for you for me | ナノ



05
「どうだった?うさぎちゃん…」
「う、うん…赤点はなかったよ。美奈子ちゃんは?」
「同じく」
「美奈子ちゃん!」「うさぎちゃん!」
「……おーい?」
「「ありがとう!亜美ちゃん!!」
「愛野に月野、嬉しいのはわかるがまだ授業中だから自分の席に座りなさい」
「「は〜い」」

((今回も水野のスパルタあっての結果か))
星野と夜天は狂喜乱舞せんばかりに喜んでいる彼女を見て思う。

「さて、みんな無事に試験が返却されたことだと思う。今回は一学期の中間だったからわりと点は取りやすかったんじゃないか?
俺の担当している世界史では赤点だった生徒はいなかった」
「私の担当する化学も学年を通してみても赤点の生徒はいませんでした」
「みんなよくがんばったな」
衛が爽やかに笑いながら言うと生徒たちは嬉しそうに笑顔を見せる。

「明日からは通常授業だから忘れ物しないように。弁当忘れるなよ。じゃあ解散」
『さようなら』

「よーし!みんなでクラウン行こう?」
うさぎが目を輝かせながら言うと
「あたしバレー部」
「あたし弓道部」
「わりぃ…剣道部に顔出さねーと」
「僕も部活」
「あたし、今日はお店が忙しいんだ」

「うぅっ…みんなひどい…亜美ちゃぁ〜ん」
「ごめんなさいうさぎちゃん!今日は生徒会に行かないといけないの。ホントにごめんなさい」

「そ、そんなぁ〜…あたしだけなんにもない…」
「だからクラブ入ればって言ったのに…」
「だぁ〜って〜」
「クラウンは諦めて途中まであたしと一緒に帰ろうよ?」
「うん…そうする」

「「それじゃあねうさぎちゃん、まこちゃん」」
「また明日ね、うさぎ、まこちゃん」
「バイバイ月野、木野」
「うん、みんなバイバイ」
「バイバイ、みんながんばってね」

「それじゃあなおだんご、気を付けて帰れよ」
「…うん」
星野はしゅんとするうさぎの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「そんな顔されるとすっげぇ行きにくいんですけど…」
「だって、せっかく試験終わったのにみんなで遊べないんだもん」
「しょーがねーだろ?みんなそれぞれやらなきゃならない事があるんだからさ」
「わかってるけど…」
「今度、みんなで時間合わせて遊ぼうぜ?な?」
「うん」
「夜に電話するよ」
「ん、待ってる」
「っ/// お、おう///」

「クラブがんばってね」
「サンキュ」
見つめ合った二人はゆっくりと顔を近づけていき──
「コホン」
「うおっ…」「ひゃぁっ…」
「盛り上がってるとこ邪魔して悪いとは思うけど、二人ともここがどこかわかってる?」
まことが赤くなりながら腕組みして、二人に言う。
星野とうさぎは周りを見渡し、驚いたり、赤くなったりしながらこっちを注目しているクラスメイト達に驚き、赤くなる。
「いや、これはその///」「ち、違うの///」
「うさぎちゃんあたしもう先に帰るよ!」
「あーん、待ってまこちゃん///」
「あ、ずりぃ…俺も。あ、えーっと、また明日なみんな!」



「嬉しそうね?美奈子ちゃん」
「うん!だって久々に体動かせるんだもん♪」
「あたしもひさびさだから頑張らないと」
「ふふっ、それじゃあみんなクラブがんばってね」
「えぇ、ありがとう」
「亜美ちゃんは生徒会がんばってね」
「うん」
「それじゃあね水野」
「えぇ」
亜美はみんなと別れ生徒会室の方へ歩いて行く。



「水野君」
「はい?」
「ちょっといいかね?」
「はい」
亜美を呼び止めたのは彼女達のクラスの英語を担当する男性教師だった。
「いやぁ、中学部の時から知っていたけど素晴らしい点数だったよ」
「いえ、そんな事…」
「先生たちは水野君には大きな期待をしているんだよ」
「……っ、ありがとう、ございます…」
「君は成績優秀なんだからもっと懸命に生きないとねぇ」
「…………」
「もっとためになる子を友人に選んだほうがいいね」
「っ」
亜美はひくりと息をのむ。
「いや、ボクは愛野君や月野君が悪い子だと言ってるわけじゃないんだよ。彼女達は明るくて元気ないい子だよ。
ただ水野君のような子には合わないんじゃないかと思ってね」

亜美はその教師の顔を見たくなくて声を聞きたくなくて、うつむき歯をくいしばる。
「あぁ、それから木野君もねぇ…」
「ーっ」
(イヤ……もう…聞きたくない…)

