夜天×美奈子 | ナノ




恋道

夜天君たちが帰ってから、寂しかった。

でも、そんな想いをしているのはあたしだけじゃないんだからって思っていつもみたいに振舞った――みんなの前では。

家に帰って部屋で一人になるとこっそり泣いた。

アルテミスは見ないふりをしてくれて、時々真っ白のシッポがあたしの涙を吸い込んでくれた。

うさぎちゃんが衛さんと別れた事はあたし達に大きな衝撃を与えた。

だって、決まっていた未来をうさぎちゃんと衛さんは覆した。

自分達の手で、新しい未来を切り開こうとしていた。

その志は気高く、凛としていて、うさぎちゃんを護るためにもっと強くなりたいって思った。

その少しあとに、あたしはみんなに夜天君と両想いになっていた事を話した。

うさぎちゃんは「えぇっ!?付き合ってたの?」って驚いてて
レイちゃんは「あぁ、やっぱり」って言ってて
まこちゃんは「さすが愛の女神、やるなぁ」って関心してて
亜美ちゃんはただ驚いてた。

亜美ちゃんだって大気さんが好きで、離れ離れになっても心でずっと大気さんを想ってるじゃない?って思ったから言ってみた。
「亜美ちゃん、あたしと一緒ね」って。

そしたらきょとんとしてて、その時にあたしは気付いた。
亜美ちゃんが自分の気持ちに気づいてないってことを。
みんなも亜美ちゃんの反応に驚いてた。

そのすぐ後、レイちゃんは雄一郎さんと、まこちゃんは浅沼君と晴れて恋人同士になった。

あたしも、うさぎちゃんも、亜美ちゃんも心からそれを喜んだ。



季節は巡って夏がやってきた。

亜美ちゃんのおかげもあって、あたしもうさぎちゃんも赤点を取らずにすんで、夏休みの補修を免れる事ができた。

夏休みに入ってすぐみんなで海に行ったり、相変わらず勉強会したりして日々は過ぎていった。

お風呂上り、窓を開けてあたしは今夜も空を見上げる。

キンモク星ってどっちにあるんだろう?って思いながら。

ねぇ?夜天君?

復興作業はうまくいってる?
無理してない?
ちゃんとごはん食べてる?
体調とか崩したりしてない?

ねぇ――あたしを思い出してくれてる?

夜天君には「もう逢えなくても、あたしの想いは変わらない」って言った。

その誓いは決して嘘じゃない。

『美奈は寂しがりやだからね』
『僕がいなくなったら泣いちゃうんじゃないの?』

「そんな事ない」って言ったけど、夜天君の言った通りだ。
うさぎちゃんより泣き虫なんじゃない?って言うくらいに泣いてる気がする。

『美奈が泣いても抱きしめてあげられないから、泣かないで欲しいんだけどな』
少し困ったように笑った夜天君の笑顔が優しくて、ちょっぴり泣いたのは夜天君にはバレバレだった。

「っ...会いたい…っ...
会いたいよぉっ…寂しいよぉ…夜天君...っ」

「あーあ、やっぱり泣いてる」

突然耳に届いた声にあたしは顔を上げる。

「“そんな事ない”って言ってたくせに…うそつき」
この――声。




「うわ…あっつ…」
地球に戻ってきた僕の第一声はそれだった。

湿度を含んだ体にまとわりつくような空気が不愉快極まりない。
地球を発った時は恐ろしく寒かったくせに…
足して二で割ればちょうどいいに違いないとこっそり思いながら、僕はポケットに仕舞ってある彼女が身につけていたリボンを指先で撫でる。

観覧車の中でしたキスと、美奈のキラキラした髪と、抱きしめたぬくもりを思い出す。
毎日、美奈のリボンを見て思い出してたからもはや条件反射になってて、なんか悔しい。

僕は星野と大気に何も言わずにその場からかけ出した。

きっと泣いてるに違いない。

君を心の底から笑顔に出来るのは僕だけだって思い上がってもいいかな?

