捧げ物 | ナノ


bravery
「───え?」

3月中旬のある日曜日、うさぎと亜美と三人で買い物にでかけたまことは、それぞれ自分達の目的を果たすために一時的に別行動をしていた時だった。
ちなみにうさぎは隣の百貨店の物産展、亜美は本屋へ行くと言っていた。
自分はと言うと、新しいキッチン用品を買うためにお気に入りのお店へ行き、見事に目的の物を手に入れることが出来たところだった。
待ち合わせの時間まで少しあるので特に何を見るでもなく、一人ウィンドウショッピングをしていた時だった。

まことはふとよく見知った後ろ姿を見つけた。
一つ下の恋人である浅沼一等。

日曜の昼下がり、たくさんの人が溢れる中で後ろ姿だけで彼だとわかってしまう自分に少しの恥ずかしさと、それ以上の嬉しさを覚える。

(声、かけてみようかな)
まことがそう思った時だった。
一等に小柄な少女が腕を絡ませるのが見えた。
一等は振りほどくでもなくそのまま仲良さげに話しながら、ある店へと入っていったようで姿は見えなくなった。

(なんだ…今の?)
後ろ姿だったので年齢は分からないが、少女と呼称して問題ないだろうと思った。
問題は年齢ではない。
腕を絡ませて、楽しそうに話しをしていたその姿はまるで───恋人同士のようで。
「ーーーーッ!」
まことは今見た光景にその場を走り去った。

その後、どうやって家にたどり着いたのかは分からなかった。
家に着くとぜぇぜぇと肩で息をしていた。
玄関を入ったところでぼんやりとした頭で考えがまとまらず、へたりと座り込んでいると、バッグの中に入れた携帯のバイブ音でふと我に返った。
携帯を取り出すと、うさぎからの着信だった。
緩慢な動きで通話ボタンを押し、耳に当てる。
『あ、もしもし!まこちゃん?やっと出た。亜美ちゃんと二人で何回も鳴らしてるのに出ないから何かあったんじゃないかって心配しちゃったよ〜っ』
ホッとしたようなうさぎの声にまことはようやく三人で出かけていた事を思い出した。
家の時計を見ると、待ち合わせようと約束していた時間を三十分ほど過ぎていた。
「あ、っ。ご、ごめん」
まことの口から力ない声が漏れた。
『まこちゃん?なんかあった?』
心配そうなうさぎの声に慌る。
「いや、あたしちょっと急用思い出して、帰らなきゃいけなくなっちゃって。連絡しなくてごめんね。ホントに急いでてさ」
下手な嘘で取り繕うとうさぎは「うーん、そっかぁ。それじゃあしょーがないよねぇ」と納得してくれたようだった。
フリかもしれないが、今のまことにはありがたかった。
「亜美ちゃんにもごめんって伝えてよ」
『うん。分かった。それじゃあ明日学校でね?』
「うん。ホントにごめんね」
『ううん。いいよ〜』
携帯を切ると、まことはやっと靴を脱いで室内に入る。

「……」
三人で夕飯を一緒に食べようと約束していたので今日は何も準備していない。
「おなか…すかないや…」
結局その日は夕飯を食べなかった。
それでも月曜のお弁当の準備は習慣としてしっかりとした。

夜に一等からメールがあったが、まことは何も返事しなかった。
着信も無視した。
出ても何を話せばいいのかわからない。

とりあえずお風呂に入って、寝床につくが“あの光景”が何度も思い出されなかなか寝付けなかった。
後ろ姿だけだったが、小柄でふんわりとした少女だった───と、思う。
なにより、恋人のように一等と腕を組んで歩いていた。

「……あの子、誰?」
家にいる時や遊びに行く時に腕につけている一等からクリスマスに貰ったブレスレットに触れながら小さくつぶやく。

(そんなこと聞けない。だって怖い)
不安に思っていた。
同居しているレイと雄一郎。
アイドルで忙しいとは言っても、同じ学校に通ってクラスも同じうさぎと星野、大気と亜美、夜天と美奈子。
それに比べると自分と一等は遠いように感じてしまう。
「いっくん……」
まことはいつの間にか眠りに落ちた。

次の日も、その次の日もまことは一等からの連絡に応じなかった。
メールの返事もしなかったし、電話にも出なかった。

さすがに三日目ともなるとまことの様子がおかしい事に確信を得たうさぎと亜美が心配してまことに話をきこうとしてくれたが「ホントになんでもないよ」と言い張って、「ごめん。あたし用事あるから」と、そそくさと学校をあとにした。

