Treasure | ナノ


いつかの約束
〜 重なる運命 〜


written by 月琉様

「あーみちゃん、帰ろう♪」

帰りのHRを終え暫く経った頃、うさぎが亜美の教室へとやってきた。

美奈子、星野、夜天は仕事で休みの為、今日はうさぎが亜美のクラスへお迎え。

の筈が…うさぎが教室の扉を開きキョロキョロと教室内を見回すが、疎らになった生徒の他に大気が日直の仕事をしているだけで亜美の姿が見えない。

「あれぇ?大気さん、亜美ちゃんは?」

「おや、月野さん。亜美は今日塾ですよ。聞いてませんか?」

「そっか、今日は新しい先生が来るから早目に行って準備を手伝うって言ってたっけ」

「新しい先生ですか?それは初耳ですね」

「あらっ、もしかして心配ですか?」

ニヤニヤとからかうつもりで聞いたうさぎに、大気は至極当たり前のように答える。

「えぇ、亜美は可愛いですからね」

「・・・・。」

恥ずかし気もなく、そんなことをさらっと言う大気を見てうさぎは思う。

(大気さんは本当に亜美ちゃんが好きなんだなぁ…良かった)

と。そう、うさぎは亜美や美奈子、まことやレイには好きな人と幸せになってもらいたいとずっと願っていたのだ。

"戦士" としてではなく、一人の "女の子"
として笑っていてほしいと。

だから、こうやって亜美のことを幸せそうに話す大気を見るとうさぎも嬉しくなる。

「亜美ちゃん、天然さんだから大気さんも大変そうですね」

「天然…確かに。それに自分のことには特に鈍感なので、やはり心配は心配ですね。」

そう言って苦笑いをしながら帰りの支度を済まし、教室を出て大気。

「では、月野さん。私は部活の方に顔を出しますので」

「はいはーい♪じゃあ、亜美ちゃんによろしく〜」

うさぎが手を振り、走って行くのを見届けると大気も部活のある情報処理室へと向かう。

その道すがら先程うさぎと話した会話を思い出した。

亜美の "自分のことには特に鈍感" というのは恋愛に関してだ。

亜美は自分に向けられる特別な好意に気付かない上に、自分を好いている男子が多数いるのも知らない。

まぁ、それは学校にいるうちはいいのだ。
自分が目を光らせていればいいし、恐らく校内で亜美の恋人が大気光だということを知らない生徒はいないから。

そう、問題は…外。

特に亜美は塾に通っている。
亜美の通う塾は有名塾な為、わざわざ他の市から来る生徒も大勢いる。

ともなれば、当然学校での亜美のことを知らない生徒もいるわけだ。

彼氏がいることも知らないのだから、そんな成績優秀で可愛い少女が同じ塾にいたら男子生徒から好意を寄せられる確率は決して低くない。

大気はそれを心配していた。

だが…恋愛に関しては特にストレートに言わないと分からない亜美だ。

もし仮に、そんな状況になっても相手の想いに気付かないことの方が有り得る。

だから…

(…まぁ…多分大丈夫でしょう。)

そう思いつつ窓の外を見ると、いつの間にかちらちらと雪が降ってきたのに気づいた。

「雪…今年は雪が多いですね。…今日は予定も無いことだし、後で亜美を塾に迎えに行きますか」

(偵察も兼ねてね…なんて。)

大気はくすりと笑うと、情報処理室の扉を開き中へと入っていった。

★★

──── その頃亜美はというと。

「ごめんなさいね水野さん、手伝って貰っちゃって」

「いいえ、私にできることでしたらお手伝いします」

亜美がそう答えたのはこれから産休に入る為、新しい講師に引き継ぎをする松山だ。

「松山先生、新しい先生はどんな方なんですか?先生の大学の後輩の方なんですよね?」

「んー、そうねぇ…ちょっと変わってるけど頭が良くて、大学では鉱物学を選考してたわ。」

「鉱物学…ですか?」

「ええ、あまり聞いたことないわよね。鉱物学って言うのはね…」

鉱物学とは地球科学の一分野で、鉱物の化学、結晶構造、物理的・光学的性質を追求し、鉱物の形成と崩壊のプロセスについても研究する。

固体物理学・無機化学・結晶学・地球化学・固体惑星科学・岩石学・鉱床学・博物学・材料科学の学際領域に存在する学問分野である。

「ちょっと地味だけど、多彩な分野にまたがってる学問なのよ。確か…彼がお守り代わりに持ってる鉱石があって…なんて言ったかしら…灰簾石だったかな…」

「灰簾石?」

「ええ、それは和名で一般的には…」

松山が続きを言おうとした時、準備室の扉をノックする音が聞こえた。

「あ、来たわね〜!どうぞー」

「失礼しまぁ〜す」

扉がゆっくり開き、中へと入ってきた人物を見て、亜美は違和感を覚える。

(…?何処かで…)

