星物語 −Star light Story− | ナノ


−接触−

『もしもし』
「やーっとかかってきましたわ!わたくし達はもう一週間も前に東京に着いてましてよ!」
『遅れてすみません。ちょっと手続きに時間がかかりました。
それで?彼女達に勝手に接触はしてないでしょうね?』
「“私たちが行くまではくれぐれも勝手な行動をしないように”と言ったのは、アンタらだろ?」
『約束、ちゃんと守れたんですね』
「それってわたし達が信用されてなかったってこと?」
『そうではありません。事が事です。慎重に進めないと』
「わかってるよ〜?だからすーーーっごく我慢したよ?」
『そうですね。ところで貴女達は今どこにいるんですか?』
「東京タワーの近くですわ」
『分かりました。私たちも今すぐそっちに向かいます。
分かっているとは思いますが、くれぐれも目立つ行動は避けてください』
「了解でしてよ」

携帯を切った少女たちは顔を見合わせる。

「みんな早く来ないかな〜」
のんびりしたような口調でそう言うのは水色の髪の少女。
「気がはえーな、おい」
呆れたような口調で、水色の髪の少女を見つめるのは緑の髪の少女。
「気持ちは分かるけどね」
赤毛の少女が苦笑しながら言うと
「そうですわね」
と、桃色の髪の少女が神妙な面持ちで答える。

「まぁ、オレもだけどな…」
「協力───してもらえるかしら?」
「サターンは“きっと大丈夫”と言っていましたわね…」
「だいじょーぶだよ。あのお姉ちゃんたちなら」
「そうあって欲しいですわね」
「さて、あいつらが来るまで、ちょっとそのへんふらつこうぜ」
「そうね。もう“こっちの東京”は見納めになるだろうし」
「見納めになって欲しいの間違いではなくて?」
桃色の髪の少女の指摘に、赤毛の少女は「まぁねー」と軽く返事をする。

「アイス食べた〜い」
「えー、オレ肉まんがいい」
「わたしはクレープがいいけどなぁ」
「こうなったら全部制覇すればいいですわ」
好き放題言う仲間たちに桃色の髪の少女がそう言うと四人は連れ立って歩き始める。

少女たちと電話を終えたせつなはみちると連絡を取り合う。
「せつな。そっちはどう?」
「東京タワー近くにいるようです」
「そう。こちらは美奈子たちに連絡ついたわ」
「それで、彼女達はなんと?」
「“今まで言えなかった事”を“彼ら”に話すそうよ」
「それは……っ」
「ちょうどいい機会だと思わなくて?」
「そうですね」
「私達も“大切な話があるから”と、告げたらある所へお誘いを受けたわ」
「なるほど…彼らのマンションなら邪魔も入りませんね」
「えぇ、その前に“まずはお転婆娘達を拾いに行こう”と、はるかが言ってるわ」
はるかとみちる、衛とせつなとほたるを乗せた二台の車は東京タワーの方向に向けて走り出す。





アマゾネスカルテットの四人の少女達は、セーラー戦士達とデッドムーンサーカスの闘いが終わった後、うさぎ達の前から忽然と姿をくらませた。

「わたくし達は、何か大切な事を忘れている気がしますわ…」
「あぁ、そもそもなんでオレ達はあそこにいたんだ?」
「わかんないよ…思い、出せないもん…」
「なんとか、記憶を取り戻す方法はないのかしら…」

なぜデッドムーンサーカスにいたのか
どこから来たのか
家族の事
自分が何者なのか

彼女達は自分の“名前”以外、何も持っていなかった。

サーカス団にいた事が幸いし、街中でパフォーマンスをすれば客が集まり、それで収入を得た彼女達は、世界を転々とした。
目的もなく、何かを探し求めるように…。



そんなある日だった。
アメリカで少女達が、衛たちと出会ったのは。

「君達は…」
「あれ?お兄さんは確か…」
「タキシードのキザ野郎!?」
「その言い方はちょっと待ってくれないか…」
「あなた、どうしてこんな所にいますの!?」
「そうだよ〜、ここアメリカだよ〜?」
「俺は今こっちに留学してるんだ。君達こそなんでこんな所にいるんだ?学校は?」

