「お水、持って来ましたよ」
骸がコップに水を汲んで持って来たので、綱吉は思考をやめる。思っていたよりも戻って来るのが早い。
骸に軽く補助してもらいながら起き上がって水を飲む。
「ゆっくり飲まないと噎せますから、気をつけて下さい」
いちいち骸が心配してくるので、綱吉は少し嬉しくなる。
(骸、心配性みたい。……ん? 神経質なのかな?)
「ふあ……」
「眠くなってきましたか?」
綱吉が欠伸をすると、横で見ていた骸が訊ねる。
「まぁ……少しは」
「起きてても暇でしょうから、少し寝たらどうです?」
「骸は……?」
骸はどうするの、というニュアンスを含んで訊けば骸は意味を正しく理解して答える。
「僕は君の母親が帰って来る迄横に居ます」
「そう………じゃあ、寝ようかな」
綱吉は一瞬寂しそうな表情をしたが、すぐに自分で横になって布団を上に引っ張る。寝ながら喋る綱吉。
「骸ってさ、案外お節介なところあるんだね」
「……どういう意味です?」
骸は眉をしかめる。綱吉は苦笑した。
「いい意味で、だよ。結構気、遣ってくれたりとか……あ、あと色々気が回るっていうか。看病とか慣れてんの?」
案外などと言いながら何がいい意味でだ、と思いつつ骸は考える。滅多に誰も風邪を引かないし、クロームがたまに熱を出すが、彼女は女子なので自分で色々出来る。だからあまり看病をした記憶は無かった。
「あまりしないですね。まぁ一緒に暮らしている人間が3人いるから、というのもあるかも知れませんが」
「ふぅん……」
「君だって子供達の面倒、よく見ているのでしょう?」
「うん……そう言えば、まぁ」
そのまま2人して黙り込む。
綱吉はもう一度欠伸をする。大分眠くなって来た。
「そろそろ寝たらどうです?」
「んー……」
あまり乗り気でない返事が返って来る。
「寝ないと良くなりませんよ。横にいてあげますから」
骸はそう言って綱吉の指の間に自分の指を絡ませた。綱吉の手は子供らしく温かかった。対する綱吉は突然の事に混乱して赤面している。
「寝・な・さ・い」
「んんー……」
骸は一文字一文字を強調して言うが、それでも綱吉は何が嫌なのかぐずぐずしている。呆れから大きな溜息が自然に出る。
「往生際が悪いというか何というか。……君が起きるまで帰らないでいてあげますからゆっくり休んで下さい」
「平気……なの……?」
綱吉の目が眠気から虚ろになってくる。骸は声を小さくして言う。
「僕は大丈夫ですから。お休みなさい、綱吉くん」
「お休み………」
うつらうつらと微睡み始める綱吉。完全に瞼が閉じて静かな寝息が聞こえて来るまで、そう時間はかからなかった。
骸は幼く見える寝顔を眺めながら1つ溜息を吐いた。
「どうしてでしょうね……君を見ているとつい世話を焼きたくなってしまう」

――それは、彼が小さく、どうにも頼りないからなのか。

骸はふと、ずっと疑問に思っていた事を口にする。
「君の周りには沢山の人間がいる。……けれど、1人になっても君は平気でいられるのですか?」
返事が来るはずも無いのに話し掛ける。空いた片手でそっと綱吉の髪を梳く。
不意にギィ、とドアが開く音がした。振り向くと、そこには綱吉の小さな家庭教師、リボーンがいた。
リボーンは厳しい目付きでこちらを睨んでいる。
「アルコバレーノ……」
「六道骸。お前何しに来た」
凄みの利いた声で訊ねるリボーン。殺気を抑えているのが骸にも分かった。
「様子を見ているように言われたんですよ」
「ママンにか」
「ええ」
リボーンは暫く黙って骸を凝視していたが、嘘ではないと察したらしい。綱吉の様子を訊ねる。
「…………。ツナは」
「丁度さっき寝たところです」
「……そうか」
リボーンは値踏みでもするかのような目で骸をじろじろ見ている。骸はその視線が少しくすぐったいと思った。
「疑っているのですか? 僕が信じられない、と?」
「それはちげーぞ。お前でもそういう事出来るんだな」
「失敬な。……僕だって3人の保護者のようなものですからね」
リボーンはそれだけ聞くと骸から視線を外し、踵を返す。
「ツナに変な事すんじゃねーぞ」
「しませんよ」
「どーだかな。弱っているスキに契約とか襲おうとか考えてねーだろうな」
「僕はそんな事するほど愚かではありませんよ、アルコバレーノ。生憎今日はあの槍も持って来ていませんし」
フン、とリボーンは鼻を鳴らして綱吉を起こさないよう静かに扉を開ける。
「ツナが起きたらとっとと治して修行だって伝えとけ」
「他に言う事無いんですか?」
「ねぇな。甘やかしたりはしねぇ、それがオレのやり方だ。それに、ツナはボンゴレのボスになる男だからな」
「………」
ドアが閉まり、再び綱吉と2人きりになる。

