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颯斗くんと隆文くんが喧嘩しました。
「…………ふん」
「…ちっ」
目が合う度に二人は数秒間睨み合っては、すぐに視線を外します。彼らは席が近いので、何回もそんなやり取りをしています。今日の朝からずっとです。あんなに仲が良いコンビなのに、これは珍しいです。いったい、何があったのでしょうか。
「…………はあ」
廊下側に位置する自分の席からそんな実況を(心の中だけで)して、とりあえずため息を一つつく。他人の喧嘩に口出しはしたくないけど、あの二人がいつまでもあの調子だとなあ……
「――よし。ここは一つ、あたしの出番かな」
携帯を取り出し、メールを作る。そしてそれを間を置いて二人に別々に送信…っと。
二人が携帯を開いたのを確認したあたしは、こっそりと教室を後にした。
* * *
「…………で、どうしてここにあなたが?」
「それは俺の台詞だってーの。…名前に呼び出されたんだけど?」
「おや、奇遇ですね。僕も名前さんに呼ばれたんですよ」
「ほーう?」
三人分の飲み物を抱えて急いで屋上に行くと、穏やかな笑顔(何やら黒いものが見えるけど)で睨み合う颯斗くんと隆文くんの姿があった。
「はい、そこまで!!…とりあえずこれでも飲んで落ち着いて!」
不本意そうな二人を引き離し、それぞれの手にパックを握らせる。怒りっぽい時には甘いもの+カルシウムだよね!ってことでいちごオレですよ。
「あの、これは……」
「うん?いちごオレ。美味しいよ?」
二人にベンチに座るよう手振りをして自分も後に続く。そしてストローを外して差し込んだ。一口飲むとかなり甘ったるいフレーバーが広がる。うーん、やっぱり甘いものはいいねぇ。
「……すごいよね」
二人も飲み始めたのを気配で感じながらあたしは続ける。
「もしかしたらあたしたちは、一生話すことも、こうして授業をサボってジュースを飲むこともなかったんだよ。……この国で皆同じ年に生まれて。やがては星の数ほどもある高校の中から星月学園に進路を決め、その中の様々な学科の中から神話科を選んだ。……そしてあたしたちは出会った」
遠くで、次の授業開始を告げるチャイムが鳴ったが、誰も立ち上がる素振りは見せなかった。
「それって、奇跡に近いと思わない?」
そのまま三人で静かにいちごオレを飲む。どこかで小鳥たちがさえずっている。頭上に広がる空は青く輝き、一つの雲も見当たらない。
ずずっと誰かのいちごオレが残り少ないことを知らせる。こういうパック飲料って、中味が少なくなるにつれて甘さが増していくような気がするのは……
「……すみませんでした」
「俺も、…悪かった」
きっとあたしだけじゃないはずだ。
その手に掴んだキセキは、ずっと続く
(…結局、二人の喧嘩の原因ってなんだったの?)(あーそれなー…)(先日犬飼くんに神話の本を貸したのですが、返した返してないの言い争いになってしまいまして)(へー…………あ゛)(どうかしましたか?)(もしかしてそれって、ブルーブラック色の表紙?)(ええ、そうですが)(…………ごめん、たぶんその本あたしが持ってるわー)((は))(前、みんなで資料持ち寄って課題やったでしょ?その時に図書館の本だと思ってそのまま持ち帰っちゃってたんだ……ごめんなさい!)(…では僕らの言い争いは、)(ただの無駄だったっつーことだな)(ごごごめんなさい!!ジュース奢ったからチャラにして!!)(…まったく、あなたという人は。……でも、)
((いろいろとありがとうございました。これからもよろしくお願いしますね))
あとがき
10000hit、まゆ様リクエストの二年主で神話科組とサボるお話…でした。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ございません<(_ _;)>
まったりな話を目指したのに……どうしてこうなった……
要するに、『人の出会いは貴重なものなんだよ、だから一度気があった相手同士、お互いを嫌い合うより早く仲直りしようぜ!』っていうようなことを言いたかったんです。私が(←)
このような感じでいかがでしょうか。書き直し要請や苦情はいつでも遠慮なくどうぞ!
それでは、まゆ様。
リクエストありがとうございました!