捧げ物 | ナノ


キラキラ
「ペルセウス座流星群を見ながら、私と素敵な夜を過ごしませんか?」

大気からの誘いを受けていた亜美は、身支度を整えマンションのエントランスに下りると彼の優しい笑顔に出迎えられた。
「すみません。お待たせしました」
「いえ、私の方こそ予定より仕事が押してしまって遅くなってしまい申し訳ありません」
「いえっ、あのっ/// お仕事お疲れさまです」
そう言ってふわりと笑顔を見せる亜美に、大気は仕事の疲れがやわらぐのを感じる。
「ありがとうございます。では、行きましょうか?」
「はい」
大気が手を差し出すと、亜美の小さな手がそっと重ねられた。

「今日はあれで行きます」
大気が指差したのは、いつも乗り馴れた愛車ではなかった。
大気は亜美を助手席にエスコートすると、自身も運転席に乗り込みシートベルトを締めると車を発進させる。
車内をくるりと見渡した亜美は大気の愛車と大きく違う点がひとつある事に納得する。

天井にサンルーフが設けられていた。

「大気さん」
「はい?」
「この車って借りたんですか?」
亜美の言葉に大気はくすりと笑う。
「えぇ」

ペルセウス座流星群が見られる日時が分かった瞬間、深夜になるため大気はまず亜美の母に許可を得てから、亜美を誘った。
もちろん断る理由などあるはずもなく亜美は喜んで了承した。

「あの、大気さん」
「はい?」
「どこに行くんですか?」
「言ったら驚くだろうから今日まで黙っていたんですが、私の所属している事務所の社長の私有地です」
「私有…地?」
「えぇ、詳しいことはよく存じ上げませんが山をひとつ持っているらしくて、ペルセウス座流星群を見に行く話を星野たちとしていたら───」



『お?なんだ?お前ら、彼女と深夜デートか?学生があんまり夜遅くに出歩くなよ』
同じ事務所から復帰するにあたり、大気達三人は社長には本当の事を言っておこうと“恋人”がいることを先に告げておいたため“彼女”の存在は知っているのだ。
『僕は違うよ。夜中の二時とか三時なんて、仕事でも起きてられない…』
『俺も、そこまで起きてまで観ねーな』
『あぁ、あれか?ペルセウス座流星群か?夜天も星野も違うって事は、大気が観に行くのか?』
『はい』
『ほう…そうか。それならいい場所教えてやろうか?』
『え?そんな事簡単に教えてしまっていいんですか?』
『あぁ、構わねーよ。それで仕事に励んでくれるんならな?』
『……交換条件…ですか?』
『悪かね―だろ?お前は愛しの彼女と“誰にも”見つからずに“深夜デート”出来るだろ?』
ニッと笑っていう社長に大気は少しだけ考えて「お願いします」と言った。

『あんまり言ってねーけど、俺、私有地持っててな。ちょっとした山になってるんだけどな。あ、心配しなくても獣道とかじゃないから安心していいからな。でな、そこの一角に街の灯りはないところがあってな。ここが絶好の天然プラネタリウムなんだよ。どうだ?』
『ぜひお借りしたいです』
『真夏とは言え夜中に女の子を外に出すのはいただけねーだろ?』
『えぇ、それについてはサンルーフのついた車をレンタルしようかと思いまして』
『ほう、さすがだな。じゃあついでに車も貸してやるよ』
『えっ!?』
『俺の車サンルーフ付きなんだよ』
『いいんですか?』
『あぁ、いいぜ。交換条件はデートが成功してからな』



「と、言うわけで社長から車と私有地を借りたんです」
「そうだったんですか、それはすごく楽しみなんですけど…あの、交換条件がとっても気になります…」
「そんなに無茶な事は言われないと思うので、亜美は心配しなくていいですよ?」
「でもっ」
「言ったでしょう?」
「え?」
「“ペルセウス座流星群を見ながら、私と素敵な夜を過ごしませんか?”って」
「っ///」
「ね?」
「はい///」
大気の瞳が優しく自分を見つめていて亜美はどきりとする。