「お話中失礼します。生野先生、阿倍先生が探してらっしゃいましたよ」
「ん?あぁ、大気先生わざわざありがとう」
「いえ」
「それじゃあ水野君、ボクが今言ったこと、よく考えるんだよ」
そう言うと亜美の肩をポンと叩き上機嫌で職員室の方へ歩いて行った。
亜美が肩を叩かれた時にビクンと震えたことに気付かずに。

「……」
「水野さん」
「……っ」
「大丈夫ですか?」
「だい、じょうぶ……です」
いつもならちゃんと人の目を見て話す亜美が、顔を上げずうつむいたままそう答える。

(ん?)
生徒会室に向かうため、通りかかった衛は廊下で佇む亜美と、心配そうな大気、そしてさっきすれ違った生野教諭を思い出す。
試験が終わってからと言うもの生野は衛に『水野君は素晴らしい生徒だ、もっと上を目指せるはずだ』と、何度も言ってきていた。

(なるほど…な)
なんとなく何があったのか把握する。
「水野」
「っ、地場…先生」
「生徒会いけるか?」
「あ、大丈夫……です…」
その様子に衛は苦笑すると、亜美に優しく声をかける。
「無理しないで、落ち着いてから来なさい」
「……でも」
「天王たちには俺から言っておくから気にしなくていい」
「…はい」
「大気先生、水野をお願いします」
「わかりました」
衛と大気は頷き合うと、衛は生徒会室の方に向かって歩いて行く。

「水野さん」
「はい…っ」
大気はどうしたものかと悩む。
「行きましょうか」
「え?」
「私の教員室に行きましょう」
「でも…ご迷惑じゃ」
「中間試験も終わったので心配はいりません」
亜美は素直に大気について行った。



「どうぞ」
「失礼します」
「そこのソファにどうぞ」
「え?大気先生は?」
「私は椅子がありますから」
「……でも」
「遠慮しないで、どうぞ?」
「はい、すみません」
亜美は一人用のソファにちょこんと腰掛け鞄を膝に置くと、大気に「それはこちらに置いておきましょうか」と、言われたので素直に鞄を預ける。

「紅茶とコーヒーどちらがいいですか?」
水をポットに入れながら聞く。
「え?いえ、お…かまいなく…です」
「そんなわけにもいきません。私は地場先生から水野さんをお願いされたんですよ?」
「はい…」
「ちゃんとしないと、私が地場先生に叱られてしまいます」
そう言ってくすりと笑う大気。

「それに──」
「?」
「水野さんは私の大切な生徒でもあるんですから、ね?」
さっきより大気は優しく微笑む。
「っ///」
「そんなわけなので、紅茶かコーヒーどちらか選んで下さい」
「じゃ、じゃあ紅茶をお願いします///」
「かしこまりました」

茶葉を急須に入れている大気におずおずと声をかける。
「大気、先生」
「はい?」
「迷惑かけて…ごめんなさい」
「私は迷惑だなんて思っていませんよ」
「……」

「さ、入りましたよ。砂糖とミルクは?」
「ミルクだけで…」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
亜美は大気が淹れてくれた紅茶をひとくち飲む。
「薄くないですか?」
「いえ、おいしい…です」
「それは良かったです」
大気は微笑む。

「少しは落ち着きましたか?」
「……はい。すみません」
「いえ」
大気は静かにそれだけ言うと、自分の紅茶を飲みながらさっき見た光景を思い出す。
かつて自分も同じような経験をしたことがあった。
『君には期待してるよ』
『友達は選ばないとね』
『こんな無名の高校に行こうだなんて君は正気か!?』
『君の実力ならもっと上の大学に行けるんだぞ?考えなおせ!』



「水野さん」
「はい」
「少し、昔話を聞いていただけますか?」
「え?」
「つまらない独り言だと思ってくれても構いません」

「私は──」
大気は自分の学生時代の話をした。
小・中学校は市立に行き、高校は家から近かった公立の高校を選び、大学は行きたかった私立に通ったことを話した。
そこで進学のことに対して教師たちに言われた言葉の数々を話した。

「私は、そんな教師達の言葉にウンザリしました」
「……」
「とことん反発してやろうと思って、家から近いだけの高校に行こうと決めたのも事実です」
「……」

「私が学校の先生を目指そうと決めたのは中学の時です」
「……」
「私は何があっても生徒の言葉に耳を傾けられる教師になりたいと思ったんです」
「……」

亜美は大気の話を黙って聞いていた。
「大気先生は…辛く、なかったですか?」
“何が”は聞かなくても分かる。
「辛いと言うより、嫌でした」
「嫌?」
「はい」
「そうです…ね、嫌ですよね…」
「……」
「中学部に入ったあたりから、時々あんな風に言ってくる先生はいたんです…。
あたしはあんな風に言われても、すぐに言い返したりできなくて…。
嫌、なのに…っ、大切な友達をあんな風に言われるなんてすごく嫌なのにっ…
あたしっ、何も…言えない…っ」
亜美は小さく嗚咽をもらし、涙をこぼす。
「っ──あたし…っ」

