捧げ物 | ナノ


初戀 前編
土曜日の午後一時を少し過ぎた頃、お昼を食べてリビングでパパとゲームをしていた時だった。

───ピンポーン

「ん?誰か来たな」
いつもならママが出るんだけど、今日は友達と買い物に行くって朝早くから出かけてていない。
姉貴は二階にいて起きてるはずだけど降りてこない。と、なると。

「俺が出るよ」
スタートボタンを押して、ゲームを中断すると玄関に行って鍵を開ける───前に。
「どちら様ですか?」
宗教の勧誘とかだと「キョーミアリマセン、オヒキトリクダサイ」で追い返せばいい。

そう考えていた俺の耳に入ってきたのは
「こんにちは、水野です」
夏の暑さも吹き飛ばしてくれそうな透明感あふれる涼やかな声だった。

───ガチャ バンッ!

すぐに鍵とドアを開けると、そこには……。
「こんにちは、進悟くん」
そう言って優しい笑顔を見せる亜美さんがいた。

「あ、あ、い、いらっしゃいませっ!」
思わず頭を下げてそんな事を言ってしまう。
わーっ!何やってんだ俺っ!

「進悟?誰だったん───やぁ、水野さん。いらっしゃい」
リビングからパパが出てきて亜美さんを見て笑う。
「こんにちは」
パパに挨拶をしてペコリって頭を下げる亜美さん。

「うさぎーっ。水野さんが来たぞーっ?」
パパが二階に向かって声をかけると、姉貴よりも先にルナが下りてきた。
「ルナ♪」
亜美さんがすごく嬉しそうにルナを抱き上げて頬ずりする。
「こんにちは、ルナ」
「にゃお♪」
うちのペットにまで笑顔できちんと挨拶する亜美さんはもうきっと天使かなにかだと思う。

「亜美ちゃん、いらっしゃ〜い♪」
「こんにちは、うさぎちゃん」
「うん。こんにちは」
えへへと仲良さそうに笑いあう姉貴と亜美さん。

どうして、うちのバカ姉貴が天才少女と謳われる亜美さんとこんなに仲がいいのかわかんないけど、まぁ、そのおかげで俺も亜美さんと親しくなれたわけだし…な。

「上がって上がって♪」
「えぇ。お邪魔します」
「今日はお勉強会かなにかかい?」
「うん♪亜美ちゃんに夏休みの宿題教えてもらうの♪」
ちなみに今日は7月23日で、夏休みが始まって数日しかたってない───はずだ。
俺は一瞬、家の日めくりカレンダーを見る。うん。間違ってない。
なんてったって毎日俺がピリピリめくってる!今日もめくった!だから絶対に間違いない!!

8月23日とかの絶望的な日にちじゃない…ないんだ…。

「「な、なんだってーーーーーっ!!?」
俺とパパが叫ぶと、亜美さんは驚いたように目を丸くして、姉貴は「もうっ!二人してなんなのよ〜っ!」て怒った。

だってそうなるのは当然だ。
小学生の頃から毎年毎年、夏休みの終わりにピーピー泣きながら宿題地獄に追われるあのバカ姉貴が七月中に“宿題”なんて単語を口にするなんて……

「いきなり東京湾に台風でも発生するんじゃねーの…」
かなり本気でそう思った俺は携帯で天気予報を確認した。

『本日は雲ひとつない青空が広がり、雨の心配はないでしょう』か。

「し〜ん〜ご〜っ!あんたねぇっ!!」
「バカうさぎが七月なのに宿題なんて言うからだろ!」
「ぬわんですってぇ〜っ!!」
「なんだよ!」
「ふふふっ」
いつもならママの「二人ともいい加減にしなさい!」の一喝が飛んでくるのに、俺の耳に飛び込んできたのは亜美さんの笑い声。

しまった…ついいつものくせで…やっちまったぁっ!
亜美さんを見るとくすくすと楽しそうに笑いながら、俺と姉貴のやりとりを見ていた。
きっと呆れられた…ガキだって思われた…サイアクだっ!
「ふふっ、ごめんなさい。笑ったりして、うさぎちゃんと進悟くん、とっても仲良しだから」
亜美さんはそんな事を言って、とても優しく笑った。