「ねぇ、亜美ちゃん。やっぱりまこちゃん変だよねぇ?」
「そうね…何かあったんだとは思うんだけれど…」
うさぎと亜美はいなくなったまことの席を見つめて心配する。
何を聞いても「なんでもないよ」の一点張りで、頑ななその答えが「何も聞かないで」と言われているようで……。
「何があったのかなぁ?」
「うーん……きっと日曜日にまこちゃんが突然帰ったことと何か関係があると思うんだけど…」
何しろ別行動中の事だったので何があったのかわからないのだ。

「ねぇ、うさぎちゃん」
「ん?」
「もし、約束をすっかり忘れちゃうほどの事があるんだとしたら、それはどんなとき?」
「え?」
亜美の質問にうさぎはうーんと考える。
「なんだろう…えーっと…んーと……」
必死に考えるがとっさに答えは出てこない。
「わ、わかんないよぉ…亜美ちゃんは?」
「あたし?」
「うん」
「そう───ね」
亜美はふと窓を見つめて何かに気付いたような表情を見せる。
「“好きな人”」
「え?///」
亜美の答えにうさぎはドキリとする。
まさか亜美からそんな言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

「見落としてたわ」
「え?亜美ちゃんが大気さんを?」
「違うわ。ほら、あそこ」
亜美が校門を指差す。
そこには麻布高校の制服を着た男子生徒がひとり。
「あ!浅沼君!?」
「ちょっと話を聞いてみましょう?もしかすると日曜日に何かあったかわかるかもしれないわ」
「そだね」
そんな話をしていると教室にライツの三人と美奈子が戻ってくる。
「帰ろうぜ」
「待たせてすみませんでした」
みんなで一緒に帰る約束をしていたのだが、うさぎと亜美はそれぞれの恋人の前で両手を合わせる。
「「ごめんなさい!」」
「「は?」」
見事に二組のカップルはハモる。

「あたし達、ちょーっと急用が出来たの!」
「そんなわけで今日はごめんなさい!」
言うが早いか二人は───「美奈子ちゃんバイバイ、お仕事頑張ってね」と言うと───教室を飛び出していった。
「「え?」」
突然の事に目を丸くしている星野と大気に、さすがの美奈子も呆気にとられる。
「めずらしい、何かあったのかしら?」
夜天が興味なさげに校門を見下ろして指差す。
「あれじゃない?ほら、校門のところにいるの浅沼だよね?」
「ん?あぁ、ホント。あれ?でもまこちゃんとっくに帰って……」
仕事で二日休んだ美奈子には何がなんだかさっぱりだ。

うさぎと亜美が校門の所にパタパタと駆け寄り一等となにやら言葉を交わすと、彼が目に見えて落ち込んだのが分かった。
そして、うさぎが必死に一等に何やら話しをする。
一等は頷くと、三人で校門をあとにした。
「なんでうさぎちゃんと亜美ちゃんが浅沼君と?」
「さぁ?っていうかそこの二人、あからさまに僕を睨むのやめてくれない?」
「……なんだよ…おだんご…俺より浅沼と…っ」「まさか…亜美……」
「そんな事あるわけないと思うけど?」
「まこちゃんに何かあったのかしら?」
「だろうね。なんか元気なかったみたいだしさ」
「え?そうなの?」
「うん」
「……む」
知らなかったとは言え少し疎外感を感じて拗ねる美奈子に夜天はくすりと笑う。
「月野も水野も夕方から仕事の美奈に余計な心配かけたくなかったんだよ」
「そう、かな?」
「そうだよ。絶対に」
「……うん」
しょんぼりする美奈子の頭をそっと撫でると、彼女はようやく安心したように笑顔を見せる。

「おだんご…」「亜美…」
「そこの二人、僕の話聞いてた?」
「あはは、星野君も大気さんもホントにうさぎちゃんと亜美ちゃん大好きだもんね」
「やれやれ、放っておいて帰ろう美奈」
「えぇっ!」
「何言っても無駄だって美奈も知ってるよね?行こう」
「う、うん」
打ちひしがれた二人を取り残し夜天と美奈子は教室をあとにした。



校門のところで「まこちゃん帰っちゃったよ」と告げた時の一等の落ち込みようと言えば、それはそれは“しょんぼり”という表現がこれほどまでに当てはまるものかといっそ拍手したくなるくらいのものだった。
うさぎ達の話を聞かせて欲しいとの申し出に「俺も聞きたい事があるんです」との答えがあったため、一等と合流したうさぎと亜美は三人でクラウンに来ていた。

