相互リンク記念 To.電子レンジ様
初デート白正
「どうしよう、時間より早く来ちゃった……」
茶色の髪に緑フレームの眼鏡。未だ顔にあどけなさが残る青年が、焦りと不安の色を浮かべ一人広い公園の木の下に佇んでいた。
彼の名は入江正一。
普段どおりのチェックのシャツとセーター、カーゴパンツを履き、彼は今ある人を待ってているところだった。
時間に遅れてはいけないと思い早めに出てきたのだが、かえって早く着いてしまったようだ。
腕時計を見ても待ち合わせの時間まではまだまだある。
取り敢えず近くのベンチに座って相手が来るのを待つ事にした。
「この時間じゃ、まだ来ないよな……」
公園には休日である所為か昼時のわりに人は沢山いたが、残念ながら正一の待ち人の姿は無かった。
「はぁ………」
大きな溜息を一つ吐く。
その時正一の前に誰かが立ち、影が覆い被さった。
驚いて顔を上げると、彼の良く知る人間が立っている。
「やっぱり、正一か」
「うわぁっ!!スパナじゃないか!!……も〜無言で人の前に立たないでくれよ〜びっくりした……」
顔に驚きと笑顔を浮かべながら苦情を申し立てる。
「ん?ああ、すまない」
正一の前にいたのは、金髪の髪に左側の巻き毛が特徴的な友人、スパナだった。
いつものつなぎ姿で、手には公園の近所にある工具店の袋を下げている。
「スパナが買い物なんて珍しいね?」
「ああ、これは……ウチのじゃなくてモスカの材料を買って来たんだ。……正一はこんな所でどうしたんだ?」
「僕は……人と待ち合わせをしていて……早く着いちゃったんだもんでね」
困ったように正一が笑うと、スパナは暫く考えるような素振りを見せ、やがて口を開いた。
「……デートか」
「へっ?!………まっ、まぁ違うって言ったら……嘘になるけど……」
正一は真っ赤になりながら口籠もってしまう。
スパナはコロコロ変わる正一の表情を暫くの間興味深そうにじっと眺めていたが、自分の目的を思い出し、
「まだ買う物あるから帰る」
とだけ声を掛けてその場から立ち去って行った。
スパナに会った事で少々時間を潰す事が出来たが、それでもまだ待ち合わせまで時間がある。
どうしようかと顔を上げたとき、向こう側から少々異質な人が歩いて来るのが見えた。
途中で立ち止まり、きょろきょろと公園内を見回した後、正一を見つけると破顔する。白蘭である。
「白蘭サン?」
「正チャン!!ごめんね、待たせちゃった?」
白蘭は黒いタンクトップの上にホワイトのシャツを胸元を程よく開けて羽織り、腕捲りをしている。ダメージの入った細身の黒いパンツが彼の足首の細さをより一層際立たせていた。
胸元のシルバーアクセは最近よくつけているお気に入りだ。髪は上の方だけ纏めて縛っているようだった。
(白蘭サンの私服お洒落だな……。相変わらずカッコいい………)
白蘭に暫し見惚れていた正一は、白蘭に声を掛けられて我に返った。
「正チャ〜ン♪行こうよ」
「あっ、はい!」
それから近頃オープンしたカフェで昼食をとった後、これからの予定を話し合いながら街へ出た。
「正チャン、行きたい場所ある?」
「あ、CDショップ行ってもいいですか?」
たしかブラペパのアルバムが……などとぶつぶつ言っている正一は、白蘭は苦笑するのを置いて最近のブラペパ情報を語り出してしまう。
1人で喋っていた正一は途中で白蘭を置いてきぼりにしてしまっていた事に気付き我に返った。
「す、すみませんっ白蘭サン!!」
「大丈夫だよ。知らなくても案外楽しいんだ正チャンのブラペパ情報♪じゃあCDショップに行こうか!」
白蘭に促され、正一は白蘭の横に並んで歩き出した。
休日だけあって都心の街は人でごった返している。
正一は人混みに呑まれそうになりながら、白蘭の高い背と白い髪を必死に探しては追いつくのを繰り返していた。
暫くするといきなり白蘭に強く手を握られる。
人混みが少し減った所で思い切り腕を引っ張られた。
「大丈夫?はぐれないように手繋いでおこうね」
白蘭は正一の指の間に自分の指を絡ませる。
俗に言う、“恋人繋ぎ”。
気づいた正一は焦って振り解こうとするが、白蘭は握った手を更に強く握る。
「わっ、ちょっ!白蘭サンっ!!」
「これで安心でしょ?」
有無を言わさず笑いながらそのまま再び正一を引っ張りCDショップまで連れて来られてしまった。
店内に入り、ブラペパ……即ちBLOOD+PEPPERSのアルバムを見つけた正一は、パッと繋いでいた手を離し駆け寄った。
