アイスクリームで痴話喧嘩するバカップル | ナノ


アイスクリームで痴話喧嘩するバカップル

場所はファミリーレストラン。大の大人が2人、男同士でデザートをつつきあっていた。片方は柔らかいブラウンの髪に童顔の男がかっちりしたスーツを着崩し、もう片方は黒とも藍ともつかない髪に赤と青のオッドアイで、黒のジャケットにぴっちりした黒いパンツを穿いている。どちらもファミレスという空間には似つかわしくなく、この一組だけ周囲から浮いていた。
スーツの男はチョコバナナサンデーを、ジャケットの男の方はチョコレートパフェを食べている。デザートが美味しいと人づてに聞いて食べに来たのだ。サンデーはまだ半分ほど残っていたが、パフェはもうほとんど食べ尽くされていた。
「チョコアイスってさー、なんか食べてると飽きてくるよね」
向かいのオッドアイの男がむっとする。
「いや、美味しいけどさ。味も濃いし結構クセ強いじゃん」
男は何も喋らない。その間も気にする様子もなく、茶髪の青年は生クリームを添えてチョコアイスを口に含む。
「まあ嫌いなわけじゃないから結局食べちゃうけど。……どうした? 骸」
「……そんなに文句言うなら食べなきゃいいじゃないですか。何なんですか君」
「は?! え、何?」
骸と呼ばれた男が突如立ち上がり激昂する。テーブルの食器が音を立てる。その様子はさながら別れ話の修羅場のようだ。青年は呆気にとられ、ぽかんとしている。
「僕の目の前でチョコをけなすだなんて最低です。そんなことを言うのなら食べなければいいでしょう!? 君にはデリカシーというものはないんですか? 流石はマフィアですね沢田綱吉!」
要するに自分の好物にケチをつけられて怒っているらしい。
ああ、なるほど。
合点は行ったが周囲からの視線に耐えられなくて、眉をひそめて興奮している骸の袖を引っ張る。人差し指を口の前に宛がい、周囲を見るようジェスチャー。ようやく我に返った骸が咳払いをして着席する。少しずつ周囲に喧騒が戻り始めてから綱吉は溜息を吐いた。
「あのさあ、オレは別にチョコが嫌いなワケじゃないしケチつけてるつもりもないよ?」
「………」
弁解もむなしく骸は黙ってパフェを食べきる。
「言い方が悪かったとは思うけど…機嫌直せよ。な?」
骸はまだむくれている。どうしたものかと困っていると、骸の視線が食べかけのサンデーに向いていることに気付く。綱吉に一つの考えが浮かんだ。
窺うような上目遣いでサンデーを指さす。
「……これ、食べかけだけどいる?」
「………」
骸が黙ったままジロリとオッドアイを向ける。
「早くしないと溶けちゃうよ?」
チョコアイスをスプーンで掬って口の前に持って行く。骸が口を開ける。
「オレ、もうお腹いっぱいになっちゃったから全部骸にあげるよ。遠慮しないで食べて」
ずい、と骸の目の前に押しやる。
「君がそう言うのなら」
チョコアイスでもやっておけば機嫌も直るかな、そんな軽い気持ちだったが効果はてきめんだ。思わず苦笑いを浮かべる。
顔色を窺って、機嫌を取ってやらないといけないめんどくさい恋人だったが、綱吉はそこもひっくるめて骸が愛しい、可愛いと思っていた。

(でもオレはバニラ派かなあ、なんて)