雪が呼ぶ人


新しい地に降り立つ。この感覚はもう何度か味わっているが、何度目であっても身体が浮き立つ様な感覚を覚える。この二年の月日、セヴリーヌは追われながらも彼女なりに身を隠しつつ人と関わるのは最小限にやってきた。この地方でも、そうして過ごすのだと感じながら新たなる生活の地へと歩く。

「まさか、これ…」

そう呟くセヴリーヌの前には高さ数メートルに及ぶ雪の塊が行く先を塞いでいる。彼女はすぐにこれが雪崩で偶然に道が塞がれた訳ではない事を悟り、どういう風に行くのかも何となく理解した。が、何故かそのまま何者かが作ったであろう両脇に雪の塊がそびえ立つ、誰がどう考えても雪が雪崩落ちてきそうな細い道を進む。

・・・

「…か?」

男性の声、穏やかなテノールの声が聞こえる。義兄さんの声に僅かに似た…あなたは誰ですか?

「大丈夫ですか?」

セヴリーヌが重たい目蓋を開けると青年が彼女の肩を抱いていた。

「……まぶし…、まだ…」

陽を反射する雪の白さが眩くセヴリーヌはまた目を閉じる。

「寝てはいけませんよ。起きてください!」

「…ど、して…?」

彼に質問を投げかけたが、そこから彼が何と言っているのかがはっきりと分からない。そこでセヴリーヌの意識は途切れた。

・・・

「…こ、こ…」

次に気が付けばそこはまた真っ白な空間だった。天井も壁も白く、目に見えるものは全て白い。こんな空間、色んな文学で見るあの場所の他には思い当たらないと思いながら私は身体を起こす。

「…」

私が寝ていたベッドの傍らに置かれたパイプ椅子には金髪の綺麗な青年が足を組み寝ている。彼を起こそうかと思ったが躊躇し、実行しなかった。なんだかどうしようもなく手持ち無沙汰になり、彼を起こさないようにそっとその場を離れようとした。が、それもこの部屋の外には沢山の人が居る事を思うと実行出来なかった。ベッドに座りそれとなく窓の外の深々と雪が舞っているのを見つめる他にする事がないようだ。

・・・

「…っ」

どうやら私は寝てしまっていたらしい。身体が少し痛む、パイプ椅子で座った体勢で寝てしまった事が原因だろう。私が身体を伸ばした為にパイプ椅子がギシっと音を立てる。それに反応して、寝ていたはずの女性がビクッと身体を震わせこちらを振り返った。

「おはようございます、よく眠れましたか?」

何なんでしょう、この起きるの待ってました的な顔は。私が待っていたんですよね、彼女が目を覚ますのを。

「おはようございます、これでよく眠れる方がおかしいですよね?…って、あなた、目を覚ましたなら何故起こさないんですか?」

「それはそうですね、それは、お疲れなのだとしたら起こしてしまうのは申し訳ないと思ったので…」

不快感を顕にする私に対し、彼女はにこにこしている。

「ああ、やはり…あなたが私を助けてくれたのですね。ありがとうございます」

「…やはり、と言いますと?」

何となく彼女の喋りが気になり聞いてみた。

「目を開けた時、私眩しくて全然見えていませんでした。ただ声だけ確かに記憶していたので…」

「そうでしたか、それはそうとあなた17番道路をどういった場所かご存知で?」

一番気になっていたことを尋ねる。あの場所をどのような場所か分かっていて突き進んだのだとしたら相当な痴れ者だ。

「ぼんやりですけれど、あの場所ポケモンの力を借りて進む道ですよね?高さからするとマンムー、でしょうか?」

「この痴れ者がッ!!!!!!!!」

つい大声を出してしまいました。そんな人居るんですね。

「分かっていてそのまま突き進んだんですか?」

「ええ」

・・・

私が肯定すると彼はげんなりした様子で軽くうな垂れた。あり得ない、と思っているのだろう。

「…理由なんて知らなくて良いと思います。誰にも共感し得ないことですから…」

「そんな言い方ありますか、あなたは死ぬかもしれなかったんですよ?」

彼は真剣な表情で私に詰め寄った。

「……ええ、危機感が薄いことは重々承知しています。気を、付けますから…」

その真剣な表情を見る事が出来なくて目を逸らす。彼はこんな態度の私にこれ以上言っても無駄だと考えたのか、私から離れた。

「…何もなければ明日には退院出来るそうです。それまで大人しくしていてくださいね。」

「…はい……、」

「そういえば、あなた、この背景に溶け込んでしまうのではないかと思うくらいに真っ白なんですね」

きっと思っていた事を言っただけに違いない。だが、その白という言葉に機敏に反応し私は身体を震わせた。

「…奇妙ですか?」

奇妙だと言われるのが怖くて、先にいつも口走ってしまう。他の誰かに言われるよりも先に自分が言ってしまう事で、少なからず自衛しているつもりだ。

「奇異ですが、…とても、美しいと思いますよ。」

私の軽はずみな行動が呼び込んだ彼は、雪に埋もれた私を助けてくれた彼は、私のこの“白”を美しいと言った。

 

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