走って美奈の家の近くまで行く。

「はぁっ...はぁっ...」
さすがに全力疾走は疲れる。

今さらだけど、車で来れば良かった。
あー、ヒーラーで飛んでくるって手もあったなぁ…。

「なんで僕、走ってんの?」
息を整えながら、そういや運動なんて嫌いだったのにと思い出す。

そんなの考えるまでもないけどさ。

「はぁっ…家にいるよね…」
すごく今さらな疑問が頭をよぎった。

曲がり角を曲がると、美奈の部屋に明かりがついていて、窓のところに――いた。

美奈は空を見上げていて、その姿は切なそうで、だけどすごく綺麗で。

しばらく見惚れていると、美奈が俯いた。

「っ...会いたい…っ...
会いたいよぉっ…寂しいよぉ…夜天君...っ」

あぁ――“僕”を想ってくれてたんだ。

「あーあ、やっぱり泣いてる」
思ったことが、そのまま口に出ていた事に自分でも驚いたけど…
それよりも美奈の反応の方が驚いてて───愛しさがこみ上げる。
「“そんな事ない”って言ってたくせに…うそつき」




「や、てん…くん?」
窓の下に立つ銀の髪に、エメラルドの瞳の人物は間違いなく美奈子が愛する人だった。
美奈子は目をぱちくりさせる。
「――夢?」
「ちょっと!人が頑張って走ってきたのにそれはひどくない!?」
「夜天君」
「そうだよ」
「っ、あ、すぐに開けるから!あ、ちょっと待って!着替えるから!」
「分かった。慌てなくていいよ」
「うん!」
窓とカーテンが閉まる。



――カチャリ…キィ

ドアの開く音がして夜天が身構える。
美奈子にしては早すぎる。
だとしたら、美奈子の両親かもしれないと思った――が。
どうやって開けたのかアルテミスが家の鍵を開けて出てきた。
「久しぶり、アルテミス」
「――おかえりって言っていいのかい?」
「うん」
「そうか」
少し俯いたアルテミスの長いヒゲが風でそよそよ揺れる。
「もう、美奈を――泣かせるな」
「うん。もちろんだよ」
「今夜美奈の両親は帰って来ないからよろしく頼む」
「君はどこに行くの?」
「馬に蹴られたくないからね。司令室ででも寝るさ」
少し拗ねたように言うアルテミスに夜天はくすりと笑う。
「なんだよ!」
「ありがとう、アルテミス」
「お前のためじゃない!美奈のためだからな!」
「うん、わかってる。美奈は僕が護るよ」
「ふんっ」
「アルテミスはルナを護るんじゃないの?」
「お生憎様だけど、ルナは僕よりもしっかりしてるんだよ」
「なるほど」
夜天はしゃがんでアルテミスと目線を近くする。

「アルって呼んでもいい?」
「っ…しょーがないから許可してやるっ!
言っとくけど、僕をそう呼んでいいのは美奈とルナだけだったんだからな!」
「うん。ありがとう。これからよろしくアル」
夜天はアルテミスの頭を撫でる。
「っ!もう行く!美奈を泣かせてみろ!ひっかいてやるからな!」
「うん。覚悟しておくよ」
アルテミスはぴょんと軽やかに塀に飛び乗ると夜天に振り返らずに歩いていった。
長い尻尾が嬉しそうにふられているのを見て、夜天はくすくすと笑う。

「お邪魔します」
カチャとドアを開けて中に入らせてもらう。
「えぇっ!?なんで鍵開いてるの!?」
階段をパタパタと駆け下りてきた美奈子が夜天が家にいるのを見て驚く。

「アルが開けたんだよ」
「え?アルが?なんで?」
美奈子はキョロキョロと相棒の姿を探す。
「出かけていったよ」
「そう、なの」
「美奈をよろしくってさ」
「っ///」

「上がっていい?」
「うん!どうぞ!」
「お邪魔します」
夜天が靴を脱いで家に上がる。

「えっと、あのっ、走って来たのよね?暑いでしょ?お茶飲む?」
冷蔵庫のあるキッチンの方に行こうとする美奈子の腕を夜天が掴む。
「あとで、いいよ」
「そ、そう///」
掴まれた腕から伝わる熱に美奈子の鼓動が早鐘を打つ。

