その表情の所以は


「姉さん、今までも何度か言った事ありますよね。私は帰りません、誰が何と言おうとも。」

私は、帰りましょう。と言った姉のジョゼットに向かってキッパリとその様に言い切る。

「セヴリーヌ、もう四年目になるのよ。あなたが失踪してから」

「何年経っても気は変わりません」

私と姉が話をしているのを聞きながらズミさんは話が見えないという顔をしている。

「すみません、ズミさん。一から説明すると色々ありまして私は四年前に育った地を、誰にも何も言わずに離れました。様々な地方を渡り歩きながらカロス地方に行き着いたのですが…心配する両親の事を思い兄と姉は私の事を探し回っているという訳です」

一からと言いつつかなり省いてそこまで彼に話し、ただし私は帰るつもりはない。という事を強調した。

「ご両親に彼女の無事は…?」

「伝えてありますよ、でも私と兄さんはセヴリーヌを連れて帰ると約束したのよ」

ズミさんの問いに対して姉は淡々と答える。兄と姉の立場的にはそうだろう、それは十二分に分かっている。だけど私はあの場所には戻れない、それを何度も伝えてきた。

「…まあ、いいわ。だけどあなたが何と言っても、現に父さんと母さんはすごく心配しているのよ。それを覚えていなさい」

姉はそう言うとズミさんに会釈をし、去っていった。私は身体の力が抜けるのを感じ、その場に座り込む。

「セヴリーヌ…大丈夫ですか?」

「…はい。お騒がせして、すみません。」

・・・

「姉はああいう人です。とても優しくて頼りになりますが、頑固で、いつも言いたい事だけ先に言うんですよ…」

彼女は私にポツリポツリと家族の事について語り始めた。姉は頑固だと彼女は言うが、それはきっと彼女も同じではないかと思ったが言わずに話を聞く。

「見た所、全然似ていませんでしたね、あなた達姉妹は。」

私がそう言うと彼女は頷いた。セヴリーヌと彼女の姉、ジョゼットは頑固な面は似ているが雰囲気や見た目は全く違った。ジョゼットの方が明らかに顔立ちがハッキリしており、少しキツい印象を受ける。対してセヴリーヌも彼女と同じく多少釣り目がちであるが、キツい印象はなく自信なさげに下がり気味な眉の影響で寧ろ穏やかな印象すら受ける。見た目は言うまでもなく、真っ白なセヴリーヌに対して彼女の姉は私達と何ら変わりはなかった。

「…ええ、姉とは言うものの血の繋がりはありませんから。」

「…と、言いますと?」

聞いても良いのか少し憚られたが、話の流れを止めてはいけない様な気がした。

「両親、兄とも血の繋がりはなく、言うなれば彼らは私の育ての親に当たります。」

「そう、なのですか…」

「ええ、生みの親は私が三歳くらいの時に私を捨てました。彼らが私を拾い、温かな家族の中に迎え入れてくれたおかげで今の私が在ります。」

彼女の話しぶりからして育ててくれた親には本当に感謝しているのだろう。心配掛けている事も分かっていて、それに対しての心苦しさもきっと持っている。なのに頑なに育った地へは帰らないと言う。勿論何か大きな理由があるのだろう、私に分かるのはここまでだ。

「昔は兄や姉とも、もっと仲良かったんですけどね…」

「あなたが失踪したから今の様になったのではないんですか?」

遠慮すべきだと思ったが、彼女の少し寂しげな表情が気になったので込み入った質問を投げてみる。

「いいえ…すれ違いはもっと前からあったんです。勿論私が失踪した事も理由の一つなのかもしれませんが」

「そういうものなのでしょうか…」

掛けたい言葉はあるのだがそれが言葉となって口に出てこない。こう、兄弟姉妹の絆はそう簡単には切れる事などないと思うが、それを上手く言葉に出来ない。

「ええ、私の場合は、そういうものなのです…」

彼女は、私の場合は、を強調する様に言った。彼女は寂しげであるのに進んでひとりであろうとしている様に見える。この矛盾した状態を説明出来るだけの何かがあるのかもしれないと、この時ようやく彼女が醸し出す不思議な雰囲気について考えを巡らせたのだった。


 

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