が覚める。身体を起こし傍に置いてある部屋着を手に取りそれに着替える。そして階段を下りながらまだまともに働かない頭で束の間考えを巡らせる。先程から気になっている事がある。今日は何だかいつもと違う。

「随分遅いお目覚めですね…おはようございます」

「…え、…」

何が違うのだろうなんて考えていた私に声が掛かる。そちらを見るとズミさんが新聞を広げソファに座っていた。私はそういえば吹雪の日彼を泊めた事を思い出す、それにしても…

「…ずっと、ここに?」

「ええ、あなたに何も言わず去るのもどうかと思いまして」

「それは、ご丁寧にどうも…」

彼はずっとこの家に居たと言うのか。吹雪の夜から明け方、そしてそこから一日と半日。

「そういえば、すみません。何だか勝手に色々するのも良くないとは思ったんですが…」

彼はそう言い新聞を畳み立ち上がりキッチンの方へ消えていった。少しして彼は幾つかの皿を手に私の前に現れる。

「朝食です、時間的には間食か夕食ですけれどね」

「…まあ、ありがとう…ございます」

野菜のスープとエッグベネディクト。まるでホテルの朝食メニューの様で驚く。ズミさんはあり物でこれを作ったと言うのか。そりゃあ彼はシェフなのだから出来るだろうが、まさかそれを私なんかに。

「どうしてです」

「何がでしょう」

「何故私にここまでしてくれるのですか。放って置けないなんて、こんな手の掛かる人間を相手にしていたらあなたの時間無くなっちゃいますよ」

私はこれまでにこの質問をした時に彼が返してきた答えを言わせないために先に言った。彼は屈んだ状態のまま少し息を吐き私の言葉を肯定した。

「そうですね、でも私はその時間を無駄とは思いません。誰かのためにした事が誰かの助けになったり、誰かを笑顔に出来るなら少しも苦になりません…その誰かが私の友人なら尚更です」

「…優し過ぎますよ」

「と、言ったそばからなんですけれど…あなたの事支えさせてくれませんか?その、恋人として」

「……は?」

随分間抜けな言葉が出てしまった。何故その様な流れになったのですか。どうして、私が突き放そうとしたこのタイミングで。

「…何故ですか?あなたが私に与える優しさは愛ではないと否定したのはあなたですよね」

「いいえ、その可能性に目を向けなかったのはあなたです」

確かにそれは正しかった。彼はただ“完全に哀れむ気持ちかと言われればそうではない”としか言っていない。愛だなんてある訳ないと思ったから。

「…とはいえ、愛だなんて大層な物ではないのかもしれません。あなたが哀れみだと感じるのならそうなのかも…、でも私はあなたをひとり放って置くのは嫌なんです」

「…それは今までと変わりありませんよね?」

「叶うなら私があなたの傍に居て、あなたを支えたいと思うのは…それも友人だからだと思いますか?」

その言葉を聞いて手が震え始める。もしその言葉が友人としてだったとしても私には充分過ぎるくらいだ。

哀れむ気持ちから与えられる優しさなら要らないなんて強がりと、くだらない見栄の張った言葉を言い続ける私に、彼はずっと本当はそれを望んでいないでしょう。と語りかけていた。

彼の事を好きだなんて言っておきながら、彼から目を逸らそうとしていたのは私。

「私があなたに返せる物なんてありませんし、上手くあなたに応えられませんよ…」

「その事、まだ伺ってませんでしたね…」

そういえば水族館で話した時、その話はまたにしましょう。と遮った事を思い出す。


 

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