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01
(……迷った)
プラネット学園の敷地面積はかなりのもので、初めて来る人は必ずと言っていいほど迷う。
今日からこの学園に赴任してきた大気光も決して例外ではなかった。
(地場先輩が言ってたのはこう言うことか…)

迷い人を救うためにいくつか案内図があり、それに沿って来たはずだったが見事に迷った。
(さっきのところを右に曲がったのがいけなかったのか?)
辿ってきた道を思い出しながら大気は考える。

(ここでこうしていても辿り着くわけない…さっきの目印っぽいところまで戻った方がいい)
来た道を戻ろうと踵を返し、少し早足で行こうと歩調を速め角に差し掛かる。
「きゃっ!?」
「!!」
胸元にトンッと軽いものがぶつかった感触と少女のものと思われる悲鳴を認識した次の瞬間、咄嗟に手を伸ばし倒れかけた少女を転ばないように抱きとめた。

「すみません!大丈────っ!?」
大気は驚いたような表情で抱きとめた少女を見つめ、途中で言葉を飲み込んだ。
「ごめんなさい!急いでて!前方不注意でした。ごめんなさい!」
少女が謝りながら深々と頭を下げる。
相手からの反応がないため不安になり顔を上げると、その人は自分を驚いた表情で見つめていて、不思議そうに首を傾げる。

「あ、あの?」
大気は少し困ったように声をかけられハッと我に返る。
「あぁ…すみません。迷ってしまい少し焦ってしまいました…。怪我はありませんか?」
「お陰様で大丈夫です…えっと…迷われたんですか?」
「えぇ…」
「どちらに行かれるんですか?」
「総合事務所に行きたいんですが…」
「それでしたら────」





「ここが総合事務所です」
「わざわざ案内をありがとうございました──水野さん」
「いえ、それでは失礼します」
少女──水野亜美──はペコリとお辞儀をして去って行った。

その背を見送りながら大気は微笑を浮かべ誰にも聞こえないほどの声で小さく呟く。
「本当に感謝しますよ────“水野亜美さん”」



(あれ?そう言えば、あたし名前名乗ったかしら?)
大気を案内した亜美は自分の目的地に向かいながら首を傾げた。
(総合事務所に用があるって事は、新しい事務員さんかしら?)
「っ…いけない…急がないと!」
時計を見た亜美は慌てて駆け出す。





大講堂へとたどり着いた亜美は舞台に見知った顔を見つけて急ぐ。
「おはようございます、みちる先輩。遅くなってすみません」
亜美が謝罪を口にすると、優美な雰囲気を身にまとった海王みちるが、優しく微笑みながら振り向く。
「おはよう亜美。そんなに慌てなくてもまだ集合時間10分前でしてよ?」
二人のやりとりを聞き、舞台の袖から一人の人物が顔を覗かせ二人の方にやってくる。
「あぁ、おはよう亜美」
「おはようございます。はるか先輩」
「相変わらずつれないな」
みちるより頭半分ほど背の高いその人物も、みちる同等の優雅な雰囲気を振りまきながら、苦笑気味にくすりと笑う。
はるかの言葉の意味を理解したみちるはクスクスと笑い始める。
「?」
「はるかは寂しいのよ。亜美に『先輩』って呼ばれる事が、ね?」
戸惑う亜美に答えを渡す。

「っ、でも先輩ですし…」
「昔みたいに呼んでくれて構わなくてよ?」
「で、でもっ」
「寂しいな…みちる」
「そうね…はるか」
寂しげに長い睫毛を伏せる二人に亜美はあわあわと慌てふためく。
「ーっ…」
「昔は『みちるお姉ちゃん』って呼んでくれたのに…」
「そうだな。他の子たちは今でも僕の事を『はるかさん』て呼んでくれるのに…亜美だけはどんどん僕たちから離れていってしまう…悲しいな…」
「そ、そんなつもりじゃ…っ///」

「こら、舞台で何してるんだ?」
亜美は背後からかかった声に驚き振り向く。

「「「おはようございます。地場先生」」」
「おはよう、天王、海王、水野。朝から水野で遊んでるのか?」
爽やかに笑いながらサラリと言うのは、高等部の教師であり、生徒会担当である地場衛だ。
「あら、違いますわ」
「亜美がつれないんでね」
楽しそうにクスクスと笑いながら話す二人に亜美はからかわれたと気付き赤くなりうつむく。
「全員そろったか?」
「いや、まだ…」
はるかが言いかけた時、ポニーテールを揺らしながらバタバタと走ってくる足音が聞こえ続いて元気な声が響いた。
「おっはよーございます!!」
「「おはよう」」
「おはようございます、宇奈月先輩」
「相変わらず元気だな、古幡」
高校時代からの親友である元基の妹の事をよく知っている衛が苦笑気味に言うと、宇奈月はニコニコ笑いながら答える。
「はい!おかげさまで!」
「よし、これで高等部生徒会は全員だな」



それから5分後には、小学部から高等部の生徒会メンバーと教員、放送部の面々が集まっていた。

今日はプラネット学園の始業式である。
小学部から高等部までの生徒が、大講堂で一斉に行うのだからなかなか大変だ。
会場準備は前日までに終わっているとは言え、生徒会や教員は何かと忙しいため、まだ7時半前にも関わらずこうして集まっているのだ。





────始業式
理事長並びに、各学部校長の挨拶も終わり、新任教師の発表になった。
小学部から順に今年からこの学園に赴任してきた教員の名前を理事長自らが読み上げ一言ずつあいさつをしていった。
「えー、続いて高等部に移ります」



「ふぁ〜っ…」
「でけぇアクビ…」
「だぁってぇ…眠いんだもん」
出席番号順に並んで座っているうさぎの隣には星野が座っている。
「高等部って事は俺らに関係あんだぜ?」
「わーかってるわよぉ…」
「ホントかよ?入学式に中学部の制服着て行きかけてたもんな」
「うっ…」
それが聞こえたらしい周りの生徒が笑いそうになるのを必死でこらえている。



「続いては理科担当の大気光先生」
「大気光です。私は────」

生徒会席に座っていた亜美はその人物に心当たりがあった。
(新任の先生だったのね…)

「──これからよろしくお願いします」



「続いて、クラス担任と副担任の発表です」
「続いて高等部にいきます」
「1年6組、担任は地場衛先生。副担任は大気光先生です」



「では、これで合同始業式を終わります。小学部の生徒から退席してください」





「みんなお疲れ様」
「ふふっ、お疲れ様」
「おっつかれ〜。ふぁ〜っ、相変わらず長ーい」
「お疲れ様でした。宇奈月先輩ちょっと寝そうじゃありませんでした?」
「だいじょぶ!ちゃんと起きてたよ!寝るとあとが怖いから!」
「よく分かってるじゃないか古幡。みんな早くからご苦労だったな。悪いけど放課後に片付けがあるからまた頼むな」
「「「「はい」」」」



「じゃあ、また放課後に。はるか先輩、みちる先輩、宇奈月先輩」
「あぁ、またな亜美」
「あとでね亜美」
「バイバーイ亜美ちゃん」
亜美と他の生徒会メンバーは階段のところで別れ、それぞれ自分のクラスに向かった。


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