酸欠様提出作品/秋山


ただ歩いた。アスファルトに足跡を焼き付けるように。先を行く彼女を呼べば長い髪が翻る。うつくしいそれは遠く、手を伸ばしても届かないと、僕はずっとそう思っていたんだ。


喉まで来た言葉を飲み込んで、意味も無く笑う。そうすると彼女も笑うからと、何度か使った手段だ。彼女の笑顔が見たいから。
しかしもう今となっては時間が無い。そんな事をしている場合ではないと分かっているのに、どうしてもその言葉が出て来ないのだ。降りゆく雪に溶けいってしまいそう、そんな非現実的な事を思わせる程に、彼女の姿は儚かった。実際、明日のこの時間、彼女はもうここには居ない。その苦過ぎる現実が、更に彼女を非現実的な存在に仕立て上げているのかもしれないと、そこまで考えた所で彼女に名を呼ばれ、漸く顔を上げる。

そうして告げられた、本来こちらが言う筈だった言葉に、やはり僕は後悔した。
もう何をしても遅いと、分かっていた筈なのに。もう今更何が叶ったって、意味の無い事だと分かっていた筈なのに。手を伸ばせば確かに触れる。溶けいったりなんてしない生身の感触がこの手に在る。
手を伸ばしても届かないと、僕はずっとそう思っていたのに。

後戻りさえ出来ない現実が、今目の前に、確かに在った。
眩しすぎた


 
2011/03/02

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