捧げ物 | ナノ


Love Marginal
「亜ー美ちゃん♪」
職員室から教室へと戻る途中、見慣れた碧い髪を見つけた美奈子は足音を消すと、後ろから亜美に抱きついた。
「きゃっ!美奈子ちゃんたらいきなり危ないじゃない」
「えへへ」
「んもうっ、人違いだったらどうするの?」
亜美が明るい笑顔を見せる美奈子に言うと、彼女は一瞬驚いてまた楽しそうに笑う。
「亜美ちゃんを見間違えることなんて絶対にないわ」
「どうして言い切れるの?」
「だって、あたし今までそんなに綺麗な碧い髪の子に出会った事ないもん♪」
「っ///」
赤くなる亜美に美奈子は可愛いなぁと思う。

「ねぇ、亜美ちゃん」
「なぁに?」
「今日の放課後、ヒマ?」
今日はレイは学校の行事のため勉強会はない 。
うさぎは星野から「勉強会ないなら、俺おだんご予約な」と、メールが入ったと言っていた。
まことは無料体験の『プロが教える料理教室』に行くからと嬉しそうに話していた。
今日は美奈子の仕事が午前のみで、放課後は久しぶりにみんなと過ごせると思っていただけに、少し残念に思いながら亜美に聞いたのだ。

「えぇ、あたしは特になにもないわ」
亜美がふわりと笑顔を見せて答えると美奈子が本当に嬉しそうにニコニコと笑った。
「じゃあ放課後、あたしと一緒にライツマンション行こ!」
「え?」
「嫌なの?」
「違うわ/// ただ、その…」
口ごもる亜美に美奈子はくすっと笑うと
「『勝手にお邪魔しちゃ大気さん達の迷惑になるもの』」
亜美の言葉を見事にハモる。
「えっ?」
「亜美ちゃんの考えてることなんてすぐに分かっちゃうのよ?」
「っ、あたし、そんなにわかりやすい?」
「うんっ。とっても」
「そう、なの?」
「恋愛に関してはあたしのが先輩なのよ?」
そう言って笑顔を見せる美奈子に亜美は困ったように微笑んだ。

「っていうのは、まぁ冗談として亜美ちゃんは遠慮しすぎ」
「そんな事はないと「あるのっ!」
亜美の言葉を遮った美奈子は彼女の前でピッと人差し指を立てる。
「もぉっ、いーの?亜美ちゃん?」
「なにが?」
「たぶん、あたしの方が亜美ちゃんより大気さんに会ってると思うんだけど?」
「───え?」
亜美は目を丸くする。

「あたし、亜美ちゃんよりマンション行ってるし?」
「っ」
「場合によってはスタジオの廊下ですれ違うし?」
「っ」
「たまーに、一緒の現場でお仕事もあったりするし〜?」
「ーっ」

「───行くわよね?ライツマンション」
「…………っ、行く」
少し拗ねたような亜美の態度に美奈子はこっそりと笑顔を見せる。
「やった!決まりね?約束よ?一緒にお夕飯作って夜天君と大気さんの帰り待とうね?」
「うん───ありがとう、美奈子ちゃん」
「なんのこと?」
首を傾げる美奈子に亜美はううんと言って微笑む。

(気を遣わせちゃったなぁ…)
亜美は心の中で反省する。
一ヶ月前からスリーライツのアルバム制作で忙しくなり、なかなか学校にも来られず、ろくに会えていなかった。
亜美の性格ゆえに作業の邪魔になってはいけないからと電話はおろか、メールもあまりしていなかった。

なんの連絡も入れずに行っては迷惑になるかもしれない。
けれど、星野がうさぎを誘っていたことと、美奈子がこうして誘ってくれたと言うことはきっと大丈夫なのだろうと思い、その厚意に甘えることにした。

「美奈、明日学校が終わったら水野連れてマンションに来てて」
夜天からその連絡を受けたのは昨日の夜だった。
詳しい事情なんて聞く必要はなくて、美奈子は「任せてっ!」と明るく返事をした。

