「美奈」
「なぁに?アル」
「そろそろ窓閉めたほうがいいよ」
「そうね」
そう言ったきり、動こうとしない美奈子を見てアルテミスは小さくため息をついた。
今のやり取りをして3回目。
日中はまだ少し暑かったりする日があったとしても、10月も終わりになれば夜は冷える。
このままでは美奈子が風邪を引くかもしれないので、アルテミスは窓に飛び乗り、自分でそれを閉める。
「ねぇ、アル」
「ん?」
「今、何時?」
「…………10時24分だよ」
「そう…」
美奈子はベッドの上で膝を抱える。
傍にはうさぎ達がくれたバースデープレゼントが大切そうに置かれている。
大切な人たちに祝ってもらえて、プレゼントも貰えて嬉しかった。本当に心から喜んだ。
でも、そこには誰よりも祝って欲しい人からのプレゼントはなくて…。
「はぁっ」
小さくため息をつく。
今、スリーライツはとても忙しい。
わかっているけれど……
「夜天君…」
「……」
愛する人の名前を呟いた美奈子をアルテミスはただ見守るしか出来ないのだ。
(何やってるんだよ、アイツっ!)
「ねぇ、美奈、あの…さ」
「うん…」
美奈子は返事をするが、心に想うのはただ一人だ。
アルテミスもそれが分かっているから、何も言えない。
(夜天君……)
――♪〜♪♪♪
「っ!もしもし!?」
『美奈っ!遅くなってゴメン!もうつくから!』
「〜っ、うんっ!待ってるからっ」
――バンッ!
「『――泣かないで』」
「っ!ヒーラー?」
窓のところにある木に着地したセーラースターヒーラーは美奈子に微笑むと、一瞬で夜天に戻る。
「は、入って」
美奈子は目を丸くさせながら、慌てて窓を開く。
「うん。お邪魔します」
夜天は靴を脱ぐと窓から忍び込む。
アルテミスは尻尾をひょいひょいと振って静かに夜天と入れ替わるように窓から出ていく。
「アル、どこか行くの?」
「ルナのところ」
「そうなんだ」
「気を付けて行ってくるのよ」
「うん、それじゃあ。二人とも風邪ひいちゃダメだから、窓は閉めるんだよ」
「うん」「わかったわ」
木を伝って塀に飛び降り去っていくアルテミスを二人で見守る。
「夜天君」
「なに?」
「びっくりしちゃった」
「車よりもずっと早いからね」
「大気さんに叱られちゃうんじゃないの?」
「大丈夫だよ。大気も経験済み」
「えっ?///」
「なんで、そこで赤くなるの?」
「う、ううん///」
「美奈」
「なぁに?」
「遅くなってごめん」
夜天は美奈子を優しく抱きしめる。
「ううん、来てくれたから、もういいの」
夜天の匂いとぬくもりに、さっきまで感じていた寂しさが嘘のようになくなっている。
美奈子の髪を優しく梳くと、一房指に絡めくちづける。
「っ///」
その仕種が綺麗で、美奈子は夜天に見惚れる。
「17歳の誕生日おめでとう。美奈」
夜天はそう言うと、美奈子のくちびるにキスを贈る。
「僕からのバースデープレゼントは――これ」
ごそごそとポケットを探り、ミュージックプレイヤーを取り出す。
「美奈がいつも使ってるイヤフォンかヘッドフォン出して」
「うん」
美奈子はごそごそとバッグを探ると、愛用のイヤフォンを出す。
「あった?はい、じゃあこれ聞いてて。一曲しか入ってないから」
そう言うと、夜天は靴を持って窓から出ようとする。
「え?帰っちゃうの?」
「違うよ。玄関からお邪魔しなおしてくるよ。
こんなところ美奈の両親に見つかっちゃったらいいわけできないでしょ?」
「あ、うん。分かったわ」
「窓、閉めなよ?」
「うん。気を付けてね」
「大丈夫」
夜天は身軽に木から、塀、地面へと飛び降りると、見守っていた美奈子に親指を立ててにっと笑う。
「っ///」
赤くなる美奈子を見てくすりと笑うと、夜天は耳を指でトントンと叩く。
『聞いておくように』との合図が伝わったらしく、美奈子はイヤフォンをさっき渡したプレイヤーに繋いで操作をする。
『“HAPPY BIRTHDAY 美奈”』
「っ///」
突然、聞こえた夜天の声に美奈子は驚く。
下を見ると、夜天が悪戯っ子のように美奈子を見上げている。
『“えっと、僕の気持ちを歌にしてみたんだ。その、作詞作曲は初めてだから、期待はしないで欲しいんだけど...さ”』
(え?夜天君が作詞作曲した歌?)
