Aqua melody ー水面の旋律ー | ナノ


etude -練習曲-

亜美がみちる達に会った翌日の土曜の昼過ぎのこと。

「ごきげんよう」
「「「「みちるさん!?」」」」
クラウンにいたうさぎ、レイ、まこと、美奈子の四人は聞こえた声に驚いた。
「お久しぶりです」
「いつ日本に戻ったんですか?」
「はるかさんは一緒じゃないんですか?」
「良かったらここどうぞ」
口々に言う少女たちにくすりと笑うと、みちるは席をずらしてくれたレイの隣に腰を下ろし、店員に紅茶を注文した。

「みんな半年ぶりね。元気にしていて?」
「はいっ!」
うさぎが元気に返事をした。
「みんな3年生になったのね」
「はい」
これに答えたのは美奈子だった。
「今日は亜美はいないのかしら?」
「そうなんですよ。最近忙しいみたいで、学校と勉強会以外ではあんまり会えなくて」
「そうなの」
「亜美ちゃんに用だったんですか?」
「いえ、そういうわけではなくてよ」
みちるはくすりと笑って答えた。

「みちるさん、今度はどれくらい日本にいるんですか?」
レイがふと疑問に思ったことを聞いた。
「そうね…再来月にこちらでコンサートをするから、それまではいるわね」
「「「「コンサート?」」」」
「えぇ。それで」
みちるはバッグから封筒を差し出した。
「良かったらぜひ来て戴けないかしら?」
「わ!チケット!?いいんですか?」
「もちろんよ」
「あれ?6枚?」
中身を確認した美奈子が首をかしげる。
「あたし達5人と…?」
「ごめんなさい。違うのよ、それは貴女たち4人と、レイとまことの彼の分よ」
「「え?」」
「雄一郎の分までいいんですか?」「浅沼ちゃんの分までいいんですか?」
「えぇ、もちろんよ。ぜひ一緒に来てね」
「「ありがとうございます」」
お礼を言うレイとまことの向かいの席で、少し不満そうなうさぎと美奈子にみちるはくすりと笑った。
「二人ともそんな顔しなくても、彼らにはちゃんとはるかからチケットが渡っているわ」
この言葉にホッと息をつく二人。
「亜美には昨夜、ジムで会った時に先に渡しておいたから心配なくてよ」
「え?みちるさん亜美ちゃんに会ったんですか?」
「えぇ。その時に貴女たちなら今日はここにいると思うって教えてくれたのよ」
「そうなんですか」
「えぇ」
「わざわざありがとうございます」
「いいのよ、私が久しぶりに貴女達に会いたかったんですもの」
「「「「みちるさん///(きゅん)」」」」
「ふふっ」

「みんな“彼”とはうまくいっていて?」
「あたしと夜天君はラブラブです!」
「あたしは別にっ///」
「まぁ、そこそこ、には///」

「うさぎは?」
「えっ…と」
「うまくいっていないの?」
「いえ!そんな事は全然ないです!」
「そう?」
「はい」
「幸せかしら?」
「──はい///」
「良かったわ」
恥ずかしそうに頷いたうさぎの顔をみたみちるは安心したように、微笑んだ。

「あの、みちるさん。せつなさん達は?」
「衛さんとうまくいっているかどうか?」
「いえ、そうじゃなくて、ほたるちゃんも衛さんも元気にしてますか?」
「えぇ。みんな元気よ。再来月のコンサートにはこちらに戻るって言っていたわ」
「そうですか」
うさぎとみちるのやりとりを黙って見守っていた美奈子たちは、安心したように微笑んだ。



──その日の夕方
「やぁ」
「……天王?」
「久しぶり」
「何でこんなところにいるんだよ?」
仕事を終えてマンションに戻ってきたライツの三人は、エントランスにいた意外な人物に驚いた。
食って掛かったのは、星野だけだった。
「ふっ…ご挨拶だな…。僕がいつどこにいようが僕の自由だ」
「星野やめなよ」
「天王さんも挑発しないでください」
「ひどい言われようだな」
はるかは苦笑する。