「うーん…ちょっと色々あって自分探しの旅を…」
「自分探し?」
「そそ、オレ達みんなちょっとばかし記憶があやふやでさ」
「記憶が?」
「みんな名前以外わからないの〜」
「名前…以外が…」
衛は幼い頃、両親を事故で亡くした時の事を思い出す。
名前も何も覚えていなかった恐怖。

「君達…病院には行ったか?」
「行ってませんわよ」
「なぜだ?」
「そう言う単純な事じゃないからよ」
「しかし……」
衛が言い募ろうとした時だった。

───ドサッ

何かが落ちる音がして、衛と少女達はそちらに振り向いた。

「貴女───達…どうして“こちら”にいるんですか…」
「せつな?」
そこには驚いたと言うよりは、信じられないと言うような表情の冥王せつながいた。

彼女の表情を見た少女たちは息を飲む。

「あなた…“わたくし達”を知っていますのね!?」
「なに…を、言って…?」
せつなの表情は知り合いに会って驚いたとか言う単純なものではなかった。

「まさか……。あぁ…なんという事…」
「せつな?どうした?顔色悪いぞ?」
駆け寄った衛が今にもくずおれそうなせつなを支えた。
「だい、じょうぶです」
そう言うとせつなはゆっくりと深呼吸をして、自分を見つめる四人の少女達を見つめた。

「先ほどの、貴女達の質問に対する私の答えは───“YES”です」
「「「「っ!?」」」」
「私は、貴女達の事を知っています」

「頼む!教えてくれ!どんな小さな事でもいいんだ!」
「何かを思い出したくて、世界を回ってきたんだけど…」
「思い出せないの…ずっとね〜、違和感があるんだよ」
「ここは、自分達の居場所じゃないような……ちぐはぐな感じが拭えませんの」

「君達……」
「───分かりました。ここで私達が出会ったことは必然なのでしょう。
私の知る全てをお話します。長い話になります。私の家へ参りましょう。
衛さん。申し訳ありませんが、はるかとみちる達に連絡を。
それと、貴方にも聞いていただかなくてはなりません」
「あぁ、分かった。とりあえずは君の家に行こう」

「貴女達に関する話ははるか達が着いてからになります。いいですか?」
「えぇ、構いませんわ」

ちょうど、アメリカにいたはるか、みちる、ほたるの三人は衛からの連絡を受けすぐに(とは言っても場所が離れていたためにほぼ丸一日かかって)せつなの所へやってきた。



「貴女達は、本来なら“この時代に存在してはいけない”───いえ…“存在するはずのない者達”です」
せつなの言葉にカルテットだけでなく、衛達を含んだ全員が驚いた。

「この時代に、貴女達はまだ生まれてはいないのです」
「っ!」
せつなの言葉に衛はハッとなった。
「まさか、この子達は……」
「そうです」
せつなは頷くと、驚いた表情を浮かべている四人の少女を見据えた。

「貴女達は、今よりずっと遠い未来───30世紀の人達なのです」

誰も何も言えなかった。

「貴女達は、“その記憶”を失っている状態です」
少女達はこくりと頷く。
「───思い出したいですか?」
せつなが静かに聞いた。

「もちろんでしょ!」
「オレ達はそのためにアンタに話を聞きに来たんだ!」
「思い出せないとなんの意味ないの〜」
「お願いしますわ!!」
必死にそう言い募る少女たちを見つめ、せつなは頷いた。
「分かりました───では」



───そして



「あぁ、そうですわ…わたくし達は戦士だった」
「どうしてわたし達…こんなに大事なこと忘れてたの…」
「オレ達が、もっと早くに思い出してれば……っ」
「……っ、スモールレディ…っ」
セーラープルートの力ですべての記憶を取り戻した少女たちは涙を流していた。

