星物語 −Star light Story− | ナノ


−兆し−

──……ら…いで



誰?



──どうか、………ないで



この声、知ってる

優しくて
あったかくて

すごく懐かしい



──……が…わる…を、…………いで



なぁに?

よく聞こえない



──どうか、どうか

────セレニティ──





「──さぎちゃん!うさぎちゃん!うーさーぎーちゃん!早く起きなさい!」

「え?」
「やっと起きた?遅刻しちゃうわよ!」

目を開けると目の前で呆れたように言うのは、黒い毛並みに三日月マーク。

「る…な?」
「うさぎちゃん、どうしたの?」
うさぎの様子がおかしい事に気付いたルナが、心配そうに顔を覗きこむ。

「────夢?」
うさぎはさっきまでの夢を思い出そうとするが───

「なにか夢を見た気がするんだけど…思い出せないんだよね…」
まるで霞がかかったかのように、さっきまで見ていた夢は、もう思い出せない。

「どんな感じの夢だったの?」
「んー…懐かしい感じ?」
「懐かしい?」
「うん」
「ねぇ、うさぎちゃん?それって…」

「あーーーーーっ!?」
ルナが何かを言おうとしたところで、時計に目をやったうさぎが大きな声を出す。
「もう8時!?遅刻しちゃーうっ!」
うさぎは素早く着替えをすませ、カバンを掴むとバタバタと一階に駆け下りる───途中で階段から落ちたらしい音と、うさぎの悲鳴が聞こえる。

「もぉっ…何度も起こしたのに…」
ルナはそう言いながらうさぎが脱ぎ捨てたパジャマを器用にたたみ、枕の上にそっと置く。

「懐かしい夢…ね」

───コンコン

「ん?」
窓を叩く音が聞こえたので、そちらを振り向く。
「あら?」
ルナはぴょんとベッドから下りると、窓を開ける。

「おはよう、ルナ」
「おはよう、アル」
「うさぎはギリギリかな?」
「うーん…下手すれば遅刻ね」
「美奈も慌てて出て行ったよ」
「どっちも似たようなものね」
「そうだね」
二匹はクスクスと笑いあう。

「ところで、アルは朝早くからわざわざどうしたの?」
「───うん…少し気になる事があって…ルナに相談したくて」
「そう。ここじゃママ達に見つかった時に困るから司令室に行きましょ」
「うん。そうだね」



「セーフ!!」
ガラッと教室の扉を開けたうさぎに、亜美やまこと、美奈子が「おはよう」と、声をかける。

「はぁっ、間に合った〜…」
机にペシャリとダウンする。
「朝からお疲れ様、ホントにギリギリだね、うさぎちゃん」
「うん。新記録をジュリツしちゃったよ…はぁっ」
「うさぎちゃん、ちゃんと残りの宿題はやって来た?」
「うん!亜美ちゃんのおかげでカンペキ!」
「あたしもっ!いや〜、ホントに助かったわ〜」
「そ、そんな/// あたしは何も///」

まことは三人を見て嬉しそうに微笑む。
うさぎも美奈子も、亜美も、とても明るい笑顔を見せている。

(良かった…ホントに良かった)

スリーライツの三人が地球に戻ってきてから三ヶ月が過ぎた。
うさぎ達三人は彼らが戻ってきてから、前みたいに笑顔を見せている。
本当に良かったと思う。

「まこちゃん?」
「え?」
「どしたの?」
「はっはーん…さては浅沼君の事でも考えてたんでしょ〜?」
言いながら美奈子がまことをからかうために、脇腹をつつく。
「わ、何するんだよ美奈子ちゃん/// やめなって!そんなんじゃないから」
「え〜?ホントに〜?すっごい嬉しそうな顔してたわよ?」
「っ/// 嬉しいんだから仕方ないだろ!」
「浅沼君の事でしょ?」
「だから違うってば…あたしは、前みたいにうさぎちゃん達のホントの笑顔を見られて嬉しいんだよ」
「「「まこちゃん…」」」
「いや/// 違うよ!別にみんなの笑顔がウソだったとかじゃないよ!」
まことがわたわたと手を振って慌てる。