それがあまりにも自然で素早かった為、白蘭もつられて離してしまった。
しかし正一はそんな白蘭に全く気付かず嬉々としてCDを眺めている。他のCDを見ながら正一を待つ白蘭。
その後正一は30分後に会計を済ませ白蘭の元へ戻ってきた。ブラペパの事で頭がいっぱいの正一は白蘭の変化に気付かない。
「白蘭サン、お待たせしました!!次は何処に行きますか?」
「ん、お帰り。僕は何処でもいいよ♪正チャンの好きなところで」
作ったような笑いと、人任せな返答。買いたかった物を買えて浮かれていた正一だったが、流石に白蘭の様子の異変に気付く。
「あの、白蘭サン……?」
「ん?何?」
「怒ってますか?」
おずおずと不安げに訊ねる。
「そう見える?」
「……はい」
逆に問い返されて戸惑いながらも慎重に答える。
「何でだか、分かる?」
「…………僕がブラペに夢中だったから?」
そうだよ、と白蘭は頷くと、正一の方に一歩近づく。
正一は反射的に一歩後ろへ下がった。
「ちゃんと分かってるじゃない、正チャン。だからさ、お詫びにキスしてよ」
「へ?!!」
思わず素っ頓狂な声を上げた正一に、白蘭はクスクス笑う。正一は周囲を伺いながら恐る恐る訊ねた。
「なっななんで!!今、此処で、ですか?!」
「やだ?」
「やだっていうか、無理です!!人目もあるし……。こんな所じゃ出来ないよ!!」
白蘭は少し考える。
自分はキスくらい人目など気にしないのだが、日本人の正一は人前でのキスは恥ずかしがる。
仕方ないので、白蘭は心配そうにこちらを見ている正一に代案を出す。
「じゃあ、お店の外でしてもらおうかな♪」
外?と正一が同じ言葉を繰り返す。
「そう。人のいない路地裏とかでね」
「!?」
条件を満たした回答に、正一は拒否出来なくなってしまった。
「はぁ………わっ分かりました……」
「じゃあ、行こっか」
上機嫌な白蘭は先程とは打って変わり、嬉しそうな顔をしていた。
店を出る2人。
白蘭は再び正一の指を絡め取り、今度こそ離れないよう、しっかりと握った。
彼はそのまま人目の無い、人が1人入れる程度の広さの、建物と建物の間に正一を連れ込んだ。
「此処ならいいよね?」
「……はい」
白蘭はニコニコと笑顔で正一を見下ろす。正一は恥ずかしげに顔を赤らめて目を逸らすが、もう一度白蘭を見上げて決意する。
が。
「あの……白蘭サン」
「ん?」
「えと、その……、少し屈んでもらえますか?」
白蘭は暫し呆気に取られ、正一は先程より何倍も顔を赤くして俯く。
「ふっ、あははははっ!!……正チャンってば、可愛いなぁ」
白蘭が笑い出す。
「……キスしませんよ、白蘭サン」
正一は口を尖らせる。
「それはダメだよ正チャン。君が僕を置いて行ったのがいけないんだから……ね?」
白蘭は軽く腰を曲げて、目を瞑る。それでも尚白蘭が正一を見下ろす格好になるが、正一は赤い顔のまま白蘭を見つめ、目を閉じて白蘭の唇に下から自分の唇を押し付けた。
背伸びをしなくてはならないので、体を支えるために白蘭のシャツを握る。
すると白蘭が正一の頭を押さえて自分の舌を正一の口の中に割り入れて来た。正一が目を見開くのにも構わず、舌と舌を絡ませて角度を変え何度も口づけを交わす。
いつの間にか夢中になり、永遠に続くのではないかと思えたキスを終えると白蘭は満足げに自分の唇を舐めた。それがとても妖艶で目をそらす。
「これでいいんですよね」
正一は白蘭から目を逸らして言った。ふとした仕草が正一の鼓動を一気に速める。
「もっとやってもいいんだよ?それともこのままホテル行っちゃう?」
白蘭は悪戯っぽく笑顔で言う。
「いえ、今日は遠慮しておきます……」
え〜、正チャンのケチ〜などと白蘭が言うのを見事に受け流した。
「白蘭サン、次はどうしますか?」
「ん〜……あっ、雑貨屋さんに行ってみたいんだ。いいよね?」
「いいですけど。何か買うんですか?」
秘密、とだけ白蘭は言うと、正一の手を握った。正一もきゅ、と握り返す。2人は手を繋ぎ、歩き出した。
雑貨屋の中はカップルや女性客でごった返していて、正一は気後れした。
「白蘭サン、本当に行くんですか?」
「ん?勿論。あ……でも此処で待っててもいいよ?」
白蘭が案外あっさりと此処で待つ事を許したので、驚きながらもその言葉に甘える事にした。
「じゃあ僕は此処で待ってます」
「すぐ戻って来るからね」
白蘭は言葉通りほんの数分程度で正一の所へ帰って来た。
「お帰りなさい、白蘭サン。早かったですね」
「まぁね。急いで済ませてきたからさ」