――どうして君は僕の嫌いな存在<モノ>になろうと言うのか。

綱吉はマフィアのボスになる事を拒んでいるが、近い将来彼は本当にマフィアのボスになるだろう。骸は確信していた。

――そうなったら僕は。

「……考えるだけ無駄ですかね」
骸は憂鬱そうに頬杖を突く。

――そうなったら僕は大嫌いなマフィアの下で働くことになるのかも知れない。

「好きです………綱吉くん」
頬杖を外し、再び綱吉の髪を片手で梳く。もう片方の手は綱吉の手を握ったままだ。
物思いに耽っていると外が騒がしくなって来た。どうやら奈々達が帰って来たらしい。

静かにノックする音がして、奈々が顔を出す。骸は握った手を体の陰にそっと隠して立ち上がった。
奈々は静かに声を掛ける。
「ただいま。ツッ君、どう?」
「今は眠っています」
奈々はホッとしたようだった。買い物をしている間もきっと心配だったのだろう。
「そう……。押し付けちゃってごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です。起きるまで見ていますから」
「じゃあ、お夕飯の準備だけして来ちゃうわね。起きたら下に来るように言ってね」
「はい」
奈々はありがとう、と言い残して階下へ降りて行った。
骸はもう何度目かの溜息を吐き、綱吉を眺める。彼の寝顔を眺めていると不思議と穏やかな気分になれた。
まるで綱吉が、骸が側にいると安心出来たように。

――考えるのは、後にしましょう……

馬鹿馬鹿しい。ひとまず結論――綱吉がボスになった後の自分について――を出すのは先延ばしにしよう。今考えたところで仕方が無い。
綱吉の手を思わずぎゅっと強く握るとそれに呼応して綱吉が寝返りを打った。瞼がぴくりと動く。
「んん……むく……ろ……?」
「起きました?」
「ん……おれ、どのくらいねてた?」
寝惚け眼で骸を見上げる綱吉。まだハッキリと目が覚めていないのが分かる。眠たそうに目を擦る綱吉の姿がいつも以上に幼く見えた。
「さぁ……15分くらいだと思います。目が覚めたのなら下へ行きましょう」
起きるように促すが、まだ完全に目が覚めない綱吉はそれを嫌がった。
「ずっと、そこにいたの?」
「ええ」
「……ごめん」
自分が寝ている間、ずっと1人横にいてくれた、そう考えて綱吉は罪悪感を感じた。
「何故謝るのですか? 起きるまで横に居ると言ったのは僕ですよ」
「でも……」
骸は立ち上がった。続いて綱吉の体に掛かっている布団を剥がして綱吉を起こす。
「さぁ、行きますよ」
「あ、うん」
さりげなく、繋いでいる手は離さなかった。
夕食の匂いが立ち上るダイニングへ行くと、奈々と子供達が料理を並べているところだった。そっと手を離す骸。
「丁度今お夕飯が出来たところよ。ツッ君が風邪だから今日はうどんよ」
奈々はてきぱきと用意をしながらも楽しそうに言った。
「骸くんの分もあるから、一緒に食べて行って?」
「有難うございます、でも僕は帰ります」
「母さんもそう言ってるんだから食べてけばいいだろ?」
「気持ちだけ貰っておきます。それにクローム達がきっと待っているでしょうから、僕は帰ります」
骸は夕食の誘いを丁寧に辞退する。その様子をリボーンは見ていた。
「でも……」
綱吉が引き止めようとするが、リボーンが声を掛ける。
「ツナ、骸がそう言うんだから仕方ねーだろ? 玄関まで見送ってやれ」
「リボーン! お前何処行ってたんだよ?」
「いいからさっさと送って来い」
リボーンは綱吉の質問は無視して、聞き分けの悪い生徒に向かって銃口を向けた。
「ひぃっ、分かったよ……。骸、ホントに帰るのか?」
「ええ。長々とお邪魔しました」
綱吉は骸を玄関の外まで送って行く。外は大分暗くなっていて、少し肌寒かった。
「その……今日はありがとう。気を付けて帰れよ」
「君も早く風邪治して下さいね。お大事に」
「うん、ありがと」
綱吉は骸の後ろ姿を見送ると、家の中に戻った。
ダイニングではリボーン達が綱吉を待っていた。ランボだけは先に食べ始めている。
「お帰りなさい。骸くん、いい子だったわね」
「そう?」
奈々は骸の謙虚な姿に感動したらしい。目を輝かせている。
「彼、紳士的で大人びててかっこ良かったわ。いい友達がいて良かったわね」
「……そうかなぁ? まぁいいや、食べようよ。いただきます」

――確かに、結構大人びてる気もするけど……。骸……もう家着いたかな?


1000ヒット有難う御座いました!!
後半は2日で書けました(笑)
これからもどうか宜しくお願いします><*
管理人はこんな感じの骸ツナが好きです。
やっぱり骸はツンデレがいい。


10.6.7

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