あいも変わらず


「ちょっと正チャン、僕凄い物見付けちゃった」
「うわっ!?…は?……ちょ、え?びゃ、白蘭サン!?」

平然と部屋のドアを開けて入って来たとんでもない人物に、正一が椅子から転が
り落ちそうになった。
何とか椅子にしがみ付いたまま、頭をフル回転させる。
確かに目の前の真っ白な人は、未来の自分と付き合いのあった男だ。
しかし、その男が何故十年前にあたる現代の自分の部屋にいるのかさっぱり分か
らない。
更に、もうずっとこの家に住んでました、と言う顔で自分の部屋に入ってきた現
状も少しも理解出来ない。
正一が目を白黒させていると、白蘭が不満げに腰に手を当てた。

「正チャン?聞いてる?」
「き、聞いてはいますけど、理解はしてません…」
「もー!相変わらずのんびり屋さんだなあ!」
「ハハ……すみません…」

プンプンとしている白蘭に、正一が乾いた愛想笑いを浮かべる。
この男のノリに付いていけたことは数える程しかないが、今日はボンゴレ狩りを
持ち掛けられた時並に付いていけなかった。
今まで痛むことの無かった胃が、痛み出しているような気がする。

「……どうしてこんな所に?」
「え?だから、凄い物見付けたから正チャンに見せに来たんだって」
「はあ…」

ニコッと笑う白蘭に、正一は考えることをやめた。

「何を見せに来たんですか?」

正一の言葉にパッと白蘭の顔が輝く。
いそいそと正一の傍に寄って、紙を広げてみせた。

「これこれ!見てよ!」
「……粉ゼラチン20g、水120cc、グラニュー糖120g……何のレシピ
ですか?」
「マシマロだよ!」
「……へえ」

予想通りの答えに曖昧に相槌をして、紙をやんわりと押し返す。

「随分といい物を見付けましたね。じゃあ頑張ってください」
「そうだね、僕も頑張るから正チャンも頑張るんだよ」
「僕、は……」

言い返そうとした言葉は最後まで音にはならなかった。
ニンマリと嫌な笑みを浮かべている白蘭に、正一の顔が引き攣る。
正一が固まっていると、その顔に布が押し付けられた。

「ぶふっ!!」
「じゃあ、張り切って頑張ろうね、正チャン♪」
「が、頑張ろうって…」

押し付けられた物を仕方無く受け取る。
形からしてどうもエプロンらしかった。
変にヒラヒラが付いていないことに、こっそりと安堵する。

「お義母さんに話したら、材料全部用意してくれたんだ」
「その呼び方やめてください!」
「もう、いつまでもピーピーうるさいなぁ。……キスしちゃうよ?」
「分かりました。作ったらさっさと帰ってくださいね」
「それはそれでムカツクんだけど」

サッと立ち上がった正一に、白蘭が不貞腐れたような顔をする。
それを無視して部屋を出る正一に溜息を吐いて、白蘭も部屋を後にした。






マシュマロ作り自体は白蘭も正一も器用な為、滞りなく進んだ。
ただ、紙に書いてあったものよりも材料が多く用意されており、それで「巨大マ
シュマロ」を作るなどと言い出した白蘭を止められなかったことだけが、正一の
唯一の心残りだ。
一方の白蘭は、冷やしたマシュマロを冷蔵庫から意気揚々と取り出していた。

「見て正チャンこの滑らかな表面!僕、マシマロ職人になろうかな」
「将来性無さそうですけど」
「勿論、他のお菓子屋との差別化は図るよ。野菜とか果物の形のマシマロとかど
う?」
「白蘭サンがいいなら、好きにしたらいいと思いますけど」
「つれないなあ」

にこにことする白蘭の横で、正一がバットをコーンスターチの上に引っくり返す

バフッと白い粉が舞った。

「切り分けますよ?」
「いいよ。僕これ食べるから」

白蘭は白蘭で、自分の分のバットを引っくり返している。
出てきたマシュマロの板に目を輝かせた。

「でもやっぱり円柱の方が気分出るよね。今度は型も用意しないと」
「もう僕は付き合いませんからね」
「まったく、そうツンツンしないでよ」

早くも自分のマシュマロに齧り付いている白蘭を横目に、正一は淡々とマシュマ
ロを切り分ける。

「何だかんだでバット4枚も作りましたけど、ちゃんと食べ切れるんですか?」
「大丈夫大丈夫、正チャンだって食べるでしょ?」
「いえ、いりませんけど…」
「まあまあ、そう言わずに」
「むぐっ…!」

言いながら口にマシュマロを突っ込まれた。
甘い……が、何か自分の知っているマシュマロと違う味のような気がする。

「何だこれ!?なんか変なにおいする!嗅いだことあるにおい!!」
「正チャンの分は、特別に胃薬を配合しておいたよ」
「甘草のにおいか!!道理で嗅いだことある訳だ!」

