変化を求めるならば


甘い幻想を見ているのでは無いのかと思うのです。夢見てきた世界を生きている様に、何だかいまいち現実味が無くて。何故かというと私はカロス地方に来てから一度も人から拒まれていない。それが信じられなくて、私はここに居て良いのか自問自答を繰り返している。拒まれる事があまりにも普通の事になっていて、受け入れられると信じられない。何かあるのではないかと勘ぐってしまう。悪い癖です。

「…信じても、良いのですか…?」

「それはあれだよ、お前さん次第だよ…思い切って信じてみても良いんじゃないか?」

誰が答えるでもないふと口から漏れた言葉にまさか返答があるなんて思っていなかった為に驚き周りを見渡すとウルップさんが立っていた。

「ウルップさん、居たなら声掛けてくださいよ…」

「見た事ある人居ると思ったんだけどな、あれだよ、お前さんの名前知らなかったからよ」

しまった、またやってしまった。ここはポケモンの村、ウルップさんを探して来て欲しいと頼まれた時に一度訪れた事がある彼曰くナイショの村だ。

「すみません、私は…セヴリーヌ、といいます」

少し名乗る事を迷ったがそのまま彼に近付き遅過ぎる自己紹介をした。

「お前さん、何か迷ってるな?」

「…ふふ、分かりますか?」

まあ座ろうやと言われポケモンの村の青々とした芝生の上に座る。勝手にボールから出たシーヴルはポケモンの村に居るゴチミルと遊んでいる。

「お前さんは隠すのが上手だろうが、あれだよ…何となく行動に滲み出るものなんだよな」

「…私そんな変な行動していましたか?」

「ここは人が居ないだろ?それを知っていてこういう場所に来る人間は、あれだよ、恐らく人の目から解放されたいと願ってるんだよ」

ウルップさんの言う事に確かにと納得する。落ち着けるどこかに行きたいと思いふらふらと散歩していたのだ。道を大して知らない私が行ける場所など限られているが。

「ふふ…そうなのかもしれませんね。」

「何に迷っているんだ?あれだよ、良かったらおじさんに話してみたらどうだ?」

「…ありがとうございます。」

私はゆっくりと重たい口を開く。昔から人から逃げる様にして暮らして来た。でもそれは最近になって変わり始め、この変化が怖くて信じても良いのかどうか迷っている。と。ウルップさんはそれを静かに聞いていた。

「でもそれは、あれだよな、お前さんにとっては今までを変えるチャンスだとは思えないか?」

「…チャンスですか。」

「そりゃあ変わることは怖い、だけどな、飛び込んでみなきゃ変わらないんだよ」

それは変化を求めるならの話だ。私は変化が欲しているのか?と問うと、要らない。寧ろ変化よりも落ち着いた生活が欲しい。だが、その変化がもたらす結果次第では興味はある。

「変化、結果次第では興味はあります。でも、そんな賭けの様なものに委ねて良いのでしょうか?」

「結果は過程があっての話だ。過程という変化なくしては、結果も得られない。あれだよ、だからチャンスなんだよな」

彼の言う事は理解出来る。当たり前の事であるが、リスク無くして何かを得る事など出来ないのだから。そういうものをチャンスと呼ぶのだから。

「…リスクが大きな場合は、このチャンスを逃すべきなのでしょうか?」

「それはお前さん次第だな。逃すのも一つの選択肢だ。あれだよ、もし変化を求めた結果どうにもならなくて行き場をなくしたら、俺の所に来たらどうだ。そのやり場のない痛みを受け止めるからよ」

ウルップさんはさらりとそんな事を言う。反応を返せずに居るとウルップさんは私の頭にポンッと大きな手を置く。

「お前さんは迷子だ。早く迷路から抜け出せたら良いな」

そう言うと俺はそろそろジムに戻るな、と言い立ち上がる。私はその彼の背中に尋ねる。

「どうして、そこまでしてくれるのですか?今日まで名前も知らなかった相手にですよ?」

「…それは、お前さんが変わろうとしているからだよ。そもそも変わりたくない人間は迷わない。あれだよ、そういう人は放っておけないよな」

彼は私の方に顔だけを向けその様に言った。私は迷子、変わりたいと願うからこそ迷っている。その事実だけで決心はつきそうだ。

 

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