バカうさぎのせいで、亜美さんの前で恥かいたじゃないかっ!
俺は恥ずかしさでたまらなくなって何も言わずに、二階の自分の部屋に戻った。
ベッドに倒れこんで天井を見上げる。
「くそっ…」
思わずぼやく。
久しぶりに亜美さんに会えたのに、姉貴とムキになって姉弟喧嘩なんて、すごくカッコ悪いとこ見られた。

初めて会ったのは俺がまだ小学生の時で、亜美さんが中二の時だった。

『こんにちは、進悟くん。はじめまして。水野亜美です』
そう言って優しく微笑んで丁寧にお辞儀をした亜美さんは、おしとやかで俺はすごく憧れたんだ。
姉貴の友達は活発な人が多い中で、亜美さんは少し雰囲気が違った。
姉貴達と一緒になってはしゃいでる時もあるけど、どっちかと言えば一歩下がって姉貴達を見てる感じがした。

それに、なによりも亜美さんはびっくりするくらいに頭が良かった。
十番中学で学年トップなことはもちろん、全国模試でも一位をとれる程の秀才。
『IQ300の天才少女』
なんで私立の中学に行かなかったんだろうって思ったけど、亜美さんが十番中学に行ってなかったら姉貴と友達になってることもなかったんだろうなって思う。

───コンコン

控えめなノックの音。
誰だ?別に姉貴がノックしないって意味じゃなく、その前に「ちょっと!進悟〜!」とかなんとか言うから、だから違う。絶対に違う。
そしてパパでもない。パパならもっとはっきりしたノックをする。
と、なると……この家にいるのは亜美さんか、ルナだけだ。

───コンコン

もう一度、さっきよりは少し大きめなノックの音。
「進悟くん?」
「っ!はいっ!」
亜美さんの声が聞こえた俺はとっさに返事をしてドアを開けると、目の前にいた亜美さんが俺を見てホッとしたように微笑んだ。

そして「さっきはごめんなさい」と言って頭を下げた。
「え?」
俺は突然のことに面食らう。
なんで亜美さんが謝るんだ?
「あたしが笑っちゃったから、進悟くんに嫌な思いをさせてしまったのかと思って…」
「っ!違うよ!俺が勝手に…」
ガキみたいに拗ねて部屋に戻ったのは俺なのに、なんてひとりでぐるぐる考える。こんな時なんて言えばいいんだろう…。
なんて言ったらいいのかわからなくてそのまま言葉に詰まる。

「あのね、慎吾くん」
俺が思わず黙ってしばらくすると亜美さんが静かな声が聞こえた。
「あたし一人っ子だから、姉弟喧嘩とかって経験なくて少し羨ましいなって思って、だからつい笑ってしまって、本当にごめんなさい」
顔を上げると申し訳なそうに俺を見つめる亜美さんがいて俺は後悔する。
俺、何やってるんだよ…亜美さんにこんな顔させてっ!
「違うんだ!さっきのは、俺が、勝手に拗ねた、みたいなモンだから…亜美さんは気にしないでよ」
「でも」
「ホントに、亜美さんのせいじゃないからさ」
俺がそう言うと亜美さんは小さく頷いてくれた。

亜美さんが俺を見てにこりと微笑んだ。
「な、なに?」
「ううん。前に会った時進悟くんあたしとほとんど同じくらいの身長だったのに、いつの間にか抜かれちゃったなぁって思って」
そう言われれば、亜美さんが小さい。
さっきは玄関のところだったから当たり前だったけど。
「今、何センチ?」
「えっと、165かな」
「そう。まだまだ大きくなるんでしょうね」
「うん!せめてまこと姉ちゃんよりはデカくなりたい」
俺が言うと亜美さんは楽しそうにくすくすと笑った。

