僅かに残る温もりに


セヴリーヌに呼び出され仕事が終わったその足で約束のヒャッコクシティの日時計の前に行く。彼女はこの姿であなたに会うならこのくらいの時間が一番都合が良いと言った。いつもならそんな事よりも隠す事にこだわる彼女が珍しいと思う。雪が降るヒャッコクシティは夜なのもあり、やはりとても寒い。彼女はいつも通りの格好で平然としている、どうせまた羽織ってくるのを忘れたとかそんな理由だろうと思いマフラーを彼女に巻く。彼女は平気だと言うがそんな訳ない、痴れ者が!

「…それで今日ズミさんをお呼び立てしたのはですね、あなたに伝えたい事があるからなんです」

セヴリーヌは私の方を見てそう言う。直接会って伝えたい事があるだなんて、彼女らしくもないと思う。

「私、自分でもあまり信じられないのですが…あなたの事が好きなんです。」

彼女は私を好きだと言った。きっと自分でも信じられないというのは、今まで人から避ける様にしてきた私が、という事なのだろう。私はその気持ちを向けてくれた事への礼を述べる。素直に嬉しいと思う。

「…でも、私はあなたの気持ちには答えられそうにありません。」

これが好きだと言われた私が出した答えです。セヴリーヌの事を確かに知りたいと思った、だが愛という感情からは遠かった。今の私には彼女の気持ちに答えられない、そう思った故の答えだ。

「そうですか、ありがとうございます。」

私の答えを聞き彼女は微笑みを浮かべたままそう言った。彼女は笑顔のままで私と別れゆくつもりなのでしょう。それを思えば不思議はないが彼女は好きだと言ってからも、私の答えを聞いた後も、少しも笑った顔を崩さなかった。彼女はこの答えを分かっていたと言うのか。

「ズミさん、これで良いのです。何もかもが元の形に戻るだけです」

彼女はこれで良いと言う。彼女は振られると分かっていながら私に気持ちを伝えたという事なのでしょうか。

「どういうことでしょうか?」

「意味分からないですよね、それではダメですか?」

これで良い、という言葉だけが引っかかる。泣くまいとしていたのだろうが、徐々にセヴリーヌが涙目になる。

「私、悲しくて涙を流している訳ではないんですよ…気持ち的には寧ろ清々しいくらいで」

彼女は涙を流しながらも微笑みを絶やさない。彼女は悲しいから泣いているのではないと言うが、何故悲しいならそうと言わないのですか。涙は悲しくなくして出るものではないと少なくとも私は思う。彼女は気持ちを伝えられただけで良かったと言った。そして先程私が巻いたマフラーを外し、暫しの温もりをありがとうございました。と言い私にマフラーを返して来た。

「ズミさん、これでさようならです。どうか、お元気で」

彼女はそう言うと去っていった。彼女の温もりが僅かに残るマフラーを再び巻く。

・・・

帰路につきながら今までの彼女との事に思いを巡らせていた。最初は不思議な女性だと思った(今もそれがなくなった訳ではないが)、だけど彼女がしていたおかしな事のほとんどには理由がある様だった。

それにしてもである、雪に埋まってた事はどう説明するつもりだろう。下手すれば命を落としていたというのにだ。
後、彼女を見舞った時も彼女の姉が現れた時は正直言って結構驚いた。ミアレでは逃げていたのに何故今なら良いのかと。
それとあの、これで良いんです。という言葉。何がこれで良いのだろう。私に振られる事を、これで良いと言うという事はそういう結果を望んでいた様にもとれる。

「あなたは、何も説明してくれていない…」

私が小さく呟いたその言葉は誰に届くでもなく夜の寒空の中に消えた。

 

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