11/27はいいツナの日!
Melt



1.朝 目がさめて

「ツナ、起きろ」
「あと5分……」
「それもう5回目。おーきーろーって!」
「んー……」
「………」
バサッ、という音を立てて布団が捲れる。体を覆っていた暖かいものが急に無くなって、冷たい外気に触れたツナは跳ね起きた。
「さむっ?! 綱吉! 何すん……あれ?」
何すんだよ、そう言い切る前に綱吉に対して違和感を覚えた。
「おそよう、ツナ」
いつもどおりの綱吉。だが何かが違う。そう感じたツナは、双子の兄を穴が開くほど見つめた。
「あっ、前髪切った?!」
「正解、よく分かったじゃん」
「いつもとフンイキ違うなーって思って! どうしたの?」
ツナが小首を傾げて訊ねれば、綱吉が嬉しそうに笑って答えた。
「ツナにそう聞かれたくて」
かあああとツナの顔が朱に染まる。思わず頬を抑えていた。
「ツナ、今日出掛けない? 母さんに買い物頼まれたんだけど」
「行く! やば、オレ着替えなきゃ」
箪笥からTシャツと綱吉が着ているのと同じパーカーとズボンを取り出し、いそいそと着替え始めた。


2.昔と何も変わらない

奈々から預かった買い出しリストと「ちょっとだけなら遊んで来てもいいわよ」と多めに貰ったお金を入れた買い物バッグを持って、2人は町に繰り出した。
外は長閑かに晴れている。
「綱吉、まず何処から行くの?」
「取り敢えず野菜、ランボ達のおやつとリボーンのコーヒーから。つーかブドウ飴終わるの早過ぎるだろ」
1日にいくつも菓子を消費する小さな居候の姿を思い出してツナも失笑を零す。
「ランボよく食べるもんなー」
「ほどほどにしないと虫歯になるぞって今度言ってやるか」
ほとんど表情も変えずにそう言うから、冗談に聞こえなくてツナは吹き出した。笑いながらそうだねと同意すると綱吉が訝しげに見つめてくる。
「綱吉ってあんまり表情変わんないからさ、そういう事言うとちょっと面白いなって」
「……そう?」
「うん」
よく分からないと言いたげな顔をする綱吉。説明を求めようとツナを見ても笑って首を振るだけ。意図の分からない仕草だったが、ツナが先に行ってしまうので、
(よく分からないや)
と早々に自己解決してツナを追い掛けた。深く考える事は苦手なのだ。
「ツナ! 先に行くなって!」
「綱吉が来ないからだろー?」
ツナが走りながら後方を見る。嫌な予感がした。
「ツナ、後ろ向いて走ると転ぶ……」
「うわっ?!」
「だから言ったのに……」
予感は的中。前も足元も見ていなかったツナはバランスを崩し、躓いた。綱吉が駆け寄る。
「大丈夫か?」
「ごめん、平気だよ」
立ち上がったツナのズボンの膝を甲斐甲斐しくはたいてやる。
「昔はよくああしてやったよな」
2人並んで歩き出しながら綱吉が呟く。ツナも懐かしいと思いながら同調する。
「そうだね。昔から綱吉に助けてもらいっぱなしだったなぁ、オレ」
「オレはツナが頼ってくれて嬉しかったけど」
「んなっ! は、恥ずかしい事言うなよもう……」
何の臆面も無く言われてツナは頬に紅葉を散らした。綱吉が好きだからこそ、そういったツナを意識したような事を綱吉に言われると照れてしまうのだ。
因みに綱吉はそれを知りながら敢えてそういう事を言っている節がある。

――可愛い。大好き。愛おしい。この愛で潰してしまいたいぐらい、アイシテル。

「ツナ、行くぞ」
「あっ、待ってよ綱吉!」
赤面しているうちに今度は綱吉が先へ行ってしまったので小走りで追いつき、買い物リストを制覇すべく先ずはスーパーの自動ドアをくぐった。


