※ジョットさんがツナのおじいちゃん設定。

扇風機の前で、君に



「暑〜い」
7月の下旬、夏休み。
「……暑い」
外の天気は夏らしく晴れていて、ジリジリと太陽が照りつけている。蝉も鳴いている。天気予報では高気圧がなんとかと言っていたような気がする。
「日本の夏はどうしてこうも蒸し暑いのか……」
綱吉の祖父ジョットは今、夏休みを利用して、イタリアから綱吉の家に泊まりに来ていた。
スーツでは暑いからと、奈々が用意した濃いグレーの甚平を着て、綱吉の部屋で寛いでいる。窓は開けてあるものの、あまりの暑さに少々バテ始めているらしい。
「イタリアの夏ってどんな感じなんですか?」
「イタリアは1年中爽やかな気候で、夏もカラッと晴れているから暑くはない……」
イタリアはいいな〜、などと綱吉は呟いている。そんな綱吉を見てジョットは優しく微笑む。
「綱吉、今度はお前がイタリアに遊びに来るといい。旅費はオレが出してやろう」
綱吉はジョットの言葉を聞いて、パッと大輪の花が咲くかのように笑った。
「本当?!」
「ああ。オレの別荘に案内してやる。海もあるぞ? イタリアの海は美しい」
「でもオレ、泳げないや」
「なら、Gに教わればいい。アイツはスポーツ全般得意だからな。有名な海なら……」
ジョットがイタリアの観光地について話し始めると、綱吉は目をキラキラと輝かせて耳を傾ける。余程イタリアに興味があるらしい。単に年中爽やかな気候に惹かれただけにしても、自分の祖国に綱吉が興味を持ってくれたのがジョットは嬉しかった。

話の腰を折ったのは、外から聞こえて来た声だった。
「おーい、ツナ〜!!」
「10代目ぇ!!」
窓の外を見ると、友人の山本武と獄寺隼人が綱吉の部屋を見上げていた。山本は手を振っている。
「山本!! 獄寺くん!! 上がって来ていいよ!!」
「友人か?」
「うん。ちょっと下まで迎えに行って来る!!」
綱吉はバタバタと忙しない足音を立てて階下へ降りて行き、ジョットは部屋に1人取り残された。
「忙しい子だな、綱吉は……」
ジョットはさっき綱吉が走って行った廊下を見ながら呟く。
綱吉はすぐに友人2人を連れて戻って来た。手には盆を持っている。序でに飲み物を持たされたらしい。
「連れて来たよー」
「「お邪魔します」」
獄寺と山本はジョットを見て会釈した。釣られてジョットも軽く会釈を返す。
「オレのおじいちゃんで、ジョットさん。今夏休みだからイタリアから泊まりに来てるんだ。ジョットさん、オレの友達で獄寺くんと山本だよ」
綱吉が妙にニコニコしながら紹介する。きっと大切な友人なんだろうとジョットは感じた。
「ども! 山本武っス」
「おじい様っスか?! 初めまして、獄寺隼人です」
「ああ、お前はGの孫だな」
ジョットは獄寺に何となく見覚えがあった。以前Gに写真を見せて貰ったし、名前は聞いた事があった。その時には確か、反抗期で困っているとか言っていたか。
何故か当の本人以上に一番驚いたのは綱吉だった。
「おじいちゃん、獄寺くんのこと知ってたの?! 獄寺くんは、おじいちゃんのこと知ってる?」
「いえ、オレは知らないっス」
「……会ったのは今日が初めてだ。オレが一方的に知っていただけ、とでも言うべきか」
そういう事か、と綱吉は合点が行った顔をする。獄寺もその横で納得したような顔をしていた。
「へ〜っ、ツナのじいちゃんと獄寺のじいちゃんって知り合いなのな」
「獄寺くんのおじいちゃん、スポーツが得意なんだって。ね、獄寺くん」
綱吉は同意を求めるが、
「……そうみたいっスね」
獄寺の反応は思いがけず素っ気ない物だった。
「そんな事より10代目、大した物じゃないっスけど、これ、食べて下さい」
獄寺は先程の素っ気ない態度から一変、笑顔を見せ、綱吉に手土産の入った袋を渡した。まるで誤魔化すように。綱吉は驚きつつも中身を確認すると、笑顔を見せた。
「わぁっ!!」
その横で山本とジョットは獄寺の態度について小声で話し合っている。
「獄寺のじーちゃんと獄寺、仲悪いみたいっスね」
「そのようだな……。というか綱吉、菓子で丸め込まれるな……まったく………」
山本の言葉に肯定しつつ、ジョットはやれやれと首を振った。
すっかり手土産に意識が移ってしまったらしい綱吉は、ジョットのツッコミ――と云う名の呟き――に気付かず、ねぇねぇと甘えた声を出す。
「おじいちゃん、獄寺くんがおやつ持って来てくれたよ!! 皆で食べよう?」
「お、獄寺、気が利くな。何持って来たんだ?」
「クッキーだ」
「獄寺お手製のか?」
山本が笑顔で訊ねると、獄寺は突然頬を染めて否定する。
「ち、違ぇよ!! 手作りじゃなくて悪かったな」
「今度獄寺の手作りクッキーとか、食ってみてーな」
「なっ」
「そうだね!! 獄寺くん、今度作って来てよ」
「じゅ、10代目まで……」
山本と綱吉の悪意の無い笑みにたじろぐ獄寺。そんな獄寺に助け船を出したのはジョットだった。
「ほら、綱吉。おやつにするのだろう?」
あっそうだった、と綱吉は呟いていそいそと袋を開け始める。獄寺を盗み見ると彼は助かった、というような表情をしていた。
(Gの孫は照れ屋なのだな……。Gとは似ても似つかない)
オレンジジュースを飲みつつクッキーをつまみ、綱吉達が談笑しているのを眺めていると、部屋に奈々がやって来た。
「ツッくんの部屋、暑くない?」
「あっついよ〜」
「じゃあ扇風機つけましょうか」
奈々は綱吉の部屋に入って行くと、部屋の隅に置いてあった扇風機を慣れた手つきでいじり出す。てきぱきと準備を終えると、奈々は扇風機の電源を点けた。
綱吉達は当然のようにその光景を眺めていたが、ジョットは不思議そうに奈々を見ていた。
「はい、これで大丈夫。絶対中に手を入れちゃダメだからね?」
「分かってるよ」
「それじゃ、ごゆっくり」
奈々はニッコリ笑って部屋から出て行く。
「何だこれは……涼しい……」
「おじいちゃん、扇風機知らないの?」
こっくり頷くジョット。
「多分イタリアにもあるのだろうが、オレの家には置いていない」
「おじいちゃん、どんな家住んでんの?!」
「普通か普通より大きめぐらいの家だが……」
「へ、へぇ……」
(そう言えば父さんがおじいちゃんの家はお金持ちだって言ってたっけ)
綱吉が扇風機について説明すべきかどうか逡巡していると、
「あ"〜」
山本が扇風機の前で声を出し始めた。全員の意識がそちらに向かう。そして山本の行動によって何故か綱吉の中で結論が出た。
わざわざ説明しなくとも見た通りであるし、説明しろとも言われていない。しかもどうやって説明したら良いかも分からなかったので、扇風機についての説明を放棄することにした。
(説明しなくても分かるよね)
山本はもう一度扇風機に向かって声を出す。
「わ〜れ〜わ〜れ〜は〜う〜ちゅ〜う〜じ〜ん〜……」
「何子供みたいなことやってんだ野球バカ!!」
獄寺が貶すが、山本は笑顔のまま問う。
「獄寺、こーゆーのやんねーのか?」
「そんな子供じみた真似……」
誰がするか、と続きを言う前に、綱吉が模倣し始めた。
「あ"〜……。やっぱさ、夏と言ったらコレだよね!! ご〜く〜で〜ら〜く〜ん〜も〜、や〜る〜?」
綱吉が満面の笑みで獄寺の方を振り返る。獄寺は先程の自分の言葉を思い出して後悔するが、もう遅い。後悔して謝るしか出来ない。
「申し訳ありません、10代目!! 自分は遠慮しとくっス」
だが流石に自分もやろうとは思えず、綱吉の誘いは断っておいた。
「……綱吉、その遊びは何だ」
ジョットも目を丸くして山本と綱吉の行為に驚いていた。不思議そうにこちらを見てくる。綱吉は祖父の前でやってしまったために思わずどぎまぎして応えた。
「扇風機に向かって喋ると、風で変なふうに声が変わるんです。……おじいちゃんも、やる?」
ジョットは再び無言で頷くと、綱吉と場所を交換して扇風機と向き合う。
「あっ、巻き込まれるからあんまり近くに行き過ぎないでね?」
「ああ、分かった」
忠告に返事をしたのは良かったものの、結局どんなことを言ったら良いかが分からない。ジョットは振り向いて訊ねた。
「……で、これは一体何を言ったら良いのだ?」
「え、いや、好きなことを言えばいいと思いますけど……」
ジョットは再度扇風機と向かい合うと、少し考えて綱吉の名前を呼ぶことにした。
「……………つ〜な〜よ〜し〜、」
「えっ? 何?」

