おじいちゃんに任せるとこうなる
「ジョットさんは、デイモンさんと付き合ってるんですか?」
「何だ?突然」
ベッドの上でクッションを抱えて丸くなっている綱吉に、リングから出ていたジョットは驚いたような視線を向けた。
熱心にやっていたゲーム機を手放して、綱吉の傍に寄る。
「綱吉は、オレと付き合いたいのか?」
「何でその発想に行くの!?違いますよ!!」
ばふばふとクッションを殴りながら綱吉が否定すると、ジョットが肩を竦めた。
何もそこまで否定しなくても、と思う。
「オレには、ちゃ、ちゃんと好きな人が・・・」
「ああ、お前の霧な」
言ってやると、綱吉の顔がボフンと音を立てて赤くなった。
ジョットがクスクスと笑って首を傾げる。
「霧とどうかしたのか?」
「え?」
「綱吉がそんなことを言うんだ。何か困ってることがあるんだろう?」
色恋沙汰の話は、普段の綱吉だったら絶対と言っていい程しない。
それを会話に出してくるということは、それ関係で何か困ったことがあるということだ。
可愛い孫に頼られて、自然とジョットの気分も上がる。
ジョットの促すような視線に見詰められて、綱吉がぼそぼそと喋りだした。
「その、む、骸が・・・」
「霧が?」
「あ、会う度に・・・き、キスしてくるんです!」
言っちゃった!と頬を真っ赤にして俯く綱吉の横で、ジョットはポカーンと口を開けた。
「・・・何を言ってるんだ?」
「は?」
「お前達付き合ってるんだから、当たり前だろう?」
「つき・・・!!」
湯気が出るんじゃないかと思うくらい、綱吉が真っ赤になった。
初心すぎる孫に苦笑して頭を撫でるが、綱吉はその手をガシッと掴んだ。
「で、でも!会う度ですよ!?会う度に毎回!!」
「いや、するだろう」
「ジョットさんの想像だと『ちゅっ』くらいかもしれないけど、そんな可愛いもんじゃないんですよ!?」
「オレの想像では舌を使ってるが?」
「う、あ・・・そ、それ、です・・・・・・」
急に勢いを無くした綱吉が、赤い顔のまま俯いた。
ついでに力の無くなった綱吉の手から、ジョットの腕が離れる。
解放された腕を使って、再度ジョットが綱吉を撫でた。
「そんなに変か?」
「だって毎回毎回、ちゅうちゅうちゅうちゅう、タコの吸盤かっていうくらい吸い付いてくるんですよ?」
「・・・・・・惚気か?」
「な!?ちが!!」
綱吉が顔を真っ赤にして否定するが、ジョットの耳にはもうただの惚気にしか聞えない。
恋人に大層愛されているらしい綱吉とは違って、自分はストレートな愛情表現を受けていない。
ジョットの想い人はツンデレを患っているので、捻じ曲がった愛情表現しか出来ないのだ。
そんなジョットにとって、今の綱吉の発言は羨ましいものでしかない。
知らず目が淀んでしまうのも、責めないでほしい。
「オレ、ホントに困ってて・・・!」
「慣れろ。ただの愛情表現だ」
「うう・・・」
バッサリ切られて、綱吉は口を噤んだ。
そのままクッションに顔を埋める姿を見て、ジョットが流石に大人気無かったかと思う。
「綱吉はジャポネーゼだしな。ストレートすぎる愛情表現に慣れてないんだろう」
ジョットの血が入っているとは言っても、もう殆ど名残程度だ。
生まれ育ったのも日本だし、綱吉の性質は典型的な日本人のそれだ。
恋人に対して「愛してる」の言葉1つだって、碌に言わないのだろう。
「まあ、照れずともその内慣れるさ」
「そうかなぁ・・・」
「そうだとも」
自信無さ気に沈む綱吉を元気付けるように、ジョットは極めて明るい声を出した。
「それに、そういう初心な反応も、相手を煽っていいだろう」
ジョットの言葉に綱吉がことん、と首を傾げる。
「あおる?」
「言われないか?」
ぶんぶんと首を振る綱吉にジョットが目を細めた。
「ほお・・・」
「ジョットさん?」
綱吉は本当に真っ白なのだなぁと思うと同時に、ジョットの心に悪戯心が湧く。
人を弄りたくなるのはジョットの性なのだ。
「綱吉」
「はい」