3.嫉妬するだろ

粗方の買い物が済み公園の付近を通り掛かると、ポップに塗装された車が停まっていた。クレープの移動販売車だ。視界にそれを認めたツナの瞳が輝いた。
「綱吉、母さんから多めにお金貰ったって言ってたよね。クレープ買おう?」
「いいけど」
ツナに催促されて綱吉は苦笑いを浮かべながら車へ歩み寄った――その時。
「あ、」
「おや」
「うわっ……骸………」
知った顔を見つけたそれぞれは正に三者三様のリアクションを取った。鼈甲色の瞳は片眉を上げただけで特にそれ以上は無く、紅と蒼の強烈なオッドアイは楽しそうに細くなり、大きな琥珀色の眸は不快そうな色を浮かべた。
「奇遇ですね。デートですか?」
「いや、デート兼お遣い。……お前はクレープ食いに並盛まで来たのか?」
警戒心を露にするツナの代わりに綱吉がいつもの無表情で惚気る。それから骸の手の中にあるチョコレートソース掛けのクレープを見て疑問をぶつけた。
「クフフ、僕じゃなくて犬がクレープ食べたいと言ったのでね。決して僕が食べたかった訳じゃないんですから、勘違いしないで下さいね!」
(お前が食べたかったんだな)骸があまりにも嬉しそうに言うからそう思ったが、言っても必死に違うと言い張るのが目に見えていたから黙っておいた。多分横にいるツナもジト目になっているに違いない。
「オレ達もそこのクレープ買おうと思ってんだけど、美味い?」
「ええ、どれも美味しいですよ。僕は特にチョコレートのが好きですが」
((コイツ……何度も食ってンのか………))
何だか骸が友達に人気の店の話をするミーハーな女子高生に見えなくもない気がした。キラキラしたオーラが見えるんじゃないかと思う。
「綱吉、早く行こ?」
骸と綱吉がずっと話しているのが気に食わないのか、ツナが綱吉の服の裾を引っ張り催促する。綱吉も頷いて話を切り上げる。
「ありがと。じゃ、クローム達にもよろしく」
「ええ。僕もこれで失礼します、綱吉くん、ツナくん」
骸が去るとツナが露骨に溜息を吐いた。ツナはずっと骸に苦手意識を抱いている上に、骸と綱吉の仲の良さに嫉妬しているのだ。
「そんなに骸が嫌いか?」
「うん、あんま好きじゃない。綱吉を盗られた気分になるんだよね」
比喩でも何でもなく唇を尖らせて言うツナ。その少し寂しそうな眼差しが綱吉は好きだった。それは、ツナが自分だけを愛してくれている事の証だから。
「そうやってオレの事想ってくれてるんだって思うと嬉しい。大丈夫、オレが好きなのはツナだけなんだから。機嫌直せよ。クレープ食べるんだろ?」
「……っ」
伊達男さながらに囁かれ、ツナは恥ずかしそうに俯きながらも頷いた。


4.はんぶんこの傘

クレープはそれぞれ別の味を注文し、2人で食べ比べした。骸の言うとおり、どちらも美味しかった。それから些か曇ってきたので雨が降らないうちにと本来の目的である買い物を再開した。

全ての買い物を終えて店を出れば案の定、雨が降り出していた。随分前に降り始めたのか、既に土砂降りになっていた。
「あー! 降ってるー……」
ツナが溜息を吐く横で綱吉が何も言わずに折り畳み傘を開いた。奈々が持たせてくれたオレンジ色の可愛らしいカエルの傘。敢えて緑ではなくオレンジを選んだのは奈々の拘りらしい。
「ツナ、帰るぞ」
さりげない仕草で傘を差し出すと、ツナの表情がパッと輝いた。先程まで落胆していたとは思えないほどだった。
「相合傘ってなんか照れるね」
はにかみながらツナが傘の左側に入り右手で骨を握る。綱吉もツナが濡れないように細心の注意を払いながらツナの手のすぐ上あたりを握った。
「じゃ、帰るか」
「うん」

――このまま時間<とき>が止まってしまえばいいのに。雨だって止まなくていいから。

兄弟は、手を繋がなくとも幸せそうに傘の中でぴったり寄り添いながら帰路を急いだ。


10.12.5


いいツナの日にアップしたかったけど書けなかった…
ツナツナ難しいです。ツナの方がすぐにキャラ崩壊する(´Д`)
突っ込んでくれない、綱吉にデレデレで妙に幼くなる…etc
最も力量不足を感じます……;
もっと頑張ります><