相互リンク記念 To.まるた様
鞭と飴


「こんにちは」
「ボンジョルノ」
「こんばんは」
「ボナセーラ」
「ありがとうございます」
「グラッツェ、ミッレ」
「さようなら」
「アリベデールラ」
「……まだまだ棒読みですね。特に最後」
「うっ……」

何でオレ、骸なんかと顔を突き合わせて勉強なんかしてるんだろう。しかもイタリア語なんて。
「どうしました? 棒読みって言われた事、根に持ってるんですか?」
「ほっとけよ!」
うわ、コイツすげー涼しい顔で痛い所突いて来やがった。自分は喋れるからって……。

何故こんな事になったのかと言うと、話は1週間ぐらい前にさかのぼる。

***

まずオレがボンゴレを継ぐと決めたのが1ヶ月前の事。勿論その意志決定は9代目に伝わった。
そして2週間前、オレは骸をどうにか復讐者の牢獄から出してもらえないかと、リボーンと9代目に頼んだ。
骸を出して欲しいと頼んだ時のリボーンの反応はと言えば、それはもう嫌そうに顔を歪めて舌打ちをしてた。
あんな状況じゃなければ吹き出してたかもしれない。

「骸はオレの霧の守護者だ。オレがボスになるのに守護者が1人でも欠けてたらおかしいだろ?」
「クロームがいる。それに骸は犯罪者だ」
「クロームと骸、2人が霧の守護者だ。なぁ、オレが責任取るから!!」
リボーンは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「就任もしてねぇお前が責任だとかデカイ口叩いてんじゃねぇ。それに9代目の意見も必要だ」
9代目の表情を盗み見ると、9代目は難しい顔をして考えていた。オレに向かって静かに問う。
「綱吉くん、君は本当に六道骸を出して欲しいのかい? 彼は君の体を乗っ取ろうとした」
「確かにその通りです。けど、リング戦の時も、未来で白蘭と戦った時も、オレ達を助けてくれた。これも事実です」
オレはきっぱり言った。
10代目を継ぐって決めてから、少し心に余裕が出来た気がする。ちょっとの事で動揺しなくなったっていうか。
9代目は暫く黙り込んで、それからもう一度オレと目を合わせて同じ内容の質問を繰り返した。
「綱吉くん、もう一度訊く。本気で、六道骸を出して欲しいかい?」
「はい」
オレがはっきり肯定したら9代目はやっと笑顔を見せた。
「……分かった。復讐者と交渉してみるよ」
「本当ですか?!」
「但し、出られたとして仮釈放だ。本来なら彼は一生水牢の中に入れられていてもおかしくない重罪を犯して来たんだからね」
9代目の言葉には重みがあった。でも、目はすごく優しかった。
リボーンは大袈裟な溜息を吐いてオレに言った。
「いいか、ツナ。罪人を牢獄から出すのにタダで済む訳がねぇ。莫大な金も掛かるだろうし、あんなヤツらが相手だ。9代目の苦労も相当なものだろう」
「可愛い後継者の頼みだからね」
「甘ぇな。せめて自分の発言には責任を持てよ」
9代目の苦笑いとリボーンの言葉(と悪態)にオレは申し訳ない気持ちと有難い気持ちでいっぱいになった。
それでも、どうしても骸を出してやりたかった。

その1週間後、骸は仮釈放の身となった。
久し振りに会った骸はやつれていて、すごく弱々しかった。
骸はオレの姿を認めると、曖昧な笑みを浮かべて会釈した。きっと複雑な気分だったんだろうな。
一度殺そうとして返り討ちにされた身だし、その相手に助けられたんだから。

「放っておくわけにはいかねぇ。ツナ、お前が監視しろ」
「な?! オレが骸の監視?」
リボーンはニヤッと笑った。
「自分で責任取るっつっただろ。序でにイタリア語の家庭教師をしてもらえ」
イタリア語と聞いた瞬間、オレの思考は停止した。
イタリア語の家庭教師をしてもらう? どういう事?
「骸にイタリア語を教わるの? 何で?」
「ボンゴレ継ぐって決めたんだろ。イタリア語が分からなきゃ話にならねぇ」
それからリボーンは骸の方を向いて、更に衝撃的な言葉を口にした。
「骸、お前には住み込みで家庭教師をしてもらう。寝泊まりはツナの部屋だ」
監視しやすいようにな、とリボーンは付け足した。
「だからってなんでオレの部屋なんだよ!!」
「分かりました」
オレは反対したものの骸は素知らぬ顔で快諾した。嫌じゃないのかなって本気で思った。
「ママンにはオレから話をしてある。取り敢えず暫くはゆっくり休め」
その後オレと骸は9代目が用意してくれた車で家に帰った。すごく気まずかった。