「まこちゃん」
「だいじょぶよ」
「ちゃんと分かってるから、ね?」
「うん。そうだね」

今日はスリーライツのメンバーは全員仕事で欠席だ。
その日の授業は無事に終わり、そのまま一度帰宅し着替えを済ませ、すぐに火川神社に集合する。



「じゃーん!今日のおやつはゼリーだよ」
「わー、キレイね」
「えぇ、可愛いわ」
「おいしそーっ♪」
「いつもありがとう、まこちゃん」

みんなでまことお手製のゼリーを食べる。

今日はいつもの勉強会なわけではない。
ルナとアルテミスに「学校終了後、一度帰宅してから火川神社に集合するように」と言われたのだ。
「さて、みんな急に集まってもらって悪い」
「何改まってんのよ?アルったら」
「真面目な話なんだ」
真剣な声音のアルテミスにみんなの表情が真剣味を帯びる。

「まさか…新たな敵?」
美奈子が可能性の一つを口にする。

さっきまでのほわほわした空気はそこには一切ない。

「今朝までの御祈祷では、そんな気配は感じなかったわ…」
レイも気を集中させる。

「違うわみんな。早まらないで」
「ルナ?」
「違うんだ」
「アルテミス?」

「みんな、最近同じ夢を見ていない?」
『───夢?』
五人はうーんと考え込む。

「うさぎちゃん」
「ん?」
「今朝、懐かしい夢を見たって言ったわね」
「んー…懐かしい感じがしたってだけで、ちゃんと内容とかは覚えてないんだけど…」
「それって小さい頃の懐かしさ?」
「うーん?小さい頃っていうか…」

(違う…。小さい頃の懐かしさじゃ───ない…。あれは……)

「うさぎだけじゃなくて、四人も最近、不思議な夢を見ないか?」
『え?』
「どんな些細な事でもいいんだ!夢の断片でも覚えてないか?」
『……』
アルテミスに言われた四人はそれぞれに思い出そうとする。

夢で誰かに会った気がする。
けれど、それはもやがかかったように朧気で、はっきりと思い出せない。

ただ、ひどく懐かしく、切ない感覚。

「ごめんなさい…思い出せないわ…起きた時…泣きそうになってた事は覚えているんだけど…なぜだったかまでは…」
「うん。あたしもだ…ごめん…」
「うーん…あたしも…似たようなもんだわ」
「夢の中では、すごく鮮明に覚えているはずなのに…」

「そうか…」

「ねぇ?今回集まったのって夢に何か関係があるの?」
「みんな、聞いて。アタシもアルも不思議な夢を見るの。うさぎちゃんが言うように懐かしい夢を」
「あたし達と同じなんだね?それで?」
「はじめは気のせいかと思っていたんだけど…」
「ルナとアルテミスも、毎日なのね?」
「そうなの。連日となると話は違ってくるの」
「何かの“暗示”の可能性があるってこと?」
「そうだ。そして、ルナや僕たちだけでなくうさぎやみんなもってなると───」
アルテミスの言いたいことを理解した五人は息を呑む。

「前世と何か関係があるって事ね?」
「あぁ…」
美奈子が言うとアルテミスが頷く。

「“前世”ってなんの事だよ?」
『っ!?』
部屋の外から聞こえた声に五人と二匹はぎくりとする。
レイの部屋の扉が開き、そこには星野と夜天、大気の三人がいた。
「やぁ」
「お邪魔してます」

