優しさが怖い


「大丈夫です、勘違いしませんよ」

悲しそうな笑みでそう言う彼女を見つめる。何故悲しいのに笑うんですか。何故そういう時も理解が良いんですか。そうある事を望む訳ではないが、少しくらい取り違えても良いだけの言葉を私は言ったのに。

「完全に哀れむ気持ちかと言われればそうではありません…私自身よく分からない感情です。ただ、あなたが一人で有ろうとしているのを見ているのは辛いといいますか…心が何だか痛むんです」

私が抱えているこの感情を言葉にするのがこんなにも難しい。言葉として口にしても何だか少ししっくりしない。

「ズミさん…優しい言葉は時として凶器です。お願いします、哀れみなら優しさを与えないでください…」

「あなたは望んでいない事を平気で口にするんですね」

哀れむ気持ちから与えられる優しさなら与えられたくない。と言うセヴリーヌにその様に言うと彼女は哀れむ気持ちはすぐに変化しますからね。と困った様に笑った。

「では愛する気持ちから与えられる優しさならあなたは素直に受け止めるのですか?」

「…どうでしょう、きっと私が育ててくれた家族の元を去った様に迷惑を掛けている事に心苦しさを感じて逃げ出しちゃうんじゃないでしょうか」

私は臆病者ですから。と遠くを見るような目でセヴリーヌは言った。

「優しさが怖いのですか?」

私がその様に問えば彼女は、ええ、とても怖いです。と答えた。優しくされたら心を許してしまう、その瞬間に裏切られるのがどうしようもなく怖いのだと。それは誰だってそうである。その様に言うと彼女は、そうですよね、と言う。

「今まで他人から受け入れられた事がなかった人間が、誰かに優しくされた時どうなると思いますか?」

「普通に考えてその人に心を許してしまうと思いますね」

「ええ、ですがそれ以上に警戒して注意深く観察するんです」

何を観察するのですか?と問えば、全てです。という答え。でも一番はこの人に依存出来るかどうか。であると彼女は言う。

「その人が依存した所で、一方的な依存にしかならないのでは?」

「ええ、そうですね。一方的な依存関係は想像するだけでゾッとします…」

それが一番私が恐れている事です。とセヴリーヌは寂しそうに言った。愛を向けてくれた人でも愛想を尽かされてしまって自分だけが依存している状態になるのが恐ろしい。と彼女は語った。

「それは他でもない私がブランシュである故に上手く愛に応えられないから、という理由もあるんですけどね…」

それはどういう事ですか?と問えばこの話はまたにしましょう。と彼女に遮られてしまった。とはいえ随分大水槽の前で長話をしてしまった為に疎らに居た人達も居なくなっていた。

 

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