「あーみーちゃーん?」
下から亜美さんを呼ぶ姉貴の呑気な声と、階段を登ってくる足音。
「あっ!進悟!あんたが拗ねるから亜美ちゃんが気を遣っちゃったんじゃないのよ!」
「なん「違うのよ、うさぎちゃん」
俺を見るなりそんな事を言う姉貴にカチンときて、言い返そうとしたら亜美さんがやんわりと、だけど、はっきりと俺の言葉を遮った。
「さっきのはあたしがいけなかったもの。だから」
「そーんな事ないよぉ。あれくらいの姉弟喧嘩なんて毎日なんだよ?亜美ちゃんが謝る事じゃないよ」
「そうだよ。バカうさぎがガキみたいに俺につっかかるのなんて今に始まった事じゃないんだから、亜美さんは気にしなくていいよ」
「なんですってぇーっ!大体あんたはお姉ちゃんにいっつもエラソーなのよ!」
「なんだよ!高三にもなってもいまだに遅刻して、忘れ物までしてるなんてガキじゃないか!」
「ーっ!くぅぅぅっ…亜美ちゃぁぁぁぁん」
そこで亜美さんに泣きつくなんてずるいだろ…
亜美さんは姉貴をよしよしと優しい手で撫でている。
「ったく…そーゆーとこがいつまでもガキだってんだよ。バカうさぎ」
小さくぼやいて二人を残して一階に降りようとした時、ちらりと見ると亜美さんとばっちり目が合った。
両手でごめんと合図を送ると亜美さんは柔らかく笑って小さく頷いてくれた。
その笑顔に俺の心臓がバクバクとうるさくなる。

下に降りるとパパがソファに座って新聞を読んでて、俺に気付いくとテレビを指差す。
そう言えばゲームの途中だった事を思い出した。
リモコンを持ってテレビを切り替えるとさっき中断したところから再開する。
決着がつくまであと少しだったのですぐに俺が勝った。

「うさぎと水野さんは?」
「ピーピー泣いてる姉貴を亜美さんがなだめてるよ…ったく…」
俺は文句を言いながらも、さっきの亜美さんの笑顔を見られたことには姉貴に感謝しなくちゃならないと思った。
「進悟」
「なに?」
「あんまりうさぎをいじめるなよ?」
「いじめてねーよ!つーかパパは姉貴に甘すぎんだよ!」
「そんな事はないぞ!パパは進悟だって可愛いぞ!」
「なっ!気持ち悪いよ!!」
まったく…恥ずかしげもなくこういう事を言ってくれるのは、嬉しいけど、中学生にもなるとくすぐったくて素直に喜べない。
「き、気持ち悪い…」
「ーっ、は、恥ずかしい、だろ」
「そうか。進悟ももう中学二年だもんな。彼女とかいたりするのか?」
「いない」
「好きな子くらいいるだろ?」
「それ…は」
俺は思わず言葉に詰まる。
とっさに亜美さんが浮かんでドキリとする。
「べ、別にそんな子いないよっ!」
俺は思わずムキになってパパに言い返す。
「お?そうなのか?」
パパは分かったのか分かってないのかのほほんと笑ってる。

「パパ」
「なんだ?」
「この勝負が終わったら俺も宿題するよ」
「そうか」
「うん、宿題終わんの姉貴に先越されたくねーし」
「そうだな」
「うん」
その後すぐに勝負は俺の勝利で決着。パパは相変わらず格闘ゲームが苦手だ。

俺の部屋の前にはまだ姉貴と亜美さんがいた。
「あれ?進悟、パパとゲームしてたんじゃないの?」
「終わった。俺も今から宿題」
「マジメにやんなさいよ?」
「それはこっちのセリフ。俺は夏休み前からちょっとずつやってんだよ」
「うそっ!いつの間に…っ」
「亜美さんに迷惑かけんじゃねーぞ」
「かけないわよっ!」
「どーだか」
俺は鼻で笑うと自分の部屋に戻った。

「もぉーーーーっ!つかれたぁぁぁぁぁっ!」
部屋に戻って英語の宿題をしていた俺の耳に、姉貴の絶叫が聞こえた。
時計を見ると勉強をはじめてざっと一時間ってところか…あの姉貴にしては上等だな。なんて思いながら、俺はシャーペンを置くと体を伸ばす。
姉貴と違って勉強が出来ない方じゃないから、ここまで特に問題はなく進んできた。
ただ、せっかく亜美さんがいるんだし分からないふりして聞きに行けば話すチャンスがあるよな…。
って、何考えてるんだよ!夏休み最期に姉貴に泣きつかれないためにもここで邪魔は…いや、でも…ちょっとくらい、なら。
「はぁっ、お茶でも飲もう」
ノートを閉じて部屋を出る。

俺は結局、自分の分と姉貴と亜美さんの分のアイスティーと、ママがおやつにと作っておいてくれたクッキーをトレイにのせて姉貴の部屋に持っていった。

───ゴンゴン

行儀悪いけど両手がふさがってるから足で…。ごめんなさい。
「ふぁ〜い?」
「お茶とおやつ持ってきた」
「あんがと。入っていいわよ」
「えらそうだな…手、ふさがってるから開けてくれよ」
「えーっ」
姉貴は文句しか言えねーのか!

───ガチャ

「あのなぁ…文句ばっかり言うんなら───」
「ごめんなさい。わざわざありがとう」
「亜美さん!?っ、おい!亜美さんに開けさせるなよな!」
「だぁってぇ、疲れたんだもん」
机に突っ伏した姉貴にとっさに怒鳴る。
「ったく…お客さんに何させてんだよ…ごめん。亜美さん」
「ううん。わざわざありがとう」
そう言って笑う亜美さんは優しい笑顔を見せる。
「っ/// 別に俺が勝手にやってるだけだし、亜美さんは気にしないでよ」
「でも三人分だと大変でしょう?」
「そうでもないよ」
姉貴の部屋に入ると、トレイを置きやすいようにと広げていた問題集や参考書やノート類を亜美さんが手早く片付けてくれた。
「ありがとう。おい…亜美さんに全部やってもらってんなよな」
「あたしは一時間も勉強頑張ったのよ!疲れてんの!」
「学校の授業時間と対してかわんねーだろ!」
「まぁまぁ、でもうさぎちゃん本当に頑張ったのよ進悟くん」
「……クッキー食えよ。持ってきたから、じゃあな」
なんとなくバツが悪くなった俺は、自分のアイスティーを持って部屋を出て行こうと立ち上がる。
「進悟くんのクッキーは?」
「俺は別にいい」
「ダメよ。せっかく持って来たんだったら進悟くんも食べないと、ね?」
そう言って微笑む亜美さんに、勝てるはずがなくて、姉貴もうんうん頷いている。
「そーよ!あんたも宿題頑張ったんだから食べていきなさい」
だからなんでそんなにえらそう…
「それに、宿題でわかんないとこあったら、亜美ちゃんが教えてくれるんだから」
「そうね。あたしでお役に立てるなら」
前言撤回!感謝しますオネーサマ!
「じゃああとで、お願い、します」
「えぇ」
数学の問題集に一通り目を通していた時に後半でちょっとわからないところがあったから、そのへんを教えてもらおうと思いながらアイスティーを飲む。

「んーっ♪おいひーっ♪」
姉貴がリスみたいにほっぺたを膨らませてクッキーを頬張っている。
「まったく…そんなに慌てて食わなくても誰もとらねーよ…」
俺が言うと亜美さんがくすくす笑う。きっと慣れてるんだろうな。
「亜美さん、姉貴に全部食べられる前に食べた方がいいよ」
「えぇ、ありがとう。いただきます」
亜美さんがクッキーを一枚取って口に運んで、サクッと音を立てて食べる。
至って普通の食べ方なのに姉貴があぁだからか上品に見える。
「ホントに美味しいわ」
「でっしょ〜♪」
なんで自分で作ったみたいに自慢気なんだよ…とは思ったけど、口に出すとまた姉弟喧嘩になって亜美さんを困らせるからやめておいて、俺も姉貴に全部食べられる前にクッキーを食べる。

「ごちそうさまぁ♪」
「ごちそうさまです」
「ごっそーさま」
クッキーを食べ終わって再び勉強に戻ろうとする亜美さんだったけど、姉貴がもうちょっとだけ休憩したいとダダをこねた。
亜美さんはさすがに困ったような表情を見せる。そりゃあ軽く30分は休憩したからな。

「うさぎちゃん、29日までに三分の一を終わらせるんでしょう?」
「そんなのムリだよぉ……」
「星野君もうさぎちゃんも7月が終わるまでに三分の一は終わらせるって自分で言ったでしょう?それにどっちが早く終わらせるか勝負するんじゃなかったの?」
「もーいい、負けでいい。ムリ……」
うわ…姉貴と星野兄ちゃん高三にもなって、そんなガキみたいな勝負してんのか…。
俺が呆れていると、弱気な発言をする姉貴に亜美さんはふぅっと息をついた。
「……そう、じゃあうさぎちゃんは星野君のお誕生日パーティー参加出来なくてもいいのね?せっかくみんなでお祝いしようって言ったのうさぎちゃんなのに…っ」
「えっ!?それはするよ!」
「でも、星野君もうさぎちゃんも自分達で宣言した目標を終わらせてないとパーティーしないって言ってたわよ?」
「だれが?」
「……夜天君とレイちゃん」
「えぇっ!?なんでその二人なの!なんで〜っ!?」
「それはその話をした時に二人が同じような反応をしたから…ね」
それぞれうさぎと星野から「勝負する」と話を聞いたレイと夜天。

「そうでもしないと星野君もうさぎちゃんも絶対に宿題しないで二人で『これからやるもん』とかって言って、最終的には大気さんとあたしに泣きつくことになるだろうから、それくらいした方が絶対にいいって言って」
レイが亜美に、夜天が大気にそう言ってそのことを伝えるように頼まれたのが昨日のこと。
「あんの…ツンデレコンビめぇぇぇぇぇっ!」
姉貴が項垂れながらわけの分からない悪態をつく。
亜美さんがくすりと姉貴に微笑みかける。
「せめて三分の一が終わるまであたしが責任を持って教えるから、一緒に頑張りましょう?ね?」
「うぅっ……分かった。頑張る」
「えぇ」
姉貴はやる気になったのか数学の問題集に取り組み始めた。
「じゃあ、俺も部屋に戻るよ」
「えぇ、お茶とクッキーをありがとう。進悟くん」
亜美さんが俺に微笑みかけてくれる。
「ううん。あ、亜美さん…その…後でいいから、教えてもらっても、いい、かな?」
姉貴のやる気に水を差さないように、と、恥ずかしいから少し小声でそう言うと、亜美さんは小さく頷いてくれた。
「それじゃあ、次のうさぎちゃんの休憩時間にお部屋にお邪魔してもいいかしら?」
「う、うん!えっと、じゃあ。よ、ヨロシクおねがいシマス///」
「えぇ」
俺は急いで部屋に戻ると、慌てて掃除をはじめた。



亜美は真剣な表情で問題を解くうさぎに意識を傾けながら、自分の宿題に手を付ける。
亜美はレイから頼まれたのだ。
「きっとうちでみんなでやるといつもみたいにマンガ読んだり、美奈子ちゃんとふざけて進まないと思うから、そうならないように亜美ちゃん、手が空いてる時でいいからうさぎの宿題見てあげてくれない?」と。
亜美は快く承諾した。
その話を大気にすると「では、私は責任を持って星野の面倒をみますよ」と笑っていたので、あちらは大気に任せておけばなんの心配もない。
うさぎは先ほどのレイと夜天の“脅し”が効いたのか、わからないところを亜美に聞きながら真面目に問題を解き進めていく。

「ふぅっ…」
「お疲れさま」
亜美に言われてところまで解いたうさぎが机に突っ伏す。
「亜美ちゃんのおかげで助かるよぉ〜。あたし一人だときっとまだ1ページ目だったもん」
「そんな事はないわ。だってうさぎちゃんきちんと理解出来てるじゃない」
「そっかなぁ?えへへ」
「そうよ。でも、ところどころ計算ミスがあるわね。解き方は間違っていないのにこれはもったいないわ」
「はぁい」
「さて、それじゃあうさぎちゃんは少し休憩したらまずは計算ミスのところやり直してから、自分で出来る教科をしておいてもらえるかしら?」
「えっ?亜美ちゃんもう帰っちゃうの!?」
言いながら立ち上がった亜美の言葉にうさぎが慌てる。
「ううん。進悟くんのところよ」
「あ、そっか。進悟の部屋に行くの?」
「えぇ」
「そう、なんだ。いって、らっしゃい」
「えぇ、行ってきます。それじゃあきちんとやっておいてね?」
「うん」
ぱたんと閉まったドアを見つめてうさぎは小さくため息をつく。
「大気さんが、あたしの弟とは言え亜美ちゃんが他の男の部屋に入ったとか知ったら、きっとおもしろくないんだろうなぁ……」
大気の黒い笑顔を思い出したうさぎの背中にゾワリと悪寒が走る。
「まぁ、亜美ちゃんはニブチンさんだから、そんな事気付いてないんだろうけど……」
なんとなく、うさぎは弟である進悟が自分の親友の少女達の中で、亜美に対してだけ態度が違うような気がしている。
「考えすぎだよね。きっと」
うさぎはうんうんと頷くと、渇いた喉を潤すため部屋をあとにした。



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