勢いのままに
「…うう…」
喉が渇いて痛い。瞼が腫れぼったくて何だか鈍い。私はあの後家に帰りずっと涙が流れるのをそのままに眠った。時計を見れば既に14時をまわっていた、随分寝ていた様だ。
「しーあ…」
シーヴルが私を心配そうな様子で覗き込んでくる。彼女を撫でる。
「シーヴル、どうしましょう…何もしたくないんです」
「…しーあし…」
私が喉がカラカラで声が出にくい状態でそう言うとシーヴルはその腫れた目をどうにかしなさいよ、と言わんばかりに鳴いて私の目の近くを舐めた。
「…シーヴル、ごめんなさい。いつまでもこんな状態じゃダメですよね」
シーヴルを撫で私は取り敢えず渇いた喉を潤す為に水を沢山飲み、風呂場に向かう。熱い湯に浸かってスッキリしたい気分だ。
・・・
熱い湯が気持ちいい。昨夜は少し冷えていたから尚更だ。湯船に肩まで浸かった状態で考える。リスクを負いながらも自分のしたい事をする事は思いの外悪いものではなかった。今までならリスクを背負う事が恐ろしくて避けていた道、今ならこの勢いのままやってしまいたいとすら思う。ヤケになっているのかもしれない、と自分でも思うがどうにでもなれという気持ちが私の理性を抑えに来る。決心はついた。
私は風呂から上がるなりマーシュさんに連絡をとる。
「マーシュさん、先日のお話ですが……受けさせて貰えないでしょうか。」
マーシュさんが私にぴったりの振り袖があると言っていた。マーシュさんが思い描く私を、その振り袖を通して見てみたいと思う。
マーシュさんは喜んで了承してくれた。うちがぴったりやと思う人に着てもらう方が振り袖も嬉しいと思う、とまで言ってくれた。
「ありがとうございます」
「にしても、どないしたん?急に。」
「いえ、少し思う所がありまして…」
当然だろう。この前断った話を受けさせて欲しいと言い出したのだから。マーシュさんには振り回してしまって申し訳ないと思っている、その事を言うとマーシュさんは、気にせんでええよ。と和やかに笑った。
・・・
「セヴリーヌはん、身長高いからこの振り袖ぴったりや思ったんよ。思った通りや」
「ユキメノコですね?」
「あたりや」
私はその日にマーシュさんの所に裾を調節してもらうために訪れた。私が着るならユキメノコの手の部分の様に袖を長く出来るとの事。マーシュさんはそのまま振り袖の直しに入っている。ユキメノコの振り袖を着る私を嬉しそうに見るのは勝手にボールから出たユキメノコのラウィネ。目を輝かせて見ている。
「セヴリーヌはんのポケモンなん?」
マーシュさんにそう聞かれ頷くとマーシュさんはラウィネの所に行き何やら話している様子。
「この子、セヴリーヌはんが自分と同じなのが嬉しい言うてはるわ」
「マーシュさん、ポケモンとお話が出来るのですか?」
「うちな、ポケモンになりとうて努力したんよ色々と」
マーシュさんはにこっと笑うとそう言った。ラウィネは話が出来たからか更にご機嫌な様子だ。
「この子とファッションショーに出てみいへん?」
「ラウィネ、どうします?」
マーシュさんは私とラウィネ、共にファッションショーに出てはどうかと言った。私は寧ろ嬉しい、信頼する仲間と共にファッションショーの舞台に上がれるというのだから。後はラウィネの意思次第だと思い私は彼女に尋ねてみた。すると彼女は嬉しそうに頷く。
「決まりやね」
「はい、お願いします」
「こちらこそよろしゅう」
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