冬の使者の願い


私は先程の事をズミさんに話すために彼を私の家に招いた。あまり外で話す様な話題ではない。

「え、本来ならばフィンブルに捧げる意識を他のポケモンに捧げたってそれ大丈夫なんですか?」

「まあ本来なら推奨されない事なんでしょうけれど…」

そう言う私にそんないい加減で大丈夫なんですか?と尋ねるズミさん。あなた当事者ではないのに心配症ですか。

アマルルガに白き意識を捧げた事を知るのはズミさんと研究所の職員の人のみで、それを告げる相手も今の所は居ない。誰がそれを諌めるのでしょう?と言うとそれはそうですね。と一先ず納得してくれた様子。

「今の所は、という事はやはりあなたの村の人間に知られたら大変なんですか?」

「ええ、問い詰められるのでしょうね…」

「運が、良かったですね。」

そう言う彼に私はそうでしょうか。と返す。どの道知られる時には知られるのだ。それが今回ではなかっただけに過ぎない。

「問い詰められて、困る様な事はしてませんし…」

「推奨されない事なのではないのですか?」

「ええ、でもいずれはブランシュの務めとしてそういう事も盛り込まれる様な気もします…」

伝説変わっちゃったりしません?と言うズミさんに、伝説は語り継ぐ人間が居てこその伝説です。伝説を継承してゆくには多くの人の理解なくしては成し得ません。と語る。詰まる所、もし村のブランシュ一族を取り巻く人達がブランシュの力によって解決する事を求めれば断る理由はないという事だ。

「そういうものなんでしょうか…」

「…恐らくですけどね」

「とはいえ、まだそういうのは良くないとされているのでしょう?」

そう問われ肯定する私にズミさんは本当にそんな適当で大丈夫なんですか?と言いたげだ。そもそも村に帰る気のない私には関係のない例えなのだが。


「前にお話した吹雪く日にフィンブルに意識を捧げる務めがあるという事は覚えていますか?」

ズミさんにそう聞くと彼はええ。と頷く。

「フィンブル以外の白き意識を受け取る事の出来る氷タイプのポケモンには、その時に捧げる意識分の約十五分の一程度しか捧げられない制限付きです」

そんな細かい事まで分かっているんですね。と言うズミさんに私は更に話す。

「何故フィンブル以外の氷タイプのポケモンで白き意識を受け取れるポケモンが存在するのか、という事なんですが…それはフィンブルが初代ブランシュになる女性に白き意識を分け与えた理由に当たる所ですね」

「関係あるんですか?」

「ええ、その昔フィンブルが破滅の冬の惨劇を目の当たりにした時に罪の意識を覚えた事、また他のポケモン達や人間との共存を願った事が理由とされています」

案外温厚なんですねと言うズミさんに、私はどうでしょうね。と返す。フィンブルは破滅の冬を助長するポケモンである。そのフィンブルが破滅を招いた事を嘆いたとして、それは感情があるという事に過ぎない。共存を願ったのはその罪の意識を減らしたかったからなのではないかと飽くまで私は推測している。

「それである女性に白き意識を与える事で自らに干渉させ、破滅を起こさせない仕組みを作ったという訳です」

「ええ、それは分かりました。それでフィンブルはポケモン達に対して何かしたんですか?」

「いえ、フィンブルから具体的にポケモン達に何か働きかけたという記録はありません。代わりにフィンブルやブランシュの白き意識を受け取れるポケモンを存在させる事で破滅の冬を察知させる能力を備えさせたと言われています…」

それが氷タイプのポケモンの一部という事ですね?とズミさんが言う。私はそれに頷く。フィンブルやブランシュの白き意識は低温故に氷タイプ以外にこれを与えた場合凍り付いてしまう、という言い伝えもあります。と言うとズミさんは少し納得した様子で頷く。

「…では先程あなたはその本来の目的とは別の目的で使ったって事ですよね?」

「そうなりますね…時と場合に寄るという事ですよ」

ズミさんは何度も同じ様な事を聞いてくる。私がアマルルガに白き意識を破滅の冬の訪れを報せる以外の理由で捧げた事に関してはいまいち納得していないのだろう。彼は相当真面目な性格の様だなんて今更ながらに思った。

 

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