だけど本当は、 03..


10月13日。今日はリボーンの誕生日だ。綱吉は朝からその当事者の華麗なる跳び蹴りによって起こされた。
「おい、ダメツナ。起きろ」
「痛って! なんだよ、朝っぱらから……」
綱吉は思い切り蹴られた細腰を擦りながら嫌々身を起こす。目覚まし時計を見ると、いつもならまだ寝ている時間だった。こんな時間に起こされなければならない理由が思い当たらない。
「今日誕生日を迎えた家庭教師<かてきょー>サマに対して何か言う事は無ぇのか」
「ああ、おめでとう。何も用意してないけど」
綱吉は無感動的に声を掛け、口の前に手を当てて大きな欠伸をする。それからまだ眠そうな顔をリボーンに向けた。
「で、何の用だよ」
「お前、骸と喧嘩したんだろ?」
リボーンが顎と目線だけであった事を話せと指図する。痛い所を突かれて綱吉は落胆の色を声に滲ませた。
「うん……。謝りに行ったんだけど、京子ちゃんと歩いてたのを見てたらしくって浮気だって言われちゃって。それで、そのー、レイプ? みたいな事されそうになって怖くなっちゃって」
「あンの色情魔め……」
リボーンの目がスッと細くなる。殺気を隠そうともしない。しっかりと舌打ちも聞こえた。放っておけばそのまま骸の元へ殴り込みにでも行きそうな雰囲気だったので綱吉は慌ててリボーンを引き止めた。
「ちょっと待て! 最後まで人の話聞けよ!」
「生徒が犯罪に巻き込まれてンのを放っておく訳にもいかねぇんだよ」
リボーンがジロリと綱吉を睨む。綱吉はその眼差しに身を竦ませながらも、話を聞かないリボーンに説明する。
「だーかーらー、最後まで聞けって……。でも怖くなって骸を突き飛ばしちゃったから一応無事だったんだよ。今色々不安定みたいだからシメて来るとか言うなよ」
「………そこまで言うなら仕方ねェ、我慢してやる。ったく、とっとと仲直りしやがれ」
「今の間は何?!」
リボーンは綱吉のツッコミを無視し、「よっ」と声を掛けて身軽にベッドから跳び降りた。それから綱吉に向き直ってニヤリとニヒルでありながらも悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「んじゃ、早起き序でに修行でもするか。学校までまだ時間あんだろ」
「なああああぁ――っ?!」
綱吉の大きな悲鳴が早朝の沢田家に響いた。



「ツッ君、リボーン君、お誕生日ケーキは何がいい? 張り切って作るわよ」
翌日、学校から帰ると奈々は今晩の誕生会の支度をしていた。リボーンとツナの誕生日が1日違いなのを利用して、2人分まとめて誕生会をやる事になっていた。綱吉の守護者達や仲の良い友人を呼ぶ事も決まっている。
奈々は朝からずっと張り切っていた。大人数の食事を用意出来るのが嬉しいらしい。
「オレはママンの作ったケーキなら何でもいいゾ」
「あら、そう? ツッ君は?」
「オレは………」
リボーンと同じように何でもいいと言いかけたが、何故か頭に浮かんだのは骸の姿だった。そして次には思わず
「チョコケーキがいい、かな」
と言っていた。
「チョコケーキね。なら、折角だからリボーン君のはショートケーキにしようかしら」
奈々は楽しそうに台所へ戻って行った。綱吉はすぐ横からただならぬ視線を感じた。綱吉に痛い程冷ややかなような生温いような視線を送っているのはリボーンだ。
「な、何だよ! 別に何選んだっていいだろ!」
「骸がチョコ好きだから、だろ。この色惚けリア充め」
図星を指されてかぁっと綱吉の顔が赤くなった。最後の謎の悪態に突っ込むのも忘れて「だって……だって……」と頬を染めながら言い訳じみた文句を口の中で繰り返す。
つい思考が骸に向いていた。綱吉は美味しければ何でも構わない人なのでチョコケーキも好きだが、先程の答えは明らかにそれが食べたいからではなく、リボーンの言うとおり骸がチョコが好きという事を思い出したからだった。
(うわっ……骸も来るとは限らないのに……! 恥ずかしい……)
綱吉は隠すように赤くなった自分の頬を手と手の間に挟んだ。