「……帰りたい?」
ほたるが四人に聞き、四人はただ静かに頷いた。

「残念ですが、今は無理です」
変身を解いたせつなの言葉にセレスが詰め寄った!
「どうしてですの!貴女は時空の戦士でしょう!?」
「はい、ですが……」
「なぁ…聞いてもいいか…」
どう説明をするべきか考えていたせつなの言葉をジュノーが遮った。
「アンタ…」
ジュノーは衛を静かに見つめた。

「アンタ……キングだよな?」
「……」
「なんでアンタは“こんな所”にいるんだよ!」
「言っただろう?俺は留学中だと…」
「おかしいだろ!なんでクイーンの傍にいないんだ?」
「君達の言うクイーン・セレニティ……現代においての“月野うさぎ”と俺が、別の人と生きる道を選んだからだよ」
「っ!?」
衛の言葉に四人は息を飲んだ。

「なん…ですって?」
セレスがポツリと言葉を漏らした。
ベスタとパラスは青ざめた表情でそれを見ていた。

「俺は今、セーラープルートである彼女、冥王せつなと付き合ってるんだ」
「…っ!お前!」
「やめろ!」
衛に殴りかかろうとしたジュノーを、はるかが止めた。
「チクショ…っ!離せよ!ふざけんな!!なんだよそれ!」
ジュノーがはるかの拘束を解こうともがく。

「じゃあ、スモールレディはどうなるんだよ!!存在しねぇってのかよ!」
ジュノーの言葉にわっと泣き出した声があった。
「やだっ!そんなのやだぁ…っ!」
「パラス……」
その場にうずくまり、泣きじゃくるパラスをベスタがどうする事も出来ずに見つめた。
「オレ達だって嫌だ!オレ達は彼女を護るためにいるんだよ!!それをっ!」
今にも泣き出しそうになりながらジュノーは衛とせつなを睨みつけた。

「落ち着きなさい」
状況を静かに見ていたみちるが静かにそう言い放った。
「…っ、どうやって落ち着けって言うのよ!こんな状況で!!」
ベスタがみちるに食ってかかろうとした───が。
「人の話は最後まで聞きなさい!」
「っ!」
彼女の一喝に、驚いて何も言えなくなった。

「泣かないで」
ほたるが泣きじゃくるパラスの肩にそっと手を置いた。
「ふぇっ、だって…スモール…レディに、もうっ…会えないっ…て…っく」
「うん、でもね、あなた達を『30世紀に帰す』事は出来るかもしれないわ」
ほたるの言葉に「え?」と驚く四人。

「どういう事ですの?」
「ちゃんとお話しします。パラス大丈夫ですか?」
「…っ、うん…」
そういうは言うものの、カルテットの四人に動揺の色が隠せなかった。
「少し落ち着いた方がいいな」
はるかが言うとセレスが詰め寄った。
「そんな悠長な事言ってられませんわ!」
「だから落ち着けと言ってるだろう?焦っても僕らだけじゃすぐには動けないんだ」
「っ…」
「君達はまず一度落ち着くんだ。話はそれからだ。いいな?」
「わかりましたわ……」

そして、せつなの話を聞いた四人は東京へ行く事を決めた。
はるか達は手続きがあるので少し遅れるとのことだった。

「いいですか?絶対に彼女達に接触はしないでください」
「なんで〜?」
「なんの話も聞いていない彼女達の混乱を招くからです」
「わたし達が話せばいいんじゃないの?」
「いえ、私達が行くまではダメです。いいですね?」
「ちっ…めんどくせ」
「帰りたいのなら言うとおりにしてください。お願いします」
「わかりましたわ。わたくしが勝手な事をしないように見張っていますわ」
「───おねがいしますね。セレス」










「美奈子ちゃん?電話誰からだったんだい?」
「みちるさん」
「え?みちるさん?」
「とっても大事な話があるからライツのマンションに来るって」
「そうなの?じゃあ来るまで待ってた方がいいのかしら?」
「ううん。迎えに行かなきゃいけない人がいるから、途中から参加するって。
それまでに『貴女達の話しておかなくてはいけないことを話しておきなさい』って」
「そっか。じゃあ───はじめても、いい?」
「「「「うん」」」」



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