あなたさえいればそれで




「お前そろそろ誕生日じゃん。何か欲しい物とかある?」
自分よりガタイのいい男が裸でじゃれついてくるのを適当にあしらいながら綱吉が口を開いた。ぴたりと骸の動きが止まる。
「はあ、突然何が欲しいと聞かれましてもねぇ」
「無いならいいよ」
「要らないとは言ってません」
ピシャリと断言する。
彼――六道骸は一言で言えばヒモである。ボンゴレファミリー10代目ボスという肩書きを持った沢田綱吉の家にいつの間にか住み着き、決して自ら働くことはなく、綱吉の財力だけで生活している。最初は早く出て行ってくれよと嘆いていた綱吉だったが、「君がいないと僕は生きていけない」といった言い訳を強情に主張する骸に根負けしてしまった。難攻不落に見えて骸にはめっぽう弱かった。
小遣いや食費を与えながらも働けと言いつけているのだが、未だ骸は働く意志を見せてくれない。甘やかしているのがいけないのも分かってはいる。しかしダメ男に引っ掛かってしまった綱吉もダメ男であり「そのうちきっと働きますから」という信用出来るはずもない言葉とキスひとつでなあなあにされてしまっていた(きっと、と言っている時点で信用ならないのに)。
今では全裸で出迎えられても全裸で押し倒されても全く動じない。そんな生活を続けて早何ヵ月経ったか、正直綱吉は覚えていない。
「誕生日プレゼントですか……」
思いの外、真面目な顔で考え出した骸を意外そうな顔で見つめる。骸のことだから即答でチョコレートだとか、世界大戦だとか言いそうなものなのに。
「何見てんですか」
「いや、別に。世界大戦起こして欲しいとか言わないのかなって思っただけだよ」
「は、そんな非現実的な」
鼻で笑われる。10年前の自分にブーメラン刺さってるぞお前…というツッコミは飲み下す。ブーメランはともかく三叉槍で刺されるだなんてとんでもない。
「そうですねー、僕はね、君と一緒にいられればそれでいいんです。それが僕の幸せです。望みです。僕を愛して、君のことを愛させて、ずっとそばにいさせてください」
「骸……」
うわコイツ恥ずかしいなと思いつつも真っ正面からの告白に胸がきゅうううんとする。何だかんだ言って甘いのだ。だって10年前はツンツンして目標はマフィア殲滅と世界大戦だなんて大口を叩いていたのに、今ではまるで犬か猫のように自分にべたべた甘えてひっついてくるのだ。こんな大の男が、自分の恋人が。
「ああでも君はきちんと僕を養ってくださいね。僕はあなたのヒモです。それ以上でもそれ以下でもない。君が稼いだお金で一生養ってもらうのが僕の仕事ですから」
「……おい」
「それから誕生日プレゼントはどうしましょうかね。折角だからゴディバのチョコレート、なんていうのもいいですねぇ」
「さっきのは何だったんだよ! カッコいいこと一人前に言っておきながら!」
先程までのいい雰囲気は何処へやら、綱吉はすっかり拍子抜けしてしまった。思わずツッコミを入れてしまう。
「何って本音ですよ。目には目を、歯には歯を、憎しみには憎しみを、そして愛には愛を、これが僕のモットーですからね」
「知らねぇよ!! キュンってしたオレが馬鹿だった……」
ぎゃんぎゃん吠える綱吉にしかめっ面で耳を塞いでいた骸だったがキュン、という言葉を聞いて目をまん丸くする。次の瞬間にはいつもの、否、いつも以上にデレデレした顔になっていた。これでは10年前のツンデレも、綺麗な顔も形無しだと思った。しかし自分にしか向けられないその表情が綱吉は好きだった。
「何ですかもー、キュンって可愛過ぎて反則ですよ」
猫撫で声で後ろからしなだれかかる。その動作には媚びと甘えがあった。10年前の彼にはやはり無かったもの。くふくふ笑う幸せそうな顔がすぐ近くにある。艶のあるブルーブラックの髪が肌に触れてくすぐったい。
「うっせーよ」
「素直じゃないんですから。そんな所も好きですけど」
耳元で囁かれる。とびきり甘い猫なで声だ。
「ねえ? 僕を養って、ちょっとお高いチョコレートを買うぐらい、世界大戦よりよっぽど安上がりでしょう? ボンゴレ」
「あーもー、分かったよ! お前は一生オレのとこにいろ。勝手にどっか行ったら許さないからな」
「行きませんよ。くふふ、だあいすきです、綱吉くん」
「オレもだよ、ばーか」
そう言い捨てて、骸の唇を乱暴に奪った。


(あなたさえいればそれで)

2012.6.26
骸誕とかいつの話だ…



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