「骸様。犬、千種。手紙……」
「手紙ィ? 誰からだびょん」
学校が終わった後の黒曜ヘルシーランド。骸を除いていつもと同じ1日を過ごしていたクローム達1人1人宛てに手紙が届いていた。
ただでさえ人が寄り付かない此処に物が届く事はない。宛名と送り主の名前だけで、住所が書かれていないところを見ると、この手紙は直接届けられたらしかった。
「ボスから……」
名前を確認してクロームがそれぞれに手紙を渡していく。ボス、という言葉を聞いて骸は片眉を上げた。
どの手紙に書いてある事も同じで、要約すると「本日夕方に沢田家でリボーンと綱吉の誕生会をするから必ず来い」というような内容だった。手紙を読んで真っ先に口を開いたのは骸だった。
「これはアルコバレーノの字ですね。……下らない。僕は行きませんよ」
「骸様、強制参加と書いてありますが……」
千種がおずおずと窘める。だが骸は馬鹿にするように鼻で笑っただけだった。自嘲が入り混じっているようにも思えた。
「関係ない。僕の勝手にさせてもらいますよ。ああ、お前達は行って来なさい」
折角ですからね、と付け足して骸は自分の招待状を床に投げ捨てた。ゴミ箱に捨てなかったのは彼なりに躊躇った末の行為か。
クローム達は何も言わなかった。掛ける言葉も見つからなかったし、きっと説得しようとしても骸は聞く耳を持たないだろう。彼らはただ心配そうな顔をすることしか出来なかった。
(どうしよう……骸様とボスが……)
クロームは骸の憔悴が日に日に顕著になっていくのを不安に思っていた。それは即ち綱吉との仲が一向に改善しない事を表す。
彼女にとって骸も綱吉も――勿論、犬と千種も――大切な人だから、その人達の関係が悪化するのを見ているのはとても辛かった。どうにかして力になりたいと思っても、自分には何も出来ないのが悔しかった。
(私に何が出来るんだろう……)
先程は何も言わなかったが、彼女はやるだけやってみようと思った。一か八かで説得を試みることにした。
きっと骸の事だからクロームの一言で考えを変えたりはしないだろうから、せめて本音が聞き出せたらいいと思った。
「骸様、本当に行かなくていいの……?」
「今言ったとおりですよ。僕は行かない」
骸は首を縦に振らない。予想どおりの答えだ。クロームは少し考えてから再び口を開いた。
「………骸様、本当は行きたいんですよね?」
彼女の言葉に骸はかぶりを振った。
「僕は彼を傷つけた。醜い嫉妬をして、彼を犯そうとした。こんな僕に彼の誕生日を祝う資格はない。きっと綱吉くんだって来て欲しくないに違いない」
「そんな……」
「そんな事はない」と言おうとして、クロームは口を噤んだ。骸は本気で綱吉がそう思っているとは考えていないのだろう。ただ、どうしても決心がつかないような顔をしていた。
誕生会が始まる時間が迫っていた。そろそろ支度をしないと間に合わない。
「勝手な事言ってごめんなさい。……でも私は、ボスを信じてる」
この前と同じ事を繰り返しているなと思いながらもクロームは骸の前から立ち去った。
(あとは骸様を信じるしかないのかな……)
クロームは外出用の洋服に着替えて、骸の事を気にしながらも犬と千種と共に沢田家へ向かった。



「リボーンさん、10代目、お誕生日おめでとうございます! 乾杯!」
「「かんぱーい!!」」
獄寺の音頭によってリボーンと綱吉の誕生会は賑やかに幕を開けた。欠席は雲雀恭弥と、六道骸。
2人欠席とは言え元の住人に友人、居候が集まると結構な人数になった。部屋がかなり窮屈に感じられる。大所帯で食卓を囲み、奈々の作った手料理を好き好きに喋ったりしながら食べる。
(ヒバリさんは来ないにしても、骸、来てないや……)
リボーンが守護者には全員に招待状を送ったと言っていたし、クロームも、犬も千種も来ている。骸だけが来ていなかった。
(骸、来ないのかな……)
骸が来ていないというだけの事実が胸に妙に重く伸し掛かって来るような感覚だった。
「10代目! お誕生日おめでとうございます!」
「ツナ、おめでと」
綱吉の不安を余所に、獄寺と山本が近づいて来た。手にはそれぞれ綺麗にラッピングされた包みを持っている。誕生日プレゼントを手渡されて綱吉は受け取りながら慌てて笑顔を作った。
「獄寺くん、山本、ありがとう! 今日は突然呼んじゃってごめんね!」
「いえ、お祝い出来て光栄っス!」
「折角の誕生日パーティーだからな!」
どうやら先程まで暗い顔をしていた事には気付いていないらしい。友人達がわざわざお祝いに来てくれているのに暗い顔をしていたら失礼なのは分かっていたから、出来れば気付かれない方が良かった。綱吉は内心で安堵の溜息を吐く。
「ツナ君、お誕生日おめでとう」
「ツナさん! ハッピーバースデーです!」
「おめでとう、ボス……」
獄寺と山本に引き続き、京子とハル、クロームもプレゼントを持ってやって来た。女性陣の持ち込んだプレゼントは流石に女子だけあってお洒落だった。
「わあ、ありがとう!」
「この前3人で選んだんだよ」
京子が笑いながら教えてくれる。この前っていつだろうと暫く考えて、恋愛相談をした日の事だと思い当たった。思い出しただけで恥ずかしかった。
(あ、)
クロームと目が合う。クロームは綱吉の気持ちを汲み取って綱吉だけに聞こえるように小声で囁いた。
「骸様、来ないって……」
「そっか………」
自分でも相当残念そうな顔をしているのが分かった。
(何でこんなに拘ってるんだろ、オレ……)
綱吉が沈んだ顔をしているのを見てクロームは不意に何かを思いついた顔をして、携帯を鞄から取り出した。
パシャ、と味気なくも、確かにそれと分かるシャッター音が鳴った。綱吉がまさかと思い顔を上げるとクロームが自分の携帯のカメラで綱吉を撮影したらしかった。彼女は覚束ない手つきで携帯を操作し始める。
「え? クローム……?」
「あ……、えっと、気にしないで、ボス」
彼女があまりにも真剣に携帯と向き合っているので綱吉はこれ以上声の掛けようがなかった。最後に1つキーを押してやっとクロームは携帯を閉じた。




10.10.11


ごめんなさいごめんなさいまだ続いてごめんなさい(゚∀゚;)
予定どおりにアップ出来なくて更にごめんなさいorz
ツナたんお誕生日おめでとう!


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