丸くなった骸の話


「お前さ、性格穏やかになったよな」
明るい月が照らす夜。綱吉が唐突に話しだすので骸はきょとんとした顔で綱吉を見返した。なんですか急に。真顔で訊ねられると綱吉も至極真面目な顔で見つめ返した。
2人は夕食を終えたあとだった。綱吉はごろにゃんと骸に膝枕してもらって甘えているところだ。手を伸ばして骸の頬から顎にかけてのラインをなぞる。
「顔、丸くなった?」
美形にふさわしい適度にシャープな輪郭が、綱吉には最近どうも丸みを帯びてきたように思えるのだ。骸はナルシストだからこんなことを言っては機嫌を損ねてしまうかなと思ったけれどちょっとびっくりした顔をされただけだった。
「そうですか?」
「うん。性格が丸くなるにつれて顔も丸くなったんじゃないの? あーそれともチョコの食べ過ぎ?」
「ああ、だから最初に性格が穏やかになったって言ったんですね」
しきりに顎のラインを撫でる手が掴まれる。骸は目を閉じてその手にほおずりをした。
「原因はいろいろ考えられますけど……。たとえば、そう。君たちボンゴレの根回しのおかげで僕に来る裏の仕事が減った末に運動不足になったりとか」
「バレてたか」
「バレバレです。でもたぶんね、きみと結婚してきちんと食事するようになったからですよ」
なにそれ、綱吉はけらけら笑う。まともに取り合う様子のない綱吉に目を開けて骸が少しムッとした。
「ご存知のとおり僕は基本的に食への関心が薄かったわけですが、君に美味しいご飯を作ってあげて2人で食卓を囲んでってしてるうちに、体が足りなかった栄養を取り込みはじめたんだと思うんです」
「おおー! つまりはオレのおかげってことだね」
はたちを過ぎても昔と変わらない大きな瞳をくりくりと輝かせ、穏やかに見下ろしてくる骸に笑いかける。ふにゃりとした締まりのない両頬が骸の細い指につままれる。
「くふふ、考え方によってはまあそうかもしれないですね」
ゆるやかな沈黙。骸の指がさらさらと綱吉の髪を梳く。

「……きっとこれが世に言う幸せ太りってやつじゃないんですか?」
なにそれ、再び綱吉が声を立てて笑う。
「幸せ太りってすげえ光栄なことだな。オレといて幸せだと思ってくれてるから太るんだろ? これ以上ないことだよ」
「そうですね。昔の僕だったら考えられなかったことだ」
綱吉がそっとひじをついて起き上がる。正面から骸をみつめる。骸もまっすぐみつめ返す。
「お前は昔のお前じゃないんだよ。今もそうだけどさ、これからはもう、憎しみじゃなくて幸せを糧に生きていけばいいんだよ」
「………はい」
骸に、強く強く抱き締められる。眉根をきゅっと寄せていてすこし泣きそうな表情にも見えた。愛おしげに目を細めている。
「お誕生日おめでとう、骸。これからもオレのかわいいお嫁さんでいてね」
一度、強く骸を抱き返すとどちらともなく目をつむり、チョコレートのように甘くとろけるようなキスをした。


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