美奈子の驚きようを見て、そろそろ始まったと悟った夜天は玄関の方に向かい、深呼吸をしてチャイムを鳴らす。
――ピンボーン
『はい?』
「夜分遅くに申し訳ありません。こんばんは。夜天です」
『あら、夜天君。今開けるわね』
「はい、ありがとうございます」
カチャリと扉が開いて美奈子の両親が顔を覗かせる。
夜天はきちんと挨拶をする。
「寒いだろう?上がりなさい。ちょうどコーヒーが入ったんだ」
「ありがとうございます」
「お仕事忙しいのに、わざわざ美奈子のためにありがとう」
「いえ、僕が美奈子さんに会いたかったんです。遅くなってしまったのに、こうして入れていただけて感謝します」
頭を下げる夜天に両親はくすりと笑うと快く夜天を招き入れる。
「美奈子なら部屋にいるわよ」
「はい。上がらせていただいても?」
「どうぞ?」
「せっかくだから美奈子も呼ぼうか?」
「それじゃあ、夜天君。あとで美奈子を連れて下りてきてくれるかしら?」
「分かりました。では」
階段を上がっていく少年の後ろ姿を見送り、リビングに戻った両親はコーヒーと二人分のカップを追加で出しておく。
「本当にいい子よね、夜天君」
「あぁ、そうだな」
最初は“芸能人”で、しかも“トップアイドル”の“夜天光”が娘の恋人だと知った時に心底驚いたのだが、実際に彼に会って話をして取り越し苦労だったと分かった。
なにより、ずっとどこか元気のなかった娘が“スリーライツ復活”と同時期あたりから、いつものように明るさを取り戻した事を感じていたのだから、美奈子の気持ちも夜天の想いも真剣だと分かった。
――コンコン カチャリ
「オジャマシマス」
なんて、わざとらしく言って部屋に入る。
「美奈?」
窓の方を見つめたままこちらを見ない美奈子にそっと声をかける。
「どうか、した?」
夜天は緊張していた。
作詞も作曲も本当に初めてで、
恋人同士になってから初めての美奈子へのプレゼントだったから、
“自分しかあげられないモノ”を贈りたくて。
自分の想いを“歌”にして、
彼女に渡したまでは良かった――が。
(うっわ…僕、今思えばすっごいキザな事したんじゃ///)
今さらながら恥ずかしさがこみ上げる。
さっきから、窓を見たまま動かない美奈子の反応が正直こわい。
「ーっ」
「夜天、君」
くるっと美奈子が自分の方を見た。
「っ!美奈?!どうして泣いてるのさ」
夜天は慌てる。
「だ、だって〜っ...」
「泣かないでよ」
ギュッと美奈子を抱きしめる。
「言ったでしょ?僕は美奈には笑顔でいて欲しいんだって」
「違うの。これは…っ、嬉しくてっ」
そう言ってますます涙をこぼす美奈子に夜天はくすりと笑う。
「僕の気持ち――伝わった?」
「っ/// うんっ///」
「っ/// 感想…は?」
「とっても素敵な誕生日プレゼントだわ//////」
「当然でしょ?“美奈のための曲”なんだから///」
「毎日聞くもん///」
「それは、恥ずかしいからやめて...」
夜天の“歌”は、“愛の女神”へ捧げる史上最強のラブソング。
君は僕だけの女神 お読みくださりありがとうございます!
美奈誕ギリギリ間に合いました!
初めての美奈子ちゃんのお誕生日なので17歳です。
夜天君は、いつも美奈子ちゃんに振り回されているので、たまには美奈子ちゃんを翻弄しちゃえばいいと思います。
では、ありがとうございました。