まるたさんから頂きました!
クリスマスと天邪鬼と鈍感


「御機嫌よう、ドン・ボンゴレ」

扉の閉まった執務室に、霧のように現れた骸はにこやかな笑みを向けた。
ツカツカと綱吉のデスクに歩み寄り、書類の上に分厚い封筒を無造作に重ねる。
そんな骸を一瞥して、綱吉はすぐに手元の書類に視線を落とした。

「あー、御機嫌よう。あと追加の書類ありがとう」
「クフフ、お礼なんていりませんよ。お仕事、溜まってるみたいですね」

綱吉のデスクの上に堆く積まれた書類を見て、骸が楽しそうに笑った。
それに綱吉が口の端を引き攣らせる。

「お陰様でな。なんでこの時期に溜めて出すんだよ?」

執務室の窓から見下ろせば、街は華やかなイルミネーションに彩られていた。
それは今日がクリスマスであるからで、そこら中に仲睦まじいカップルやら家族やらが溢れかえっている。
骸が一気に提出した溜めに溜めた書類の処理に忙殺され、殺伐としているこの部屋とは真逆の光景を想像して、綱吉は大きく溜息を吐いた。

「君がイチャついてるカップルを見て傷付かないようにという僕の配慮ですよ」
「余計なお世話だ!!」

綱吉が怒鳴り返すと、骸が心外そうに顔を顰めた。

「なんですか、人が折角気を利かせてあげたというのに。どうせ君まだ恋人いないんでしょう?」
「い、いないけど・・・。でも他のカップル見たからって嫉妬したりしないよ!!」
「どうでしょうねぇ?」
「だ、大体骸だって恋人いないんだろ!クリスマスにこんな所来たりして!!」
「クフフ、まあ、恋人はいませんね・・・」

おかしそうに笑う骸を不審そうに眺めていると、懐から可愛らしい封筒をいくつも取り出した。
それを綱吉に見せ付けるように、口元で扇子のように広げる。

「それ・・・」
「クフフフフ、さて誰の所へ行きましょうか?」
「おっ前それ自慢しに来たんだな!?性格悪っ!!骸性格最悪!!」

ヒラヒラと揺れる封筒の束は、どう見てもクリスマスのお誘いだ。
それがパーティーなのかデートなのかは分からないが、封筒の様子から見るに骸に好意が有るのは間違いない。
椅子から立ち上がって骸を批難する綱吉にニヤニヤとした笑みを向けながら、骸が封筒の扇子を翻す。

「おやおや、嫉妬なんてしないんじゃなかったんですか?」
「嫉妬じゃない!ただ骸を物凄く殴りたいだけだ!!」
「それを嫉妬って言うんですよ」
「うるさい!もうさっさと行けよ!!」

シッシッと手を動かす綱吉に笑って、骸は大袈裟に肩を竦めた。

「自分がこういうの貰えないからって、僕に当たらないでください」
「な!・・・オ、オレだって貰ってるよ!ただ仕事が有りすぎて行けないだけだ!!」
「・・・ほう」

綱吉の言葉に骸が目を細めた。
急に空気の変わった骸に、綱吉が少し怯む。

「な、なんだよ・・・」
「君にクリスマスのお誘いをする物好きな人間もいるんだな、と思いまして」
「物好きってなんだよ!?」
「で?どなたなんです?」
「・・・・・・」

綱吉の視線が部屋の隅へ泳いだ。
それを不審そうに見詰めて、骸が口を開く。

「ボンゴレの人間や、友達は無しですよ?」
「う゛っ・・・」

骸の言葉に肩を跳ねさせた綱吉に、骸がにんまりと笑った。

「やっぱり僕に当たってたんですね。そうです、君がモテる訳が無い」
「ああもう!!そうだよ!!オレは自分でもビックリするくらいモテませんよ!!悪いか!!」
「いえ、全然」

キッパリと否定した骸に綱吉がきょとんとした。
頭にクエスチョンマークを浮かべている綱吉に骸が柔和な笑みを向けると、綱吉の頬が僅かに染まる。

「僕、下を見下して伸びるタイプなんで」
「帰れ!!」

綱吉が勢いで投げてきたペンを骸が人差し指と中指で挿んで受け止めて、クルッと回す。
綱吉の方へペンの頭を向けて差し出すと、綱吉はそれを渋々受け取った。

「君のクリスマスの予定を潰してしまったのは僕ですし、お仕事お付き合いしますよ」
「いいです。いらないです」
「クフフ、まあそう遠慮せずに。実際、これを断る口実も欲しかったんです」

バラッと骸の手から封筒が落ちた。
それを何でも無いように踏みつける骸に綱吉が目を見開く。

「お、おい骸・・・!」
「興味の無い相手にこんなもの貰っても嬉しくありません。しかし僕にも体裁というものが有りますし、これらも重要な情報源になり得ますから無下にも出来ない」
「・・・」
「ならば出来るのは、取り敢えず気持ちは受け取った上で丁重にお断りすることです。それには仕事が一番都合が良い」
「お前・・・」

綱吉の呆れた視線をものともせずに、骸が微笑む。
その顔に脱力して綱吉は椅子に戻った。

「オレまで巻き込むなよ・・・」
「いいじゃないですか。これで君の取り巻きや友人も君なんかではなく、恋人とクリスマスを過ごせることになったんですから。むしろ感謝してほしいくらいです」
「なんかその言い方だとオレ超可哀想なんだけど・・・」
「そんな超可哀想な君の為に僕がケーキを用意してあげました」
「ホント!?」

パチン、と骸が指を鳴らすとデスクの前の応接用の机の上に豪華なクリスマスケーキが姿を現した。
様々な果物や飾りが施されたチョコレートケーキに、綱吉の目が輝く。

「うわー!すごい!!美味しそう!!」
「美味しいですよ。僕の一押しのお店ですから」
「ホント!?じゃあ早く食べよう!!」

時々骸の持ってくるお菓子は、どれも他とは一線を画する味の物ばかりなので綱吉は大好きだった。
アトランダムに持ってこられるそれを綱吉は楽しみにしている。
何度お店を訊いても骸が一向に教えてくれないので、骸が持って来てくれるの待つしかないのだ。
中でも骸の一押し系は絶品なので、綱吉は急いでソファに向かう。
座るとすぐに骸がケーキを切り分けてくれた。
丁寧に切り分けられたそれをフォークで掬って口へ運ぶ。
とろけるような舌触りと、甘すぎないケーキに綱吉の頬が緩んだ。

「おいしい!!」
「クフフ、それは良かった」

いつの間にか淹れたのか、紅茶を綱吉の前に差し出しながら骸が微笑んだ。
それに微笑み返して、綱吉はケーキを食べることに集中する。
暫く無言でケーキを食べ続けていた綱吉が、ふとフォークを動かすのをやめた。

「なんか、あれだね」
「なんでしょう?」
「よく考えたらクリスマスに男2人で何やってるんだろうね、オレ達」
「僕は満足ですけどね」
「え?」
「ケーキの話です」
「あ、そう」
「・・・・・・納得するんですか・・・」

嬉しそうにケーキを頬張る綱吉の横で、素直になりたいのになりきれない骸が頭を抱えていた。

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