放課後になり、美奈子と亜美は夕飯の買い物を済ませライツマンションへと向かった。
メニューは美奈子の希望でロールキャベツになった。
「亜美ちゃんとここで一緒にお料理するのは初めてよねぇ」
「えぇ、お茶を淹れたりはあったけれど、お料理するのは初めてね」
二人はまことのおかげで料理にもすっかり慣れた。
美奈子のほうはたまに突拍子もない事をしたりはするが、根本的な部分はまことにしっかりと、まさに文字通り叩きこまれたおかげで危なっかしさはなくなった。

二人でしたこともあり手際良く調理を終える事が出来たため、交代でシャワーを浴びてからリビングでゲームをしながら恋人の帰りを待つことにした。
亜美はまずは勉強しようと言ったのだが、美奈子がゲームがいいと譲らなかったためだ。

「ねぇ、っ、亜美ちゃん」
「なぁに?」
「亜美ちゃんてっ、さぁ……あぁっ」
「うん?」
「ホントに甘えるのヘタよねぇ?……ちょっ…」
「っ…そう、かも…しれないけど、それは美奈子ちゃんもでしょ?」
「っ、そう?でも、っ!亜美ちゃんよりはずーっとマシよ?…くーっ…また負けたーーーっ!」
美奈子の言葉に亜美は怪訝そうな視線を向ける。

「マシ?」
「そっ。マ・シ!亜美ちゃんもう一戦!」
「……そう?」
「あたしは会いたい時は“寂しい”“会いたい”ってちゃんと言えるもん。えーっ、亜美ちゃんまたそれ〜?違うのにしてよ」
「…だって…迷惑、かけたくないじゃない…」
「大気さんが亜美ちゃんのことを迷惑だなんて思うわけないでしょ?うわぁっ、そっちかぁ……手厳しいなぁ…もう」
「……そんな、事……っ」
「なくないわよ?ステージランダムっと」

「…でも、あたし…は……」
プレイを始めてしばらくどちらも言葉を発さなかったが、ポツリと亜美がこぼす。
「うん?」
「美奈子ちゃんみたいに言えなくて…っ」
「そうね。亜美ちゃんだもんね」
「え?」
「……亜美ちゃんは、いつまで“聞き分けのいい子”でいるの?」
「っ!そんな事」
「ないなんて言わせないわよ?ホントは大気さんに会いたくてたまらないくせに『迷惑かけたくないから』なんて言って我慢してるから」
「…っ」
「限界、きちゃうんじゃない。もうっ」
美奈子はゲームコントローラーのポーズを押すと、机に置いて隣の亜美をぎゅっと抱きしめる。
「言い過ぎたわ。ごめん」
美奈子よりも小さな身体がひくりとしゃくりあげる。
「ちが…っ、うのっ…、 あたしっ」
「うん。大丈夫よ」
美奈子は小さな子どもをあやすように亜美の背中を撫でる。

落ち着きを取り戻した亜美は静かに話し始めた。

「あたし、ホントはすごく我侭なの」
「我侭?」
「うん…」
「……」
「美奈子ちゃん達が思ってるような“いい子”なんかじゃ、ないの…」
「亜美ちゃん…」
「学校で、ね。美奈子ちゃんの話を聞いて羨ましいって思った時、そんな風に思う自分を嫌だなって思ってしまった」
「どうして?」
「だって、大気さんも美奈子ちゃんも芸能人で、お仕事なのにっ、それを…っ」
「あたしは、学校で亜美ちゃんがそう思うように仕向けたのよ」
「…どうして?」
「亜美ちゃんが、あたし達の誰にも“我侭”を言ってくれないからよ」
「え?」
「亜美ちゃんはよくあたしとかうさぎちゃんの話を聞いてくれるのに、亜美ちゃんはあんまり…って言うか、ほとんどそういうこと言わないからみんな心配してたのよ」
「そう、なの?」
「そうなの」
「ごめんなさい」
「そこで謝っちゃうのが亜美ちゃんなのよねぇ…」
「え?」
「友達が落ち込んだり、元気がなかったら心配するのは当たり前でしょ?」
「え?うん」
「だいたい、亜美ちゃんは人の事はよく気がつくのにどうして自分の事になるとそんなにニブチンなの?」
「ニブチン?」
「そうよ!」
「えぇっ…」
亜美が納得がいかないとばかりに美奈子を見つめると、困ったような笑顔があって本当に心配をかけてしまったんだと改めて気付く。

