大きな水槽事件

ボンゴレファミリーの創始者、プリーモとも呼ばれる金髪の青年ジョットは言った。
「デーチモ……」
「はい、何でしょう?」
デーチモ、イタリア語で10代目、即ち綱吉は突然プリーモに名前を呼ばれ、驚いた。プリーモの方を見ると、彼はじっとある一点を見つめている。視線の先を辿れば綱吉の足元にいる小動物に釘付けになっている事が分かった。
「この小さなライオンのような生き物は何だ」
彼は視線を外さないまま綱吉に訊ねる。
「オレ……僕の匣アニマルです。プリーモは知らないですよね?」
「ああ。……名は何と言う?」
「えと、ナッツですけど」
何故そんな事を訊くのだろう、疑問に思いながら綱吉は答える。
「ナッツ」
「がう」
彼が名前を呼ぶと、ナッツは応えた。ナッツの怖がりな性格を知っているので綱吉は驚いた。プリーモは自慢のマントやストライプのスーツが汚れるのも厭わず地面に膝をつき、ナッツの方に手を伸ばす。
(ナッツ、プリーモに懐いてる!?)
「…………可愛い生き物だな。デーチモ」
「はい」
「気に入った」
「は?」
綱吉は思わず間抜けた声を出す。
「だからこのナッツとやらを引き取りたいのだ」
「んなぁー!?プ、プリーモ!!」
「連れて帰ることにした」
やっと綱吉の方を見て、きっぱりと断言するプリーモ。
「え、ちょっ……」
「ダメか………?」
炎の瞳を少し潤ませて綱吉を見る。
(いや、寂しそうに言われても困るから!!)
「う………」
燃えるようなオレンジの瞳で真っ直ぐ見つめられ、綱吉は気圧される。プリーモは綱吉があまりその気では無い事をなんとなく感じ取ったのか、少し考える。
だが、
「…………そうか。ならデーチモも一緒に来い」
何かを誤解しているらしく、突然、的外れな代案を出して来た。
「いやいやいや!!!!」
「大きな水槽があるんだ……」
「いやいやいや!!!!」
(す、水槽って……何で?!ナッツってライオン……だよな……)
「大きな水槽がある」というのは彼なりのジョークのつもりだったのだが、綱吉には通じていなかった。真剣な面持ちで言っている上に彼が喋ると説得力があるために本気としか思えない。綱吉は混乱した。
「ジョット…………」
彼の幼なじみである赤毛の青年、Gは呆れ顔で大きな溜息を吐く。
「大変楽しそうでござるな」
烏帽子を被った日本人、朝利雨月は爽やかな明るい笑い声を上げる。ただ笑い所が明らかにズレている事に本人は気付いていない。
「うーん……ただの馬鹿ですね、ボンゴレプリーモ」
特徴的・印象的な髪型をしていて綱吉の守護者、六道骸と顔立ちが似ている青年、デイモン・スペードは冷静に人を貶している。
「デーチモが究極に困っているぞ?」
黒髪で牧師のような格好をした青年、ナックルは何故綱吉が困惑しているのかいまいち分からないらしく、首を傾げている。
「プリーモ、いいからそれ連れて帰ろう?オレ様もう飽きちゃったんだものね〜」
ひたすらマイペースでやる気の無さそうな声が聞こえて来た。明らかに面倒くさいというニュアンスを込めて帰ろうと言っているのは、大人ランボに瓜二つの最も若い青年、ランポウだ。
「…………興味ない。さっさと済ませてくれない?」
初代ファミリーの面々と離れた所で興味なさそうに眺めている金髪に細身のコートの青年、アラウディも催促する。
「さぁ、デーチモ……行くぞ」
「いやいやいや!!!!」
優しげな微笑みを浮かべ、プリーモは言う。水槽の話は冗談にしても、ツナとナッツを連れて行く、というのは本気らしい。綱吉は必死に断る。
「おい、ジョット!!デーチモが困っているだろう。その動物は諦めて帰るぞ」
そこで見兼ねたGが間に入る。
「G……オレはナッツを連れて帰りたいんだ」
彼は強い意志を持った瞳でGを見るが、流石幼馴染み且つ右腕としてずっと側にいただけあり、Gは動じない。
「知るか。……デーチモ、すまなかったな」
Gはやれやれと言った感じで彼の希望を一蹴し、綱吉に謝る。初代守護者たちは既に歩き始めていた。
「あ……いえ………」
綱吉は疲れたような苦笑いを浮かべる。
「……デーチモ………本当に駄目なのか?」
往生際悪くプリーモはもう一度訊ねる。
「駄目です!!」
今度ははっきり断った。
「ナッツ………」
名残惜しそうにプリーモはナッツを見つめる。だがGは容赦なく彼を軽く引っ張って連れ、歩み去って行った。
綱吉は溜息交じりに言った。
「ナッツ、何も分かってないお前が羨ましいよ………」
「がう?」

後にこの話が「大きな水槽事件」と呼ばれるようになった事を初代守護者達は知らない。



―――――――――――
あとがき
アルバム用に書き下ろした話を加筆・修正した物です。
因みにツナの守護者たちもその場にいるはずです、呆気に取られているだけで(笑)
H氏、本当にありがとう!!
彼女がプリーモ+ナッツに萌えなければ誕生しなかったSSでした。
お粗末様です(_ _)

10.5.9



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