「…っ、星野…今の聞いて…」
「あぁ、“前世”ってなんだ?」
そう言って、真剣な瞳でうさぎを見つめる。

話に夢中になっていたとは言え、気配に気付けなかった。

「一体、何を隠してるの?美奈」
「それは…っ」
美奈子は夜天から瞳を逸らせる。

「話してはもらえませんか?亜美」
「っ…」
亜美は目を伏せると、ふるふると小さく頭を横にふる。

「僕達には話せないことなの?」
「それとも話したくないですか?」
「落ち着けよ。悪かったな」

「───ねぇ、みんな」
うさぎは彼らを見て、静かに口を開く。
「星野たちに話しても、いい?」

『っ!?』
うさぎの言葉に四人が驚く。

「あんた分かってんの!?星野君たちに話すってことはっ」
「わかってる」
「っ…」
うさぎの決意の固さを感じたレイは息をのむ。

「もう、決めたのね?」
亜美は切なそうにうさぎに聞く。
「うん。いつかちゃんと話をしなくちゃいけないって思ってたから」
「うさぎちゃん…」

「亜美ちゃんも、それに美奈子ちゃんもそうでしょ?」
「「…っ」」
二人がそれぞれ自分の恋人を見つめ、うつむく。

「レイちゃんも、まこちゃんも雄一郎さんや浅沼君にいつまでも隠しておけないって思ってるでしょ?」
「「っ!?」」
「あの二人はあたし達の正体に気付いてる。
気付いてて何も言わないんだよ?それでいいの?」
「「それは…」」
レイもまことも何も言えなくなる。

「うさぎ、僕もルナも星野たちに話すことは反対しないよ。でも無関係の雄一郎たちに話す事は」
「アタシはいいと思うわ」
「ルナ!?」
「いい機会よ。本当にレイちゃんとまこちゃんが彼らと未来を歩みたいのなら───」
「だからって!」
「それにこれから先、また敵が現れないとは限らない」
「それは…っ」
「誤魔化しきれなくなる時が必ず来るわ」
「そうだろうけど…でも、今じゃなくても」
「今だからよ。星野君たちと雄一郎さん達の立場は似たようなものよ」
「どこがだよ!?星野たちはキンモク星の戦士だけど、雄一郎たちはただの人間じゃないか!?」
「戦士だろうがただの人間だろうが、“太陽系の戦士”であるみんなを恋人にする事を選んだのよ?」
「っ!?」
ルナの言葉にアルテミスだけじゃなく、ライツの三人も息を呑む。

「知る権利は同じだと思わない?アル」
「…ーっ」
「アルの気持ちもわかるわ。知ってしまったら彼らも危険に晒されるかもしれない…」
「そうだよ…星野たちは自分の身を守れるけど、雄一郎たちは…」
ルナとアルテミスのやりとりを黙って見ていたレイとまことは口を開く。

「その件についての判断はあたしとまこちゃんに任せてもらえない?」
「さすがに今すぐに答えを出すのは無理だからさ、少しでいいんだ。時間もらってもいいかい?」
「───分かったよ」
アルテミスは渋々と言った感じで頷く。
「じゃ、この話はここまでね。星野君たちも気持ちは分かるけど、今日のところは了解してくれると助かるんだけど」

「あぁ」
「いいよ」
「わかりました」
三人も神妙な面持ちで頷く。

「そう言えば、星野たちは何でここに?」
「え?あぁ、今日出た番組でスイーツ特集があってそれで差し入れをもらったからさ、放課後はここにいるだろうって思って来たんだよ」
「スイーツ?どこどこ!?」
「ったく、そんなに慌てなくてもここにちゃんとあるよ」
「早く見せて!」
「はいはい」
いつものようにはしゃぐうさぎと星野。

「ほら、美奈はいらないの?」
「え?あ、ううん!うさぎちゃんだけズルイ!あたしにも見せて!」
「あ、コラ!あんた達だけだと二人で食べちゃうでしょ!?」

「みんなよく食べるなぁ」
「本当ね」
三人のやりとりを亜美とまことは苦笑気味に見つめる。

「亜美はいらないんですか?」
「あたしはさっきまこちゃんのゼリーを食べたので、余ればいただきます」
「そうですか?」
「はい」

さっきまでの気まずさはなく、そのままスイーツを食べその日はお開きになった。




















「やっぱり東京-ここ-に戻って来ちまったか…」
「まぁまぁ、いいじゃない」
「早くお姉ちゃん達に会いたいな〜」
「くれぐれも勝手な行動をしないように気を付けて…って、あなたたち聞いてますの!?」
冬の気配をはらんだ夜風に吹かれた四人の少女たちが静かに舞い降りる。



かくして、運命の螺旋は───廻る



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