「失礼しました。それで、どうしてこんなところに?」
大気が代表ではるかに聞く。
「君達に渡したい物があったからさ」
「送ればいいだろ!それかそこにある郵便受けに入れとくとか!」
「万が一にも君達の手元に届かなかったら困るから、こうして直接渡しに来たんだよ」
そう言って大気に封筒を手渡す。
「これは…チケットですね?」
「“海王みちるリサイタル”」
「なんでわざわざ届けに来たんだ?」
「君達に来て欲しいからに決まってるじゃないか」
「まぁ、それはいいんだけど…3枚だけなのか?」
「君達の彼女にはちゃんと渡してあるよ。みちるがね」
「ついでにまとめて渡せば良かったんじゃないですか?」
「みちるから君達に直接渡すように言われたんでね」
「それなら天王じゃなくて、みちるさんが来てくれれば…」
「結局は僕がいることに変わりない。僕がみちる一人で君達のところに行く事を良しとすると思うか?」
「あー、そうかよ…」
「大気、この日のスケジュールってどうなってる?」
「えーっと…大丈夫です。この日のスケジュールはオフです」
「行けるね」
「そうですね。この日は午後からは仕事を入れないようにしますね」
不穏な空気を漂わせ始めたはるかと星野を無視して、二人はスケジュールの確認をし始めた。

「おい!お前ら!何勝手に決めてんだよ!?」
「いいじゃない。せっかくチケットもらったんだし」
「そうですよ」
「ふっ、話が分かるね」
「っ…あー、もう分かったよ!行くよ!行けばいいんだろ!?」
「別に君は来なくていい。チケットを返してもらおうか?」
「返さねーよ!俺のモンだ!ぜってぇ行ってやる!」
「最初から素直にそう言えばいいんだ」
「くっ…」
「わざわざありがとうございました」
「ありがとうございました」
「アリガトーゴザイマシタ…」

「それじゃあ、また。あぁ僕は当日みちるのエスコート役を仰せつかってるから開場前には会えないだろうけど──必ず来てくれ…頼む」
はるかの声音に真剣な響きを感じた星野達は頷くしかなかった。



──その日の夜
「ママ、大事な話があるの」
仕事が休みだった母に、亜美はそう切り出した。
「──分かったわ。お茶淹れるから少し待ってくれるかしら」
「うん」
何かを決意したような亜美に母はそう告げ、紅茶を淹れた。

「それで話って?」
「あの…ね」
亜美は目の前に座る母を見つめる。
小さい頃からずっと『ママみたいな“お医者さん”になる』事が亜美の夢だった。
高校に入った時も、自分の未来はそうだと信じていたし、確信すらしていた。
けれど……

「ママ…ごめんなさい!あたし、高校を卒業したら────」

亜美の言葉を聞いた母は少し驚いたような表情をした後、微笑んだ。
「そう」
「ごめんなさい…」
「どうして謝るの?」
「だって…あたし、ずっと“お医者さんになりたい”って言ってたのに…っ」
「そうね、でもね亜美」
「っ…」
「私は、嬉しいわ?」
「えっ?」
「亜美が“自分のやりたいこと”を見つけられた事が嬉しいのよ」
「っ」
「もちろんお医者様になることはずっと亜美の夢だったわね?」
「うん」
「でもね、私は貴女にもっとたくさんの可能性がある事を知っていたのよ?」
「え?え?」
「だって、亜美は私の娘でもあるけれど、あの人の娘でもあるんだもの。そっちの才能もあるに決まっているじゃない」
「マ...マ?」
「なぁに?」
「いいの?」
「いいも何も、亜美が自分で決めたことなら私はそれでいいわ」
「〜っ」
「ただし、やると決めたのなら、どれだけ辛くても苦しくても途中で諦めない事!
パパが自分の夢を諦めなかったように、ね?」
「っ、はいっ」

「いつか、亜美の夢が叶う日をママは願ってるわ?」

そう言って優しく微笑んだ母に亜美はもう一つの事を切り出した。
「ありがとう、ママ。あの、えっと…その…実はね──」
「……えぇぇぇぇぇぇっ!!?」
話を聞いた母が驚きのあまり悲鳴を上げたのを、亜美は初めて聞いた。


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