見透かされる不安


「あんまり遠くに行ってはダメですよ」

私はスワンナのオアーブルにそう言うと彼は鳴き声をあげて翼を翻し夕日に染まった空へ飛んで行った。夕日がヒャッコクシティの水辺に映り、オレンジと紫の海が広がる。

先程オアーブルが私の着ている服の裾をくちばしで引っ張った。彼は散歩に出たいと訴えた。スワンナである彼の場合は飛ぶのだが。

私はオアーブルの姿が見えなくなるまで彼が飛んで行く姿を見送ってから近くにあったベンチに座る。人通りが少ないが、やはりウィッグを被らずに外に出るのは落ち着かない。とはいえ、オアーブルが急かしてきたために今はストールを被っているだけだ。

「久しぶりだね、セヴリーヌ」

突然私を呼ぶ声がして驚きながら声がした方を向く。

「…兄さん」

姉に聞いてやって来たのだろう。何の前触れもなく現れるのが兄だ。私を分かりやすく追う実直な姉のジョゼットとは真反対な兄のリオネル。彼もまた育ての家族の兄であって血の繋がりはない。彼は私の隣に腰掛けた。

「ジョゼットに聞いたよ。何故頑なに帰るのを嫌がるんだい?」

姉とは感情的な言い合いになるためにあまり本音を話せた事はない。だが兄はいつもこの様に穏やかに私に問う。それが何だが見透かされる様でいつも不安にさせられる。

「…帰ったらあの日々がまた戻って来るからです。」

「セヴリーヌは家族で暮らすのが嫌なのかい?」

そう言われシンオウ地方に残してきた父と母の顔を思い浮かべる。嫌な訳ない、だが四年前の決心は今になりより譲れないものへと変わってきている。

「いいえ…でも私はあなた達家族に迷惑を掛けながらあの地で暮らすのはとても心苦しかった…」

化け物だと呼ばれる私とその家族の待遇なんて知れている。私のせいで私の大好きな家族は沢山嫌な思いをしたに違いない。彼らはそれを言わないだけ。

「迷惑だなんて思った事ないよ、少なくとも僕はね」

「やめてください、そんな気休め聞きたくありません」

少なくとも、と言ったのは私と姉はそれが原因で溝が深まってしまったからだ。兄とは少し歳が離れている事もあり付かず離れず過ごして来た。兄はそれ以上何も言ってこなかった。代わりにこの地方はどうだい?と私に聞いてきた。

「兄さん、私、この地方に来てこの白を美しいと言ってくれる人達に出会いました…」

兄は私の答えを聞きただ、それは良かったね。と笑っていた。そこにオアーブルがバサバサと羽をばたつかせて下りてきた。

「オアーブル、おかえりなさい」

私がそう言い彼を撫でるとオアーブルは機嫌良さげに羽を広げた。

「その子は?」

「兄さんが一年半前に私にくれたタマゴから孵ったコアルヒー、こんなに立派になったんですよ」

一年半前、気まぐれに寄った地方で兄と鉢合わせた。その時兄は帰ろう。とも言わずにただ一つのタマゴを私に託して去った。理由はよく分からないが、そういう所が彼らしくて好きだ。

「そうか、この子が。」

兄はそう言うとオアーブルを優しく撫で、大きくなったね。と呟いた。

「セヴリーヌ」

「はい」

「セヴリーヌが帰りたくないのはよく分かった。だけど、一度父さんと母さんには元気な姿を見せに帰ってきてくれないかな?」

オアーブルを撫でながら兄はその様に私に言った。父と母に心配を掛けているのは分かっている、申し訳ないとも思う。分かりました。と言うと兄は私の肩をポンッと叩いて、それじゃあ。と言うと颯爽と現れたチルタリスに乗って去っていった。

兄が飛んで行った方を見つめているとまた私の服の裾をオアーブルが引っ張った。

「ご飯ですか?」

私がそう尋ねるとオアーブルは早く早くと急かす様に三度引っ張った。タマゴから孵ったコアルヒーだったオアーブルは大きくなるにつれて兄に少し似てきている様な気がする。

 

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