「美奈子、ちゃん」
「ん?」
「ごめんなさい───ありがとう」
「どういたしまして」
そう言って美奈子は“愛の女神”のような笑顔を見せる。

「ねぇ、亜美ちゃん」
「なぁに?」
「大気さんに会いたい?」
「っ/// うん///」
「あーっ、もうっ!亜美ちゃんたらかっわいいんだから〜っ」
「きゃあっ///」
頬を染めてしっかりと頷いた亜美に美奈子が抱きつくと、そのまま体勢を崩してしまいソファに押し倒すような形になる。

「ふっふっふ…」
「み、み、美奈子ちゃん?」
「今のあたしには大気さんが亜美ちゃんを愛でたくなる気持ちが手に取るように分かるっ!」
「あたしは美奈子ちゃんの言ってる言葉の意味がわからないわっ!」
「だーいじょうぶ♪」
「なにがっ!?」

───ガチャリ

「……何してんの?」
「あ、夜天君♪おかえりなさーい♪」
「亜美?」
「大気さん///」

家に帰ってリビングを開けたら自分の彼女がソファで仲間の彼女を押し倒して、なんだかちょっと際どい状況だったらどうすればいいですか?

「美奈……水野を押し倒してるのはどういう事?」
「なりゆきよ!」
「どこからどうしてそんななりゆきになったのさ!意味がわからないよっ!」
「だって亜美ちゃん可愛いんだもん」
「だもんじゃないよ…。……っ!?」

ゾクッと夜天の背中を寒気が駆け抜けた。

「た、大気?」
「───ですか?」
「え?」
低すぎて隣に立っていても聞こえないほどの声量で、夜天が反射的に聞き返す。

「泣いたんですか?」

亜美を見つめてそう言うのとほぼ同時に大気は行動を起こしていた。
素早くソファ上の亜美を抱き上げると何も言わずに自室へと消える 。

「「あ…」」
夜天と美奈子があまりの速さに唖然としてしまうほどだった。
「ど、どうしよう夜天君」
「僕、知ーらない」
「そんなっ、亜美ちゃんが食べられちゃってもいいの!?」
「いや、さすがにそこまで心配しなくても…。って言うか僕は水野を連れて来てとは言ったけど、大気の代わりに押し倒しといてとは一言も言ってないよ?」
「亜美ちゃんに抱きついたらバランス崩して…で、亜美ちゃんが可愛かったからちょっとこう、ムラムラきて」
「……大気の前でそれ言える?」
「絶対ムリ!」
ブンブンと頭を振る美奈子の隣に腰掛けると少しむくれたような、子どもっぽい表情を見せる。
「っていうか、ムラムラくる相手が違うんじゃないの?」
「え?夜天君、ツッコむトコロそっち?」
「そうだよ」
「……えっち」
「美奈のせいでしょ?」
そう言って自分を見つめるエメラルドの瞳は妖しく熱を帯びていて美奈子はドキッとする。
「っ/// や、夜天君?///」
「大気ほどじゃないけど、僕も美奈に餓えてるんだよ」
「そ、そうねぇ…えっと/// ご、ごはんは?」
「あとで大気達と一緒に食べればいいよ。どうせ向こうも二時間くらいかかるだろうし」
「デスヨネ〜」
「じゃあ、僕に食べられる覚悟はできた?」
夜天の言葉に目をぱちくりさせると美奈子はくすっと笑う。
「あたしは、いつでも覚悟できてるのよ?」
「へぇ、さすが───愛の女神だね」
夜天はふっと微笑むとくちづけをひとつ贈る。
「あっ!」
「なに?」
「ここで、するの?」
「あー……さすがにマズイ…かな」
夜天はニッと笑うと耳元にくちびるを寄せる。
「今ならもれなくお姫様抱っこの権利があるけど、どうする?」
「使わないわけないじゃない」
くすくすと笑い合ってキスをする。