「では、どこかのコンビニに寄って飲み物と何か軽く食べられる物でも買っておきましょうか?」
「あの、サンドイッチで良かったら、作ってきたんですけど/// あとお茶も///」
亜美が言うと大気が笑顔を見せる。
「さすが気が利きますね。ありがとうございます」
「っ/// いえっ///」
恥ずかしそうにうつむく亜美の髪をそっと撫でるとちょうど信号が変わったため車を発進させた。

一時間ほど車を走らせて目的地に到着した。

【この先私有地につき許可無く立ち入り禁ず】と書かれた看板があった。
許可をもらっているとは言え、亜美は緊張する。
「大気さん」
「はい?」
「すごく大きいんですけど…」
「そうですね。私も以前場所の確認のために連れてきていただいた時に驚きました」
「むしろ山っぽいんですけど」
「そうですね。山と言って過言ではないでしょうね」
「本当に入っていいんですよね?」
「もちろんですよ」

私有地に入ってから15分ほど車を走らせると、開けた場所に出た。
大気はそこで車を止める。

「到着です」
「真っ暗、ですね」
そこは外灯のたぐいはなく、街のある方とは反対で目の前が他の山になっており暗闇が広がっている。
「怖いですか?」
「少し、だけ」
大気は不安そうな亜美の肩をそっと抱く。
「私が隣にいます」
「はい///」
亜美がこくりと頷く。

大気は車のライトを消すと、シートをめいっぱいに倒して、大きめのサンルーフを開く。
「ここまで周りが暗いと綺麗な星空が見えますね」
空に雲はかかっておらず、三日月が舟のように浮かんでいる。
流星群を見るのには申し分ないだろう。

「晴れて良かったですね」
「はいっ」
嬉しそうな亜美の声に、大気は多少無茶なスケジュールを組んで良かったと思った。
ちょうどソロの仕事ばかりだったのはありがたかった。
なにより、今日の事は当日まで亜美に秘密にしておきたかったので、事情を知っている星野や夜天には、うさぎや美奈子にも絶対に言わないようにと口止めしておいた。
そのかいあって亜美を驚かせる事ができた。



時刻は午後十一時をまわったところ。

こうして、二人で夜空を見上げるのは何度目になるだろう。

漆黒の空に輝く星々。
そこに時折またたく流れ星。

三十分ほど二人は無言で空を眺めていた。

───ぐぅぅぅっ

「すみません…実は仕事が終わってから何も食べていなくて…さすがにお腹が…」
「えぇっ!?そうだったんですか…」
「サンドイッチいただいてもいいですか?」
「もちろんです」

一度シートを起こして電気をつけると大気は亜美から貰ったサンドイッチを頬張る。
「美味しいです」
「ありがとうございます」
「亜美は食べないんですか?」
二つめのサンドイッチを食べながら大気が聞くと、亜美は視線を彷徨わせる。
「ピークまであと三時間くらいありますし、お腹空きますよ?」
「うぅっ…それは、そうなんです、けど…」
「けど?」
「……こんな時間に食べると、その、太っちゃう…ので///」
自分の方を見ずにそう言う亜美の言葉に大気は一瞬目を丸くして、小さく吹き出す。
「ーっ、くくくっ」
「な、なんで笑うんですかっ!///」
「いえ、悪気は…っ、はははっ」
「もぉっ!笑いすぎです!」
「はっ、すみません」
ひとしきり笑った大気が謝ると、亜美に小さく睨まれる。
「大気さん…笑うなんてひどいです」
「すみません」
「……」
「亜美はもう少しあってもいいと思いますよ?」
大気が言うと亜美が怪訝そうな表情を見せる。
「大気さん、セクハラです」
「心外ですね…私に片腕で軽々抱き上げられるくらいですし、軽すぎるでしょう?」
「それは大気さんが力持ちだからですっ!」
「そうでもないですよ?それに亜美は木野さんにもあっさり抱き上げられるでしょう?」
「うぅっ…」
「まだ先は長いですよ?」
「うーっ…大気さん…あたしを太らせたいんですか?」
「違いますよ。まぁ、亜美が気にするならこれ以上は言いませんが、あとになってお腹がすいてから食べるより、今のうちに食べておいた方がいくらかマシだとは思いますよ?」
「……いただき、ます」
大気の言う事はもっともなので亜美はサンドイッチを一つ取ると、もぐもぐと食べ始める。
大気は満足気に亜美を見つめてから、三つ目のサンドイッチにかぶりついた。



「そろそろ外に出ましょうか?」
すっかり日付けも変わり時刻は午前二時を回った頃、大気が亜美に声をかけると、彼女は嬉しそうに「はいっ」と返事をした。
大気が先に車から降り、助手席の扉を開け亜美をエスコートする。
手をつないで、空を見上げる。
そこにはサンルーフから見えていたよりも広大な空が広がり、星が流れていく。

「すごい」
「えぇ」
亜美が大気とつないだ方と反対の手を空に向かって伸ばす。
「小さい時の事、なんですけど」
「はい」
「父が流れ星を見に連れて行ってくれた事があったんですけど、その時に……」
「その時に?」
亜美が少し言葉を躊躇ったのを感じた大気が優しく続きを促す。

「星がキラキラしていてとてもキレイで、手を伸ばせば流れ星をつかめるんじゃないかって思ったんです。でも、どれも消えてしまって、キレイだったけれど少し寂しくなってしまった時の事を思い出しました」
少し恥ずかしそうにそういう亜美に大気はふっと笑う。
「つかめたじゃないですか?」
「えっ?」
「“流れ星”」
そう言って大気はつないだ手を離すと、亜美を後ろから抱きすくめる。

「私を誰だかお忘れですか?亜美」
亜美が驚いたように息を飲んで、小さく笑う。
そうだ。“彼ら”は“流れ星”なのだ。

「大気さん」
「はい?」
「大気さんは消えたりしませんよね?」
「当然です。今の私は亜美のための流れ星ですから、ね?」
そう言って髪に優しく触れる大気の手のぬくもりに亜美が微笑む。
「大気さん───好き」
「私もですよ、亜美」

愛の言葉を囁きながら、見上げる流星。

「そう言えば『流れ星に三回お願いをすれば願い事が叶う』とかいうジンクスがあるんですか?」
「そうですね。そう言いますね」
「三回はなかなか大変そうですが…」
大気がそういう間に星が流れる。
「だからこそ、星が流れる間に三回唱えられたら叶うかもしれないと思えるんじゃないでしょうか?」
「なるほど。亜美は何か絶対に叶えたい事はありますか?」
「え?うーん、そうですね。ありますけど…それは自分の努力で叶えるべきことなので」
亜美が言うと大気はふっと微笑む。
「亜美は真面目ですね。ではもっとソフトなやつは?」
「え?そう、ですね、ありますけど……」
「なんですか?」
「ナイショ、です」
「なぜ?」
「大気さん絶対からかうから、言いたくないです」
「心外ですね…」
「大気さんは?」
亜美は話題をそらせようと聞き返す。
「何かないんですか?」
「ありますよ」
「なんですか?」
「……秘密ですよ」
「えぇっ…気になります」
「教えてあげません」
「そうですか…残念です」
自分も秘密にしたので、亜美はそれ以上の追求をやめる。

「さすがピークですね」
「はい、すごいです」
観察をはじめた頃よりも多くの流星に、願いをかける。











あとがき

ゆう吉様

33333のキリ番ゲットおめでとうございます。
『大亜美でペルセウス座流星群』とのリクエストでしたが、こんな感じで良かったでしょうか?(ドキドキ)

今回は爽やか甘ピュアラブを目指しました(^−^)

少しでも気に入って戴けると嬉しいです(*´ω`*)



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