ウェイブをかけた長い綺麗な亜麻色の髪に、胸元にフリルのついた白いシャツと、シルバーのストライプが入ったダークグレーのスーツは女性物だろうか。

そんな彼は、松山に挨拶をすると前に座っていた亜美をじっと見つめた。

「……亜美?」

「えっ?!」

まさか見知らぬ相手に名前を呼ばれるとは思っていなかった亜美は目を丸くさせた。

「あら、貴方たち知り合いだったの?だったらちょっと二人で話しててくれる?資料取ってくるわ〜」

「えっ、松山先生?!ちが…」

松山は亜美が皆まで言う前に扉を閉めて出て行ってしまった。

部屋に残されたのは亜美と、どうやら自分を知っているらしい彼だけ。

困惑した様子の亜美を見て、彼はくすくすと笑う。

「…まだ分からない?」

「分からないも何も、貴方とは初対面だと思うんですが…」

「初対面…ね。」

その言葉に彼は寂しそうな顔をしながら、持っていた鞄からゴムを出して髪を結わい出す。

「何をしてるんですか……っ?!」

「…これでも分からないかしら」

ウェイブのかかった亜麻色の髪を左耳の横でゆるく結わったその姿に、亜美は驚愕した。

「…ゾイ…サイ…ト…」

「ご名答っ!さすが知性の戦士マーキュリーね。でも、今は灰園黝(ハイゾノ ユウ)っていうのよ」

うふふと笑うゾイサイト…いや、灰園は呆然としている亜美の頬を両手で包み、コツンと額と額を合わせ続けた。

「…やっと見つけた。言ったでしょ?"来世では必ず貴女を見つける" って…」

「…!!まさか…前世を…」

「ええ。転生して貴女と闘って倒されたことも覚えてるのよ。勿論、貴女の名前も…貴女のことはひとつ残らず覚えてる。」

灰園はそう言うと愛しそうに亜美をぎゅっと抱き締めると、今の亜美には追い討ちとも言える言葉を囁いた。

「…貴女のことが好きよ。ずっと会いたかった」

「っっ!!!」

その瞬間、亜美の頭は真っ白になった。
突然電灯の灯りがパチンっと消えたように一瞬にして世界が色を無くしたのだ。



────・・・その後の事はあまり覚えていない。

何を勉強したのかも、どうやって家に帰ったかさえも記憶が曖昧なのだ。

それ程、亜美の頭は混乱していた。

気付いたら見慣れた自分の部屋のベッドで朝を迎えていた。

「…夢?…そうよ、きっと夢だったんだわ。でも…」

(夢なのに…この胸のドキドキは…何?)

胸に手を当てると、いつもより鼓動が早いのが自分でも分かる。

落ち着かせようと深呼吸をしてみるが、早鐘を打つ心臓はいつまでも治まる気配がない。

大丈夫、大丈夫と口に出しながら、ふと枕元にあったスマートフォンのディスプレイに着信とメールを知らせるマークが見えた。

どちらも大気からの物で、どうやら自分を塾まで迎えに来てくれたらしいのだが大気が着いた時には既に帰った後で、メールも電話も繋がらず心配しているようだ。

慌てて電話画面を呼び出して、大気に電話をかける。

時刻はまだ朝の六時で、今日は土曜日の為で学校も休み。

確か仕事も無かった筈なので、まだ寝ている時間だろう。

でも、すぐにでも声が聞きたい。

夢の話しをして「悪い夢ですよ」と優しい大気の声で言われたい。

だけど…

もし、あの "夢" が本当だったら?

もし、そのせいで大気を不安にさせてしまったら?

そんな思いが頭を過ってしまい、亜美は震える手で終話ボタンをスライドさせスマートフォンをサイドテーブルに置いた。

ゆっくりとベッドを下り、カーテンを開くと灰色の空からぽつぽつと雨粒が落ちてベランダのコンクリート部分に染みを作って行く。

その染みはあっという間に広がり、濃い灰色を成して行った。

そして小さな雨粒はすぐに大粒の雨に代わり、まだ夜が明け切らない冬の街が冷たい雨に濡れる。

──・・・まるで、今の自分の心のようだ。

灰色の靄がかかったような先の見えない不安。

震える小さな自分の身体を亜美はぎゅっと抱き締めた。

「…っ…大気…さん…」

その間も、テーブルの上で着信を知らせるランプが点滅しているのにも気付かないまま、亜美の瞳からは次々と雨粒にも似た冷たい雫が落ちていく ────・・・

End,






月琉様
素敵なお話ありがとうございますo(*^▽^*)o

月琉様のサイトでキリ番をゲットして、大亜美←ゾイをお願いしたところこんなに素晴らしいお話を書いてくださいましたo(≧ω≦)o

はうぁ〜っ♪切なさが素敵すぎて震えますね(((o(*゚▽゚*)o)))

宝物にします♪
本当にありがとうございましたっp(*^o^*)q



戻る
Top
[*prev] [next#]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -