捧げ物 | ナノ


still
火川神社の美人巫女としてちょっとした有名人であるところの火野レイは、ほうきを動かしていた手を止めてふうと息を吐くと、夕暮れに差しかかった空を見つめる。

「……はぁっ」

ため息をつくとザッザッとほうきを事務的に動かし、落ち葉を掃いていく。

そこは参拝客が立ち入るところではないが、いつもならレイが学校から帰ってくる頃にいつも彼が掃除を行なっているはずの場所。

「…………あと三日、か…」

レイは木々の間の空を切なげな瞳で見上げる。



『あの……急で申し訳ないんですが、明後日から一週間ほど帰省許可をいただきたいんですが…』
火川神社の居候扱いとなっている青年である熊田雄一郎が朝食の席でそう言ったのがちょうど一週間前だった。
『あぁ、かまわんよ。ご家族に元気な顔を見せてこい』
と、祖父はにこにこと笑って快く了解した。

『…………』
二人のやりとりを呆然と眺めていたレイに祖父が視線を向けた。

『レイ?』
『え?』
『なにぼんやりしとるんじゃ?そろそろ支度せんと遅刻するぞ?』
『あ、いけない、ごちそうさまでした』
レイは手を合わせると食器をシンクに持っていく。
『俺が洗っておくのでレイさんはもう行ってください』
『……えぇ、ありがとう』
レイは雄一郎にそう告げると部屋をあとにした。

そしてその二日後、雄一郎はレイに「おみやげ買ってきますね」と言って、いつもの優しい笑顔で実家へと帰っていった。

それから四日。
もう、四日。
───まだ四日。

これまで家に雄一郎がいることが当たり前になっていた。
こんなにいなかったことはなくて、家に帰ればいつも優しい笑顔で出迎えてくれた。

「はぁっ…」
無意識で溢れるため息は雄一郎が帰ってから何度目になるのだろう。
カァと鳴き声が聞こえたレイがそちらに視線を巡らせると、心配そうに自分をじっと見下ろすフォボスとディモスがいて、レイは小さく笑うとすっと手を差し出す。
バサバサと羽音を鳴らして二羽が舞い降りる。
「心配してくれてるのね。ありがとう」
黒々とした艶やかな毛をそっと撫でると気持ちよさそうにする姿に、胸のもやもやが少し薄れるのを感じた。



翌日、学校が終わってからの勉強会。
いつものようにレイの部屋で勉強の休憩時間が近づいてきた。
「あたしお茶淹れてくるわね」
そう言ってレイが部屋をあとにすると、まことが手伝うよとあとをついてきてくれた。
亜美はここぞとばかりに逃走を謀ろうとしたうさぎと美奈子に「二人ともあと一問ずつ残ってるでしょ?」と、言っていた。

「雄一郎さん帰ってくるのって明後日だっけ?」
レイが紅茶の準備をしている間に持ってきたシフォンケーキを切り分けていたまことがレイに聞く。
「そうね。明後日の朝につく夜行で戻るって言ってたわ」
「そっか」
「えぇ」
ティーポットに茶葉を入れお湯を注ぎ入れ、抽出されるのを待つ間の静かな時間。

「寂しいかい?」
「…なっ!何言ってるのよ!そんな事あるわけ無いでしょう!」
「ぷっ」
「ちょっとまこちゃん!なんで笑うのよ!」
「だってレイちゃん。真っ赤だよ?」
まことがくすくすと笑いながら言うと、レイが驚いたように頬に手を当てる。
自分でも驚くほどのあつさだった。
「〜っ/// こ、これは違うのよっ!ちょっとあつくてっ!」
「もう11月だよ?」
「うっ…」
言葉に詰まったレイにまことは言う。

「当たり前みたいにそこにいた人がいないのってさ、寂しいだろ?」
「……えぇ、そうね///」
レイが素直に頷くのを見たまことがふふっと笑う。
「あのね」
「ん?」
「雄一郎が家にいる事って、こんなにも当たり前になってたんだなぁってちょっとびっくりしてて……」
「うん」
「雄一郎が一緒に住むようになるまではおじいちゃんと二人が当たり前だったのに、それが雄一郎がいなくなったら昔みたいな感じになるのかなって思ってたら全然違ってて…」
「うん」
「おじいちゃんと二人の食事は寂しいの…。元々食事中に会話をする事なんてあまりないのに…それでも寂しくて…」
「うん」
「ここに雄一郎がいる事があたしとおじいちゃんにとっては“当たり前”になってて……ね」
「うん。そうだね」

まことが人数分のカップに紅茶を淹れながら話す。
「あたし達もそうだよ」
「え?」
「学校が終わって火川神社に来ると、いつも雄一郎さんが笑顔で『いらっしゃい』って出迎えてくれるんだよ。それに休憩の時もタイミングを見計らったようにお茶入れて持ってきてくれてさ」
「そうね」
「だから、ここに来ても雄一郎さんがいないのはなんか寂しいねってみんなでお昼に話してたんだよ」
「そうなの」
嬉しそうにつぶやいたレイにまことはくすくすと笑う。

「その時にね」
まことが話しはじめた時だった。
「お邪魔、だった?」
「亜美ちゃん。ううん。うさぎちゃんと美奈子ちゃんは?」
「ノルマクリアしてバテてるわ。何かお手伝いできる事はあるかしら?」
「あとは運ぶだけだよ」
「二人にまかせちゃってごめんなさい」
「亜美ちゃんは二人の面倒見なきゃならないんだから、これくらいいいのよ」
「うん。ありがとう」
そう言って亜美はレイを見てふわりと微笑む。
「なに?」
「ううん。少し元気になったみたいだから、良かったなって思って」
「あたし、そんなに元気なかった?」
「そうね。元気がないと言うよりは寂しそうだったわ?」
「そうだよ」
「そ、そう」

それから部屋に戻りまことお手製のシフォンケーキを食べながら休憩に入った。
「そうだ、まこちゃん」
「ん?」
「さっき言いかけたことの続きって?」
「さっき?……あぁ!うん。あのさ、今日の昼休みにみんなと雄一郎さんがいなくて寂しいねって話してたら、それを聞いた星野君たちがさ」
「あっ!まこちゃんゆっちゃダメっ!」
うさぎが慌ててまことを止める。
「えー?どうしてさ?別に言っちゃってもいいよね?」
まことが亜美と美奈子に話を振ると
「ダ、ダメっ!///」「いいわよん♪」
正反対の答えが帰ってきた。

「なによ〜?あたしにだけ教えてくれないの?寂しいなぁ…」
レイがわざとそう言うとうさぎと亜美が押し黙る。
「あのね、その時に夜天君が『ふーん…美奈は僕より雄一郎さんに会いたいんだね』とかって拗ねちゃってね。もうキューンてなったの♪あたし、愛されてるっ♪」
美奈子が言ったのを聞いてレイはなるほどと理解した。

「そうなんだよ。星野君は『おだんご!お前っ……やっぱり年上の男がいいのかよっ!』て言い出すし、大気さんは……笑顔が怖かったよ、ね?」
「うん…」「うん…」「うぅっ///」
「で、亜美ちゃんは大気さんに拉致られた?」
「さすがレイちゃん!その通り!」
「まぁ、大気さんだものね…」
「うぅっ///」
「亜美ちゃん泣いたよね?目赤かったし」
「……お願い…何も、聞かないで…」
みんなのようすにくすくすと笑うと、レイのその笑顔にみんなもホッとしたように笑顔を見せた。



そして二日後の朝
「おかえりなさい。雄一郎」
「はい!ただいま。レイさん」
火川神社の鳥居を挟んで、朝露の中で綺麗に微笑むレイと、少し恥ずかしそうな雄一郎の姿があった。






あとがき

スター様

30000のキリ番ゲットおめでとうございますヽ(=´▽`=)ノ
いつもリクエストありがとうございます。

雄レイとのリクエストでしたが、こんな感じでよろしいでしょうか?
雄一郎さんが帰省して家にいないことをさみしがるレイちゃんを書きたくなりまして、こうなりました。

あまり雄レイ濃度はなくて申し訳ないですm(_ _)m



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