「あ〜い〜し〜て〜る〜」

考え抜いて出した答えは、綱吉に向けた愛の言葉だった。突然の事に一瞬にしてジョット以外全員の頭の上にクエスチョンマークが付いたような気がした。
「え? えええええっ?! それってどういう……」
「あははははっ!! ツナ、お前のじーちゃん面白ぇな。あれだよ、孫バカ。じーちゃんが孫を愛すのは普通だろ?」
山本が悪戯っぽく小声で言う。ジョットには聞こえていない。
「うん、まぁ……。ね、おじいちゃん、そういう意味だったの?」
突然話が振られて反応に困ったジョットは、取り敢えず無言で頷いた。綱吉は「そういう事なのか」と1人勝手に納得した。

***

「――という事があったんだ。G、日本には中々面白い文化があるのだな。益々気に入った」
「おいジョット!! 何どさくさに紛れて孫に告白してやがる」
(鈍くて良かったな。アイツらがもっと鋭かったら面倒事が起きるところだぜ、まったく……)



扇風機に「あ"〜」ってやる人
→ツナ、山本、白蘭、正一の姉
正一は1人の時にやりそう
あとツナの部屋にはエアコンは無くて、夏はアイスとか扇風機でしのぐことになりそう

こんな感じの話になり、これでプリツナ書いたら絶対面白いな〜、って思って早速。
どさくさ紛れに告白するジョットさんが書きたかった。
ジョットさんの甚平姿萌え。
ボケボケジョットさん×可愛いツナが私の中での基本スタンス。
その割にジョットさんがツッコミ入れてしまった。
ツナはじぃじ(笑)の前では幼くなるといい。
それから敬語とタメがごちゃごちゃでいい。
山本の「獄寺お手製」云々は絶対確信犯。山獄萌え。

お粗末様でした。


10.7.20


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