正一には戻って来た白蘭が心無しか先程以上に上機嫌に見えた。今は正一が教えたBLOOD+PEPPERSの曲を口ずさんでいるほどだ。白蘭が嬉しそうにしているので、何があったのかは正一には訊けないが、白蘭が嬉しそうだと自分も少し、嬉しい気がした。
白蘭も正一も用事が済んでしまったため、特にする事が無くなってしまった。
「白蘭サン、この後どうします?」
「うーん、そういえば何も考えてなかったね。暇になっちゃったし、ホテル行く?」
「またかよっ!お断りします」
白蘭の提案は敢えなく却下される。白蘭は口を尖らせながら「正チャンってば恥ずかしがり屋さんなんだから〜。それともツンデレ?」などと1人ごちている。
「しょーがないなー、ホテルはまた今度ね♪ウィンドウショッピングでも行こうか」
2人はどちらからともなく手を繋ぎ、歩き出した。様々な種類の店が立ち並ぶショッピング街を冷やかして行く。途中でソフトクリーム屋の前を通ると、白蘭が客寄せの女性に声を掛けられた。勧められるままにソフトクリームを買い、2人で仲良く分け合って食べた。
そんな事をしながら適当に歩いていると、正一が一軒の音楽関係の店の前で立ち止まった。
「正チャン、何か欲しい物でもあった?」
「これ、結構良さそうかなと思ったんですけど……ちょっと値段が高めだったので、やっぱりいいです。行きましょう」
通り過ぎた後も正一はちらちらと後ろを振り向くので、白蘭は
「戻って買う?」
と訊ねるが、正一はかぶりを振る。倹約家の彼には、喉から手が出る程に欲しくても、どうしても手が出せない価格らしかった。
正一の葛藤に気付いた白蘭が
「……買ってあげるよ?欲しいんでしょ?」
と言い出す。
正一は一瞬顔を輝かせたが、すぐに
「でも……」
と口籠もる。
「お金なら大丈夫だし、僕からのプレゼントって事で、ね?」
「本当にいいんですか?」
「いいよ。その代わり、1つだけ条件ね」
正一に白蘭が出した条件は、もう一度正一からキスをする事のみだった。流石に高額な商品だからもっとすごいものを要求されるかと思ったのだが……。
「それだけでいいんですか?!」
白蘭は笑って頷く。
「あの……それ、後払いでもいいですか」
「え?うん、いいよ」
店に戻り、白蘭が支払いをする。正一はありがたい気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいになってそれを横から見ていた。
「はい、これは僕からのプレゼントだからね」
「ありがとうございます、白蘭サン!!」
どういたしまして、にっこりと笑う白蘭。
「……あと、これも」
「え……これは……」
白蘭が袋から取り出した物は、シンプルなシルバーのリング――しかもペアリング――だった。
「僕とお揃い。正チャンもつけてよ。ね?」
「……分かりました」
正一がリングを指に嵌めると、サイズがぴったりだった。よく見ると筆記体で名前が刻まれている。
「あの雑貨屋さんで買ったんですか?」
「そうだよ。これで“君は僕のもの”なんてね♪」
宿敵、六道骸の決め台詞を声真似までして笑い出す白蘭。
あの数分でよく名前まで彫れたものだ。
普段指輪なんてしない正一には若干の違和感があるものの、その指輪はとてつもなく正一にとって愛おしかった。
陽は大分低くなりあたりも少しずつ薄暗くなって来る。
「そろそろ帰ろうか。家まで送ってくよ?」
「あ、すみません」
2人は再び手を繋いで正一の住んでいるアパートを目指した。アパートには15分ほどで到着し、正一の部屋の前で立ち止まる。
「それじゃ、また大学でね♪」
「白蘭サン、ちょっと待って下さい。……プレゼントの……お礼というか……条件というかを」
「お、ちゃんと覚えてたんだ」
白蘭は今日一番の笑顔を見せた。正一は背伸びをして下から白蘭に本日二度目のキスをした。
今度は触れるだけのキスだった。
「色々ありがとうございました」
「今度は遊園地とか行こうね」
白蘭は手を振って帰って行った。
正一は女子のように頬を染めて白蘭の背中を見送り、手にはまった指輪を撫でた。
10.5.23
From.蒼月夜姫
*遅くなってごめんなさい><
相互リンクありがとうございます!!
これからもどうかよろしくお願いします(*^-^)ノ
*未修正ver.はコチラに。
*Special Thanks*
蔡姫
└白蘭の私服デザイン提供&アドバイス提供
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