夜天は自室に入ると壊れもののように優しく美奈子をベッドに下ろす。
「あ、夜天君」
「ん?」
「痕つけないで欲しいんだけど、ダメ?」
お願いのポーズと、おまけに上目遣いで言われて嫌だなんて言えるわけないのにな、と思いながら
「仰せのままに」
“誓い”を立てるかのように、美奈子の髪を一房指に絡めとり、くちびるを落とした。



───ほぼ同じ頃
バンッと扉をいつもより乱暴に閉めた大気は、驚いたように自分を見上げる亜美を抱き上げたままベッドに腰を下ろすと、彼女を抱きしめる。
強く、けれど彼女が苦しくないように。
電気すら点いていない部屋は耳鳴りがしそうなほど静かで、かすかな呼吸音がうっすらと響く。
「大気、さん?」
静寂を破ったのは亜美だった。
少し不安そうな声色で、そっと名前を紡がれた大気は腕の力をゆるめる。
「───亜美」
そっと彼女の頬にふれる。
「泣いたんですか?」
「え?」
「さっき、リビングで見たとき目が赤かったです」
大気は亜美を連れて部屋に入った理由はそれだった。

「あ…っ、それ、は…その…」
俯いて顔を隠そうとする亜美の顎をくいと上げさせる。
「泣いたんですね?」
「……少し、だけ」
亜美が言うと、大気が小さく息を飲む。

「私のせいですか?」
「っ!ちがっ「違うんですか?」……わなくもないです、けど…」
大気は困ったようにそう言った亜美の髪をそっと撫でる。
「亜美」
「っ///」
「寂しかったですか?」
「……っ」
小さく頷き、亜美がきゅっと大気の服の裾をつかむ。
「寂しかった、です」
ポソリとつぶやかれた亜美の言葉に大気は彼女を抱きしめる。
「私もです」
「っ!」
「そこで驚きますか?」
「ごめんなさい///」
「……あまり、連絡もせずにすみませんでした」
「っ、いえっ、謝らないでくださいっ!大気さんはお仕事でっ。それに…あたし…っ」
亜美が小さくくちびるを噛む。
「……っ、自分から連絡するのが、怖くて」
「怖い?」
こくんと頷く亜美の小さな身体をそっと抱きしめあやすように背中を撫でる。
「大気さんのお仕事の邪魔をしたくなくて…」
「うん」
「迷惑に、なりたくなくて…」
「うん」
「……っ」
「……」
亜美がまだ何かを言おうとしている事を察した大気はそのまま先を促さずに、黙って彼女の言葉を待つ。
「煩わしいって思われたくなくて……っ」
「───ストップ」
「っ」
大気の言葉にひくりと息を飲む。
「“煩わしい”?」
「っ、だっ、て」
「だって?」
「ど、どうしたらいいのか、わからないんだもん」
叱られることを怯える子どものように少しムキになって言う亜美に大気はこつんと額を合わせる。
「亜美」
「っ///」
「亜美」
「ぅっ///」
「亜美」
「ーーーーーっ///」
大気は真っ赤になって逃げたいオーラを放つ亜美をそのまま腕の中にしっかりと閉じ込める。

そして、泣き出しそうに揺れるサファイアを正面から覗きこむ。
「こうして抱きしめたくて」
「っ///」
「亜美の笑顔が見たくて」
「ーっ」
「ずっと、亜美に触れたかった」
「っ!」
「亜美に、会いたかったです」
「あたしも、会いたかったです」
亜美がぎゅっと大気に抱きつくと大気もしっかりと抱きしめる。

どちらからともなく触れたくちびるの熱と、握りしめた手の熱さと、触れ合った肌のぬくもりと、溢れる吐息と、泣きたくなるほどの愛しさと───



「「ごちそうさまでした」」
二時間後、食事を終えた大気と夜天がしっかりと手を合わせる。
ずっとデリバリーだったり、外食がほとんどだったので、手料理が本当にありがたいと感じた二人だった。
「片付けは僕らがやるから、美奈と水野はお風呂入っといで」
「そうですね。ごゆっくり」
「ありがと♪いこ、亜美ちゃん」
「え?うん。お、お願いします」
二人を見送った大気と夜天は洗い物を始める。
「どういう風の吹きまわしですか?」
「なにが?」
「いつもはそんな事、言わないでしょう?」
「あー…まぁ、たまにはいいでしょ?」
「いつもこうだと助かるんですが?」
「嫌だよ、めんどくさい」
「まったく……あ、そうだ夜天」
「なに?」
「亜美を呼んでおいてくれたこと、感謝しますよ」
「……別に僕は何もしてないけど?」
「そうですか?愛野さんと結託したでしょう?」
「……わかってるならもっと早く会いに行けばいいんだよ…。昨日ぶっ倒れたとき、なんて言ってたか分かってんの?」
「……いえ、正直倒れるとは思っていなくて」
「まったく……」

『───亜美』
昨日、スタジオのソファに倒れ込んだ大気の言葉。
それは声には出ていなかったけれど、動いたくちびるはしっかりと彼女の名前を紡いでいた。
今日で全曲のレコーディングは終わることはわかっていたから、夜天は美奈子に亜美を連れてくるように頼んでおいたのだ。

「お互いに連絡しないなんてバカなんじゃないの?」
「……まったくですね」
「大気って水野の前でやたらいいカッコしたがるよね」
「余裕があると思われたいんですよ」
「意味分かんない。そんなカッコつけてとりつくろわなくてもいいんじゃないの?」
「そう、ですね」
大気の返事にやれやれと思う。
「まぁ、水野は水野で相当に不器用って感じだけどね」
「……えぇ」
「そんなところも可愛くて仕方ないって感じだね?」
「まぁ、そうですね。時々もっと我侭に振舞ってくれてもいいのにとは思いますが…」
「あー…無理そう」
「ははっ、そうですね」
「笑えるなら、水野不足はちゃんと補えたみたいだね」
「おかげさまで」
「まったく……今度からは限界くる前に自分で対処しなよね…」
「えぇ、そうしますよ」

───その頃

「あら?」
亜美は髪をアップにして体を洗っていた美奈子を見つめて声を上げた。
「ん?なぁに?亜美ちゃん」
「美奈子ちゃん…」
「うん?」
「明日、お仕事よね?」
「うん♪ファッション誌の撮影よん☆」
亜美は元気に答えてくれる美奈子にどうしようか考えるが、黙っていても仕方ないしと自分に言い聞かせ、すっと人差し指で美奈子の肌に触れる。
「ひゃうっ!?」
ちょうどうなじのあたり。
「あ、あ、亜美ちゃん?」
「いいの?」
「え?なにが?」
「ここ、ついてるけど?」
「───っ!嘘っ!?」
「そんなにはっきりとついてないから充分に隠せるとは思うけど、明日には消えてる感じでもないわ」
「……っ///」
「美奈子ちゃん?」
「夜天君のバカーーーーーーーーーッ!!」
「ひゃっ」
美奈子の絶叫に、亜美は思わず耳を塞ぐ。
あまり効果はなかったが…。

「なにやら叫んでますが?」
「うん。これくらいは予想範囲内だから」
「“お互い仕事に支障は出さない”が約束だとか言ってませんでしたか?」
「時と場合による」
さらりと言い放つ夜天に、大気は分からなくもないので苦笑する。

