吹雪く夜は


「まさか、ここでも吹雪に遭うなんて…ズミさん今日運勢悪かったのではないですか?」

「どう運勢が悪かったら一日に別の場所で二度の吹雪に見舞われるのでしょうね」

私がセヴリーヌの家にお邪魔して色々話を伺っていたら早いもので三時間程経過していた。時は夜の七時くらいだ。そろそろお暇しようと外に出ようとしたら外が雪嵐状態だったという訳で帰れなくなってしまいました。どうしましょう。なんて考えているとセヴリーヌが

「どうぞ、遠慮しないで泊まっていってください」

と言った。いやいや、それはいくら何でも悪い。ヒャッコクシティにはポケモンセンターもあるので外を歩く事が叶えばそちらで吹雪の終息を待つ事が出来る。

「大丈夫ですよ。私は居ませんし…特に物もない部屋ですがくつろいでいってください」

私は居ない、即ちそれは先程も言っていた吹雪く日にフィンブルに意識を捧げる務めがあるからなのだろう。

「いえ、でもこの街にはポケモンセンターもありますから…」

「この吹雪の中歩いて行けますか?危険ですよ?」

「あなたこの中出歩くんですよね?」

この雪嵐の中、外に出る彼女が外を歩けるのかなんて言うものだからつい聞き返してしまった。

「ええ、ですが私は慣れていますし」

「慣れの問題なんですかね」

私がその様に言うと彼女は無理強いはしませんが動かない方が安全ですよ。私は着替えてきますね。と私に言い残すと二階へと消えていった。

十分後いつも着ている服よりも更に薄手の白いワンピースドレスの様なデザインの服を身に着け早足に階段を降りてくる。

「その格好で行くんですか?」

「ええ、いつもこの格好です」

「しかも素足で」

「ええ…靴くらいは履きますよ」

そういう問題じゃないでしょう。この人吹雪の中あのフロストケイブに行くんですよね、おかしくないですか。私の、冗談でしょう?と言わんばかりの表情を読み取ってか彼女は大丈夫ですよ、私なら。と笑う。

「ズミさん、この子達少しの間よろしくお願いしますね」

彼女は私に7つのモンスターボールが置いてある所を一瞥しその様に言う。とはいえ、セヴリーヌのグレイシア、シーヴルはモンスターボールから抜け出して私の足元で欠伸をしているのだが。

「しあ…」

「シーヴルも留守番頼みましたよ」

「しーあっ」

彼女はシーヴルの鳴き声を聞くと、にこっと微笑んだ。

「では、行ってきます…明け方頃には戻れるかと思います」

「…分かりました、お気をつけて」

「ありがとうございます」

そう言うや否や彼女は白いワンピースドレスの丈を大きく吹雪で揺らしながらフロストケイブの方へ向かって行った。


・・・


バタンとドアが閉まる音がして私は目を覚ました。どうやらソファで寝てしまっていたらしい。部屋の明かりは消えており私の身体には毛布が掛かっている。もしかしなくてもシーヴルだろう。

窓を見ても暗い、午前五時前くらいだろうか。私が寝る前までは吹雪いていたのにすっかり止んでいる様だ。

「セヴリーヌ?」

帰ってきたであろう彼女の名を呼んでみるが返事がない。その代わりにザァァというシャワーを浴びる音が聞こえる。そういえば彼女は前にそのまま寝落ちしてしまって風邪をひいていた事を思い出す。とりあえず彼女がシャワーから上がるのを待つ事にした。


十五分経たずしてひたひたと床を歩く音が聞こえた。

「…、あ、」

そこに現れたのは元々そんなにない血の気が更に引いた様な青白い顔をしたセヴリーヌだった。しかも髪から水を滴らせ、バスタオルを肩に羽織ってはいるものの下着姿である。

「…、すみません」

彼女は私を見るなりかなり鈍く自分がその様な姿である事を詫び、ふらつく足取りでそのまま階段を上がって行ってしまった。

「…別人、の様ですね」

「しあ〜」

彼女が階段を上がって行くのを見送ってからポツリと呟いた言葉に返す様に鳴いたシーヴル。まるで、そうでしょう。とでも言っている様だ。そして彼女はそこから一日と半日起きてくる事はなかった。

 

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