呼べば、素直に返事を返す綱吉にジョットはほくそ笑んだ。
「お前の霧は、イタリア育ちだったか?」
「うーん・・・多分そうです」
骸はあまり自分のことを話さないから、正確なところは分からないが多分そうだろう。
綱吉が答えると、ジョットは難しい顔をした。
「ならば、そうは言っても綱吉も頑張らなくてはいけないかもな」
「どういうことですか?」
「イタリア育ちなら、気質もイタリア人と同じだろう。そうなると、お前の愛情表現では足りないと思っているかもしれない」
ジョットの言葉に綱吉がショックを受けたような顔をした。
吹き出しそうになるのを、全力でこらえる。
「綱吉さえ良ければ、オレがアドバイスをしてやっても構わない」
「え?」
「どうする?やってみるか?」
綱吉の瞳が迷うように揺れた。
視線をいくらか彷徨わせた後、ジョットを真っ直ぐ見て頷く。
「お願いします」
「よし、任せておけ」
簡単に釣れた綱吉が可笑しくて堪らないが、ここで笑ったらもっと面白いものが見れなくなる。
Gに絶交をされそうになった時のことを思い出て必死に笑いを逃がしながら、ジョットは綱吉にアドバイスと言う名のネタを仕込みだした。
「どうぞ」
「あ、ありがと・・・」
遊びに来た綱吉の前に紅茶を出した骸が、綱吉の正面に座った。
綱吉が紅茶を飲んだのを見て、自分もカップを口元に運ぶ。
すると、綱吉が徐に口を開いた。
「あ、あのね、骸・・・今日は、骸に食べて欲しいものがあるんだ」
「おや、君が御茶請けを持ってくるなんて珍しいですね。何です?」
「うん・・・・・・あの、オレ、なんだけど・・・」
「ブッ!!」
「うわ!?汚っ!!」
思わず紅茶を吹き出してしまった骸を綱吉が咎めるように見たが、骸はそれ所ではない。
「ど、どうしたんですか君!?頭でも打ったんですか!?」
慌てて綱吉の頭を触ろうとする骸に綱吉がムッとする。
「頭なんて打ってないよ!」
「いえ、でも、頭を打ちでもしないと君があんなこと言うわけ・・・」
「何、骸はオレのこと食べたくないの?」
「まさか!!」
全力で否定してきた骸に少し引きつつ、綱吉が骸の手をきゅっと握る。
「オレ、骸になら食べられてもいいよ・・・」
「つ、なよしく・・・」
「ねえ、骸は、オレのどこを食べたい?」
「ああ・・・!」
この日をどれだけ待ちわびたことか、と骸は幸せを噛み締める。
しかし頭のどこかにいる冷静な自分が、彼はこんなことを言う人間だったろうか、と問いかける。
よく見れば、綱吉は頬も染めずにこんな台詞を言ってのけている。
どうもおかしい。
「・・・綱吉君、それ、誰かに吹き込まれたんですか?」
「あ、やっぱり分かる?」
「はああぁぁ・・・」
骸が溜息を吐きつつ、盛大に脱力した。
地面に蹲る骸を見て、綱吉がオロオロとする。
「む、骸?大丈夫?」
「・・・君にそんなくだらないこと吹き込んだのは誰です?」
「え?ジョットさん」
「だと思った!!」
殺す。
あの男、死んでるけど絶対殺す。
僕の日々の頑張りを踏み躙りやがって!!
と、心の中で繰り返しながら骸は拳を握った。
綱吉が心配そうに見ているが、気を配ってあげられる余裕が無い。
「骸?」
「綱吉君、あの男は嘘しか言いません」
「そ、そうなの?」
「そうです。だから、今後一切、あの男の言葉に耳を傾けてはいけません。いいですね?」
「う、うん!」
骸に凄まれて、綱吉はこくこくと頷いた。
なんだか機嫌が悪い。
綱吉は骸を刺激しないように、大人しく座って紅茶を啜ることにする。
その一方で、リングの中ではジョットが大笑いしながら次の策を練っていた。
た、誕生日の午前0時ぴったりにまるたさんから頂きました…!(//人//)
リクエストではなくて完全にまるたさんの意思で書いて下さったとか幸せすぎる私!
まるたさん、本当にありがとうございました!゚*。(*^▽^*)。*゚
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