***

そんな事があってオレは骸にイタリア語を教わり始めた。のはいいんだけど。

「このままでは格式高いボンゴレも、その程度かと舐められてしまいますよ? 基本的な挨拶が覚えられただけ良しとしますが」
骸の指導って物凄く上から目線。発音とか上手だから文句は言えないけど。
「次に簡単な自己紹介を教えます。『私は六道骸です』なら、“Mi chiamo Mukuro Rokudo.”1つの熟語のような感じで覚えて下さい」
「えーと、ミ、キャーモ?」
「『お目にかかれて嬉しいです』は“Felice di conoscerLa.”」
名前を言うのは簡単だったけど、流石にコレは難しい。
「ふ、フェリー……」
「Felice di conoscerla.ですよ。“ル”はあまりはっきりと言わないで下さい」
「フェリーチェ、ディ、コ……コノ……こんな長いの、分かんないよ!!」
オレが音を上げると骸はわざとらしい溜息を吐く。
「この程度で音を上げるなんて、君は何処まで馬鹿なんです? どうしてもと言うから教えてあげているのに」
「オレ、どうしてもとか一言も言ってないし……」
「いいですか?」
骸は華麗にスルー。オレの反論は完全に無視された。
「フェリーチェ、ディ、コノッシェルラです。リ、とノ、にアクセント。ゆっくり言ってみて下さい」
でも今度は少しずつ区切ってゆっくり言ってくれた。
骸って案外優しいのかも。世界大戦がどうとか言ってた割に。
「フェリーチェ、ディ……コノッシェルラ?」
「そんな感じです。………やはり棒読み感は否めませんが」
前言撤回。肯定の後に否定って酷い。骸ってホントよく分からない性格してる。捉えどころが無いっていうか。だからこそ霧の守護者なんだって言われたら納得かもしれないけど。感情とかいまいち読めないし。

「骸、そろそろ休憩にしない?」
「いいですけど」
少し気分転換がしたかった。じゃあ、と言ってオレは立ち上がる。
たしか、母さんがおやつにチョコトリュフがあるから食べてって言ってたっけ。
「ちょっとおやつ持ってくるね」
オレは小走りで階下へ行く。冷蔵庫からそのトリュフを取り出して部屋に戻る途中、オレはある事に気付いた。
「そういえばオレ、骸の好きな物とか知らないんだった……。チョコ、嫌いじゃないといいんだけど」
骸について知ってる事もあまり無いし、ましてや好みなんて全く分からない。
自分の考えの無さを後悔したけど、まだ嫌いだと決まった訳じゃないから一応持って行く事にした。

「骸、持って来たよ」
部屋に帰ると骸は何処かで買って来たらしい小説を読んでいた。
声を掛けたら骸は本から顔を上げた。
「すみません、有難うございます」
あまり抑揚の無い声でお礼を言われる。
序でだからチョコ大丈夫か訊いておく事にした。
「……骸、チョコ食べられる?」
「ええ。別に嫌いじゃないですけど」
嫌いじゃないってつまり、そこまで好きって訳じゃないですって意味か。微妙。
ていうか好き嫌いまでは訊いてないんだけど、まぁいいか。
「そっか、良かった。これ、母さんが作ったトリュフ。食べて?」
「いただきます」
あれ? 今、表情明るくなった? ……気のせいかな。
骸は無言で食べ続ける。心配になったので一応訊いてみる。
「美味しい?」
「普通に美味しいです」
それにしてもよく食べる。嫌いじゃない、普通に美味しいって言う割に1人で結構食べてる。
「……チョコ、好きなの?」
「嫌いではないと先程言ったでしょう」
「だって結構食べてんじゃん」
素直に認めればいいのに。そう思うと自然に笑みが零れた。
「折角出されたのに食べないのは失礼でしょう。E molto buono」
「は?」
「こういう時に言う言葉です。“とても美味しいです”と」
「はあ……」
突然イタリア語言われても普通困るってば。オレは曖昧な返事しか出来なかった。
「何ですか、その生返事は。人がこうして教えているのに……」
饒舌だな〜。ていうかさりげなくさっきと違う事言ってるけど絶対気付いてない。
普通に美味しい、がとても美味しい、に変わってる。やっぱりチョコ、好きなんじゃん。
「で、何だっけ。エ、モルト、ボーノ?」
「モを強調して下さい」
あ、テンションが元に戻ってる。チョコの話になると食い付くみたいだ。

オレは試しにさりげなくチョコの話題を出してみる。
「ね、チョコはイタリア語で何て言うの?」
「Cioccolataです」
やっぱり嬉しそう。本人は無意識なんだろうな。
「チョッコラータ?」
「君が喋ると本当に棒読みですね。イタリア語で重要なのは巻き舌です」
オレはイタリア語を教えてる時とチョコの話をしてる時だと表情が微妙に違う事に気付いた。
「巻き舌、難しいよ」
「一種の方言の様な物ですから」

検証結果。オレなりに調査してみた所、骸はやっぱりチョコレートが好きらしい。
頬が自然に緩むし興奮し出す。そのくせ好きなのか、って訊かれると否定する。馬鹿にされたりからかわれたりするのが嫌なのかもしれない。子供かよ。今まで大人っぽいって思ってたけど、実際はそんな事ないのかも。

今日は骸の事が少し分かった。それと少し身近に感じられるようになった。
このまま骸の事をもっと知れたらいいと思う。そうすれば仲良くなれそうな気がする。後は本人次第だけど。

「あれ、トリュフ全部食べちゃったの?」
気が付いたらお皿に乗ってたトリュフは無くなっていた。
「Era molto buono, grazie. とても美味しかったです」
「……なぁ、やっぱりチョコ好きなんだろ」
「別に、そういう訳じゃありません。授業を再開しますよ」
誤魔化さなくたっていいじゃん、オレが笑いながらそう言うと、骸は目を逸らして「違います」と言って最後まで認めなかった。





相互リンク有難うございます!!
これからもどうかよろしくお願いします。

心より、愛を込めて
蒼月夜姫


私信
Spacial Thanks*H(アドバイス有難う)

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