「うぅっ…」
「大丈夫よ、そんなに目立たないし、ね?」
一緒に浴槽に入った美奈子はそう言う亜美をじっとを見つめる。
「言っとくけど……」
「な、なに?」
「亜美ちゃんもばっちり痕残されてるからね?」
「えぇっ///」
「しかも大気さんてば制服じゃ見えないキワドイとこにしっかりくっきりつけてるから、着替えの時には目立つわね」
「ーっ///」
美奈子は仕返しとばかりに亜美の背中に咲いた赤い花に触れる。
「ここと、ここね」
「うぅっ///」
「亜美ちゃん色白いから目立つわよねぇ」
「ーっ/// それは美奈子ちゃんでしょ?」
「あ、あたしはいいのよ!」
「開き直ったわね…明日のお仕事困るんじゃないの?」
「うっ…な、仲のいいメイクさんにお願いして隠してもらうからいいもん!まぁ、マネージャーには怒られちゃうだろうけど…でもいいのっ!」
「いいの?」
「だって───夜天君が付けてくれた痕なのよ?」
「うん?」
美奈子の言葉に亜美は首を傾げる。

「好きな人に痕付けられるのってトクベツな感じがするから、あたしは嫌じゃないの」
そう言って綺麗に微笑む美奈子に亜美はドキリとする。
そんな風に堂々と言える美奈子をいつもすごいと思う。
自分は性格のせいか恥ずかしさが先にあって、どうしたらいいのかわからなくなる事がほとんどなのだ。

「亜美ちゃんは?」
「えっ?」
「大気さんに痕付けられるの、いや?」
「なっ///」
亜美の反応に美奈子はニッとイタズラが成功したように笑う。
「なーんてね♪嫌だったらそんなトコロに痕ついちゃうような事しないわよねぇ〜♪」
「も、もうっ/// からかわないで///」
美奈子は耳まで真っ赤になった亜美の反応にくすくすと笑う。

大気ではないが亜美の反応が可愛くてついいじめてしまいたくなる。
ただし、あまりやり過ぎると大気が怖いのと、夜天に叱られるのとでほどほどにしている───つもりではある。

「ね、亜美ちゃん」
「ん?」
「大気さんにちゃんと甘えられた?」
「っ/// うん///」
「そう、良かったわね」
「えぇ、ありがとう。美奈子ちゃんのおかげよ」
「あたし?」
「うん。美奈子ちゃんがここに連れてきてくれてなかったら、自分からは来られてなかったと思うから」
「……今度は、ちゃんと自分でしなきゃダメよ?」
「う、ん」
亜美の反応に無理そうだなぁと思いながら苦笑する。
「亜美ちゃん、今度ね」
「うん?」
「今度、会いたい時は“会いたいです”って一文でいいからメールすればいいのよ」
「うん」
「きっと大気さん喜ぶわ」
「え?」
「ね?」
「───うん」
そう言ってはにかんだ笑顔を見せる亜美に美奈子は笑顔を見せる。



───その後
「うわぁっ!いきなり何すんのさ!」
お風呂から上がってきた美奈子に、突然うなじにカプリと噛み付かれた夜天が叫ぶ。
「痕つけちゃダメって言ったじゃない!」
「うん」
「つけたでしょ!」
「……ごめん。半分無意識」
「それって半分意識的ってことじゃない!」
「いいじゃん別に!目立たないように薄くしといたでしょ!三日もあれば消えるよ!」
「あ・し・た!明日撮影だからダメって言ったのに!」
「って、水野そこは黙っといてよね」
怒っている美奈子の後ろからそろりとこちらのようすを伺っている亜美を見つけた夜天が声をかける。
「えぇっ!?ご、ごめんなさい」
「亜美、謝らなくていいですよ。と、言うかリビングでいちゃつかないでください。迷惑です」
「じゃあ大気も水野とイチャついていいよ」
「どうして亜美とイチャつくのに夜天の許可をもらわなくてはいけないんですか…まったく…。亜美、おいで」
大気はリビングの入り口でオロオロとうろたえる亜美を連れて脱衣所に行くとドライヤーで亜美の髪を乾かしはじめる。