「美奈」
後ろから夜天にだきすくめられる。
「っ///」
「こっち向いてよ?」
「だ、だって、恥ずかしいんだもん///」
「僕に会いたかったんでしょ?――泣くくらい」
くすりと夜天が笑う。
「ーっ/// うん/// 会いたかったっ///」
「僕もだよ。僕も――美奈に会いたくてたまらなかった」
美奈子は素早く体を反転させて夜天に抱きつく。

「夜天君!」
「ただいま、美奈」
「おかえりっ!お帰りなさい!夜天君っ!!」

二人はしっかりと抱きあい、どちらからともなく甘い口づけを交わす。

何度も、何度も――それまでの寂しさを埋めるように何度も。



「僕がいない間、浮気してなかった?」
「してないわっ///」
美奈子の部屋に上がり、夜天がベッドにもたれかかり、美奈子はその前に向かい合わせに座る。
「他のアイドルはおっかけてたんじゃないの?」
「してないもん/// スリーライツより、夜天君よりカッコイイ人なんていないもんっ」
「へぇ?だから僕のポスターがベッドの上に貼ってあるんだ?」
「うっ/// だ、だって、夜天君に見守られてるみたいで、安心して眠れるから///」
「っ」
夜天は美奈子の発言に息を飲む。

(可愛すぎだよ、美奈)
そう思いながらも、ポーカーフェイスを保って彼女の耳元で囁く。
「今夜は、ポスターなんかじゃなくて本人がいるけど?」
甘い誘惑を。
「なっ///」

「“約束”忘れた?」
「わ、忘れてないっ...けど///」



『夜天君…』
夜天がキンモク星に帰る前の遊園地デートの帰りのこと夜天と美奈子は帰路につこうとしていた。
『何?』
美奈子が夜天を呼び止めた。
『あの、ね/// お願いが、あるの』
『……うん。何?』
何か決意を秘めた美奈子の瞳に夜天は次の言葉を待った。
『――抱いて』
美奈子の言葉に夜天は小さく頭を横に振った。
『ごめん』
『――っ』
美奈子の瞳から涙が溢れ、小さく嗚咽をもらし始めた。
夜天は美奈子を強く抱きしめた。

『ごめん美奈。泣かないで。
僕だって…っ、君が欲しいよ』
『じゃぁ…っ、なんでっ』
『っ、ここで君を抱いたら――僕は君をさらって行ってしまう。
君にずっと傍にいて欲しくて、この星から連れ出してしまう。
それは、ダメだ。そんなのダメなんだよっ――美奈』
夜天の辛そうな声に美奈子はますます泣いた。
『ごめんっ』
そう言って夜天は美奈子にくちづけた。
『でも、もし』
『っ』
『もし、僕が地球に戻ってきたら、その時は――』
『っ、うんっ』

『『約束』』



「っ///」
美奈子はその時の事を思い出して真っ赤になる。
「自分から誘ったんだから、覚悟はできてるよね?」
夜天が今まで見たことないほど色っぽく微笑む。
「えっと///」

「ぷっ、あはははは」
「なっ!?///」
「なんて顔してるのさ、あはは」
「や、夜天君ひどーい!」
「ご、ごめんごめん」
そう言いながら笑う夜天は目に涙を浮べている。
「笑いすぎ!」
「ごめんってば」
「もうっ」

「美奈がいいっていうまでは我慢するよ、うん。多分できると…思う」
「〜っ/// 夜天君って結構えっちぃ///」
「美奈にだけだからいいの」
「っ///」
真っ赤になる美奈子に夜天は愛しさがこみ上げる。



ねぇ、美奈。これから覚悟してね?
今まで寂しい思いをさせた分、たくさん愛してあげるから。
君も僕を愛してくれるよね?


ねぇ、夜天君。これからたくさん貴方に愛を伝えるわ。
あたしが、どれだけ夜天君を愛しているか。
だから、もう放さないで、いてくれる?







お読み戴きありがとうございます。

夜美奈再会編をお届けしました。

私にしては驚きの速さでした。

なんのストックもない状態からダイレクトに書き始めて、書けましたぁ。

ワタシ、ヤレバ、デキルコ(自画自賛)

続けて書いたので書きやすかったのもあると思います。

では、ありがとうございました。



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