マシュマロの味と合わない独特の匂いに吐き出したくなったが、白蘭がいい笑顔
で見てくる為にそれも出来ない。
仕方無しに必死で飲み込むと、白蘭の笑みが満足そうに深くなった。

「じゃあこれバット1枚分あるから、ちゃんと食べてね」
「何しに来たのこの人……」

嫌がらせをしに来たとしか思えない。
いい加減我慢するのも限界が来たので、帰ってもらおうと正一が決意する。
はっきり言ってやろうと白蘭を見上げると、唇を指で押さえられた。

「!」
「正チャンさ、感動の再会をしてほしかったんでしょ」
「な!?だ、誰が…!?」
「いつも以上にツンツンじゃない」

フフ、と悪戯っ子のように微笑む白蘭に、正一の頬が染まる。
しかし、白蘭の言葉には言い返せなかった。
未来の記憶を貰って、ずっと白蘭のことが気に掛かっていたのは本当だ。
未来の自分は白蘭を失って本当に辛かったし、この時代で会えるものなら会いた
いとも思っていた。
だから、さっきのような再会は拍子抜けと言えば拍子抜けだった。
別に乙女のようにロマンティックなものを期待していた訳ではないが、自分ばか
り白蘭を特別に思っているようで少し面白くなかった。
赤くなったまま押し黙ってしまった正一に、白蘭がニッと笑う。

「素直じゃない所も小さい時からなんだね。まあ、そんな所も可愛いけど」
「かわっ…!?」

白蘭の言葉にまた赤くなりつつ反論しようとする正一の前に、白蘭が人差し指を
立てた。
怯んで言葉の出ない正一に、とびきりの笑みを向ける。

「でも残念!感動の再会は勿論、感動の出逢いも無いよ♪」
「えっ…」

白蘭のあんまりな発言に、流石に悲しくなった。
思わず縋るような視線を向けてしまう正一に、白蘭は相変わらずの笑みのまま続
ける。

「正チャンはどの世界、どの時代にいようと共通して僕のモノだからね。この世
界が始まってからずっと僕のモノなのに、出逢いや再会なんて必要無いでしょ?

「……」

当然のことのように言う白蘭に、正一が絶句した。
何も言い返してこない正一に満足したのか、白蘭は掲げていた手を下ろす。
代わりに正一の体を引き寄せると、顎を掴んだ。

「びゃ、白蘭サン…!」
「まあ、実際に会えなかったのは寂しかったけどね」
「ちょ……んぅ」

正一が何か言う前に、白蘭は自分の唇で正一のそれを塞いでしまう。
白蘭の突然の行動に動けなくなっている正一をいいことに、白蘭が唇の間から舌
を滑り込ませた。
驚いてビクッと跳ねる正一の体を逃げられないように抱き込んで、深く唇を合わ
せる。
やっと解放してやった時には、正一はすっかりグッタリとしていた。

「はあ…は……」
「もう腰抜けちゃったの?…記憶があっても体は子供だから仕方無いか」

自力で立てない正一を近くの椅子に座らせると、白蘭が楽しそうに微笑む。

「また仕込んであげるね」
「い、いいです…」
「遠慮すること無いのに」

青くなりながら首を振る正一につまらなさそうな顔をして、白蘭がふと時計を見
た。
すぐに大声を上げた白蘭に正一が体を跳ねさせて驚く。

「ど、どうしたんですか?」
「ヤバい、長居し過ぎちゃったみたい。……怒られるのイヤだなぁ…」

重い足取りで手荷物を纏める白蘭を、正一がポカンとした様子で眺めた。
その間に身支度を整えた白蘭が、にっこり笑う。

「じゃあ正チャン、後片付けよろしく!」
「あ、ちょっと!白蘭さん!!」

正一が止める間も無く、白蘭は風のようにキッチンを出て行ってしまった。
1人キッチンに取り残された正一が、呆然とする。

「一体何だったんだ……」

会えたと思ったら、よく分からないまま一緒にマシュマロを作り、よく分からな
いままキスをされ、よく分からないまま1人取り残されてしまった。
結局、いつものようにただ振り回されるだけで終わってしまったようだ。
相も変わらず我儘で、横暴で、自己中心的。

「なのに、好きなんだよなぁ……」

深く溜息を吐きながら、正一は自嘲するように笑った。




「アンスリウムを君に」のまるたさんより、
誕生日プレゼントをいただきました!(*ノノ)
びゃっくしょおおおおおお!!!!
白正ですよまるたさんの!レア!←
白正過ぎて嬉し過ぎて胸が苦しいです^^*
14歳萌え!!
ありがとうございました!!


■TOPへ戻る