「あのっ」
「動かないでください」
「っ///」
大気は亜美の髪を乾かしながら気付く。
「さっきも思ってたんですが」
「え?」
「髪、少し伸びましたね」
「そう、ですか?」
「えぇ」
亜美はそうかしらと言いたげに乾いた自分の髪を指先でつまむ。
「それと、もうひとつ」
「え?」
大気はドライヤーを置くと後ろから亜美を抱きしめる。
「っ///」
「痩せたでしょう?」
「そんな事は……」
「ないわけないでしょう?私が気付かないと思ったんですか?」
「うぅっ…ちょっと、だけ…」
「まったく…」
「でも、大気さんだって」
「はい?」
「少し痩せてます」
体つきはそうでもないのだが、顔が少しほっそりしたと思う。
「まぁ、結構スケジュールを詰めてしまったので」
「ーっ」
亜美は大気にそっと腕を伸ばすと
「わっ!?」
わしゃわしゃと大気の前髪を崩す。
「何するんですか…リビングに戻れなくなったでしょう?」
「知りません」
プイとそっぽを向き大気の腕から逃れようともがく。
「離してください」
「キスしてくれたら離してあげます」
「美奈子ちゃんが外にいる気がするから嫌です」
「ギクッ」
「どうせ夜天もいるんでしょう?」
「いや、僕はお風呂に入ろうかと」
「まったく…私が先に入りますが?」
「えーっ!なんで?」
「髪が……」
「……あー、なるほど。いいよ、分かった」
「え?夜天君今ので何が分かったの?」
「いいからリビング戻るよ。水野も大気ともう一回お風呂入れば?」
「えぇっ!?」
「「ごゆっくり〜」」
二人の気配がなくなった事を感じた大気が亜美を見下ろしにぃっと笑う。
前髪が下ろされているせいで年相応の少年のような笑顔で意地悪をするときの笑顔で笑う。
「っ…」
「一緒に入りますか?」
「入りません!!」
「ほう?」
「っ、もう髪乾かしたし…っ」
「もう一度乾かしてあげますよ?」
「いらないですっ///」
「どうしても嫌ですか?」
「これ以上お風呂に入ったらのぼせます」
「なるほど…それは確かに」
「だから、離し───っ」
亜美が言い終わるよりはやく、大気はくちびるを塞いだ。
「んっ///」
「これで許してあげます」
そう言って“にっこり”と笑う大気に亜美は反射的に頷いた。

「あれ?一緒に入らなかったの?」
「入れば良かったのに。大気さん喜ぶわよ?」
「うん。すっごい喜ぶよ」
「なんでそんなに二人そろって入らせたがるの?」
「そりゃあ───「おもしろいからよ!」違う。美奈はちょっと黙ってて」
「?」
「大気が一番参ってたからね」
「え?」
「連絡がなかったことに、だよ」
「あ…」
「どんな些細なことでもいいからさ、電話かけづらいんならせめてメールしてやってよ。
大気は真面目だから、僕とか星野と違って仕事が詰まってくると自分からは出来ないからさ」
「…っ」
「大気って星野と一緒で単純なとこあるから、水野からのメールひとつですっごい喜ぶんだよ」
「えぇっ///」
「たまには大気さんに“我侭”言っちゃえばいいのよっ♪」
「そうそう」
「───っ、うん、ありがとう。夜天君、美奈子ちゃん」
そう言ってふわりと微笑んだ亜美に夜天と美奈子も笑顔をみせた。

「───っくしゅん」
お風呂に入りながらくしゃみをした大気だけがそんな話をされている事など知らずに。






後書きと言う名のいいわけ

このお話は先日チャットで素敵なイラストを描いてくださったまなか様とウラアサ様へのせめてものお礼にと、大亜美&夜美奈を書いていたらどんどこ長くなった次第です。
どちらかと言うと亜美ちゃんと美奈の友情話になりましたが、愛は込めたつもりですっo(`・ω´・+o)

まなか様とウラアサ様のみお持ち帰りOKです♪



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