じんじんと頬は痛むけど、触れて来た君の掌の方がずっと熱かった。胸の奥底で燻る熱がどうにも情けない。ねえだから、頼むから、そんなに悲しそうな瞳を僕に向けないでくれ。
まだ上手く回転しない頭を持ち上げて、温いベッドから抜け出す。爽やかな朝日に照らされた彼の寝顔はさながら天使のよう、だなんて考えて、思わず失笑する。
未だ至る所に痛みの残る身体に冷たいシャワーを浴びせる。夜と朝の境界線を身体に引くようにして。叩かれた直後はあんなに熱かった頬も今はすっかり腫れも引いていて、まるでそんな非道な事実など無かったとでも言うようだった。散々にされた腰や蹴られた箇所は、流石に生々しい程に後を引いているけれど。
下着だけ身に纏って、彼の眠る寝室に戻る。起こさないようにそうっと、昨晩から床に散らばっていた服を拾ってリビングに戻る、つもりが、彼の間抜けた声に引き止められる。
「ん、あー…、はよ」
僕もおはようとだけ返すと、ベッドからはみ出た腕にちょいちょいと手招きをされた。寝呆けているのだろうと思いつつも近付いてやると、ぐんと腕を引っ張られてベッドに倒れ込む。
「……何」
「もーちょっと、寝よ」
頭を撫でる手の平は大きくて温かくて、酷く優しいのだ。手の平だけじゃない、声も、視線も。そういえばこの間の泥酔した彼もこんな感じだったなとぼんやり考えながらその手の平を甘受する。
君は、優しいね。手の平が、ではない。声でも視線でもない。
「……、ねえ」
見つめれば、今にも崩壊しそうな、脆く、儚い表情。揺れる瞳に加虐心など欠片も含まれてはいない事を。
それでもまた夜が来れば、優しい君はぎらつかせた瞳を僕に向けるのだろう。それが僕を一生抜け出せない泥沼に突き落としている事を、知っているのだろうか。胸元に顔を寄せて、君に悟られないよう、一人冷たい涙を流した。
言わないで、本当はわかっている。だからまだ貴方の口からは言わないで。