大気はハンカチを取り出し亜美の涙をそっとぬぐう。
「友達が大切ですか?」
亜美はこくんと頷く。
「勉強は好きですか?」
亜美はもう一度こくんと頷く。
「それでいいんです。どちらかなんて選ばなくていい」
「っ」
「友達も勉強も大切で、大好きでいいんです」
「〜っ」
「それが水野さんなんですから」
大気は優しく微笑む。
「ね?」
「っ/// 大気先生…っ」
亜美はその優しさに──泣いた。



「水野さんは少し反抗してもいいかもしれませんね」
亜美が落ち着いたのを見てとった大気はポツリと呟く。
「反…抗?」
亜美は大気の言葉に目をぱちくりさせる。
教師の発言とは思えなかったからだ。
「えぇ。時にはいい子でいるのをやめるんです」
「あたし、別に“いい子”なんかじゃないです…」
「水野さんが自分の事をそう思っていても、周りはそう思っていない事もあります」
「そう…ですね」
思い当たるところがあるのか、亜美はうなずく。

「反抗って、例えばどんな事なんですか?」
「そうですね。ちょっとイケナイ事をしてみるんです」
「イケナイ…事?」
「はい」
亜美は考える。
──考える。
「えーっ…と」
「ふっ」
必死に考える亜美に大気は小さく微笑む。
「っ/// か、からかわないでください」
「心外ですね、本気で言ったんですよ?」
「そんな事言われてもわかりません」

「では、私からの宿題です」
「え?」
「“イケナイ事”がなんなのか考える事が宿題です」
「はい?」
「他の人に聞いたりしてはダメですよ?」
「う…」
「私も学生時代に反抗心から“イケナイ事”をしました」
「えっ!?」
大気の発言に亜美は驚くしかない。
「もちろん犯罪的な事ではないですよ?」
「分かってます」
亜美はこくこくと頷く。

「期限はないのでゆっくり考えて下さい」
「わ、わかりました。がんばります」
亜美はきゅっと小さく拳をにぎる。

その様子を見た大気は静かに聞く。
「もう大丈夫ですか?」
「あ、はい。えっと…ありがとうございました///」
「どういたしまして」
「あの、さっきの話なんです、けど」
「“イケナイ事”ですか?」
「〜っ/// その前です」
「心配しなくても、他の先生方には言いませんよ」
「ありがとうございます」
「水野さんが泣いたことも秘密にしておきます」
「っ/// お願いします///」
「水野さんもさっき私が話した学生時代の事はくれぐれも内密に、ね?」
「は、はい/// それじゃ、お世話になりました」
亜美はソファから立ち上がり、大気にペコリと頭を下げる。

「水野さん、最後にひとつ──甘いものはお好きですか?」
「え?はい。好きです」
「それは良かったです」
「?」
大気は小さな冷蔵庫を開けると、亜美に近づいてくる。
「はい、あーんしてください」
「えっ?っ///」
くちびるにヒヤリとした感触。
「〜っ///」
「あーんは?」
「あむ///」
亜美はころんと口の中に入ってきたものをそっと噛む。
「チョコ?」
「はい。おいしいですか?」
「ん」
こくんと頷く。
「それは良かったです」
大気はホっとしたように微笑む。

──ドキ

さっきまでより、子どもっぽい大気の笑顔に亜美の鼓動が跳ねる。
「あ、これ、どうしたんですか?」
「作ったんです」
「大気先生が?」
「はい」
「ここで、ですか?」
「まさか、家でです」
「へぇ…」
「疲れた時には甘いものがいいって言いますからね」
「そうですね」
大気につられ、亜美もくすりと笑う。

「水野さん」
「はい」
「いつでもここに来ていいですよ」
「え?」
「またあんな事があって、辛かったり、泣きたくなったりしたらここにおいで」
「っ/// でも」
「私で良ければ話くらいは聞けますから」
「──はい、ありがとうございます」


「あまり遅くなると地場先生が心配しますね」
「はい。そろそろ行きます。あの…」
「はい?」
「本当に色々とありがとうございました///」
「いえ、気にしないでください」
「失礼しました」
「はい。ではまた明日」
「はい。失礼します」
頭を下げ生徒会室に向けて歩いていき、階段への曲がり角を曲がる時に、ちらりと大気の教員室を見ると彼は優しく微笑んでこちらを見つめていた。
亜美が振り向いたのに気付くと、小さく手を振る。
「っ///」
亜美はもう一度小さく頭を下げるとパタパタと階段を降りる。



ここに来た時よりも気持ちは軽い。

──トクン

そして、胸の高鳴りは大きくなっていた。



「頑張ってください。水野さん」
大気は小さく呟くと、教員室に戻る。
亜美が使っていたカップを片付けた。

(試験も終わったし、校内構造も把握出来たことだし…来週には行けるだろうな──“図書館”に…)


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