「ほれで?まこひゃんとにゃにがあっひゃの?」
季節限定ジャンボパフェを口いっぱいに頬張りながらうさぎが目の前の一等に聞く。
「もう、うさぎちゃん。口にものを入れたまま喋るなんてお行儀が悪いわ」
「うぅっ、ごめん…」
亜美に叱られてうなだれるうさぎを横目に亜美は、一等に視線を戻す。
「それで、浅沼君。うさぎちゃんの質問を繰り返すけど、まこちゃんと何があったの?」
「なにも…としか。俺にもどうして避けられてるのかがよく分からなくて」
「原因に心当たりはないのね?」
「はい」
一等の答えに亜美は考え込む。
「ねぇ、浅沼君。まこちゃんに避けられるようになったのっていつからか分かる?」
「日曜から、です」
「「やっぱり…」」
一等の答えにうさぎと亜美はハモって顔を見合わせる。
「え?」
二人の反応に驚く一等。

「あの…」
何か知っているなら教えて欲しいと言いたげな視線を受け止めた二人は居住まいを正す。
「浅沼君」
「は、はい」
「日曜日、どこにいたか教えてくれる?」
「日曜…ですか?」
「「うん」」

一等は記憶をたどる。
「買い物に出かけてました」
「どこに?」
「ショッピングモールです」
「どこの?」
「六本木、ですけど」
「……」「……」
「……あの…」
偶然にも同じ場所にでかけていた事が分かり、なんとなくの事情を察したうさぎと亜美。

たが、それだけではまことが一等を避ける理由は見当たらない。
「ねぇ、浅沼君」
「はい」
「その時って誰かと一緒だった?」
「え?はい。兄妹一緒でした」
「「きょうだい?」」
「実は昨日両親が結婚記念日だったんですけど、毎年俺たちみんなでプレゼントを渡すんで、それを一緒に買いに行ってたんです」
一等の言葉に二人は目を丸くする。
「浅沼君兄妹いたんだ?」
「はい。意外に思われれるかもしれませんけど、俺これでも一番上なんですよ?」
「長男だったんだねぇ?何人兄妹?」
「四人です。弟が一人と、妹が二人です」
「へぇ、そうなんだぁ。あたしも弟いるんだよ」
「あ、まことさんから聞きました。今中学生でしたっけ?」
「うん。そうなの。浅沼君のところは?」
「あ、俺のところは年子なんですよ」
「へぇ〜、そうなんだぁ」
兄弟話で盛り上がっているうさぎと一等の会話を聞きながら、亜美は考える。

そして、ある結論に達する。

「あの、二人とも、盛り上がってるところ水をさして悪いんだけどちょっといいかしら?」
「「はい?」」
「浅沼君に兄妹がいること、まこちゃんは知ってる?」
「え?はい。知って……っ!」
答えながら一等は思い出す。

そう言われれば、まことの前であまり家族の話をしていないことを思い出した。
飛行機事故で両親を亡くし、中学生の時から一人暮らしをしているまことに家族の話をする事を一等は避けてきた。
両親の話はした事はあるが、兄妹の話をした記憶はない。

「言ってないのね?」
一等の反応に亜美が聞くと、彼は「はい」と頷いた。
「と、なると……ありえるかもしれないわね…」
「何をですか?」「何を?」
なんのことか分からない一等とうさぎは亜美の言葉に首を傾げる。
「妹さんと一緒のところを見て、勘違いしちゃった可能性が…あるんじゃないかなぁ?って思ったんだけど」
「……え?」
「あぁっ!なるほど。そうかも…うん。知らないんならあるかもしれない!」
うんうんと頷くうさぎと、なんとも言えない表情をした亜美を見つめていた一等が青ざめる。

「まさ…か…」
一等はその日の記憶を辿る。
自分と弟と妹二人で出かけて、四人で一緒に動くと効率が悪いからと一番上の自分と一番下の妹、真ん中の弟と妹に分かれて行動していた。
はしゃぐ妹に迷子になるからあまり離れないようにと世話を焼いたりしていた。

その時をまことに見られて妹を“仲の良い女の子”だと勘違いをされたと言う事なのだろう───か?

一等からの話を聞いた亜美とうさぎは納得したように頷く。
「あたし達もまこちゃんから直接話を聞いたわけじゃないからあくまで推測でしか無いけれど……十中八九そうだと思うわ?」
「うん。あたしもそう思うよ」
「……わかりました。俺今からまことさんのところに行ってちゃんと話してきます」
「うん!そうだね、きっとまこちゃん待ってるよ。早く行ってあげて?」
うさぎがそう言うと一等はしっかりと頷く。
「はい!あの、ありがとうございますっ!」
一等は立ち上がりペコリとお辞儀をするとクラウンを出て行く───が、慌てたように戻ってきて伝票を手にしようとするが、それより早く亜美が自分の方へと引き寄せる。
「まこちゃんと仲直りしたら、お代受け取るわ?」
亜美はやんわりと一等を制するとにっこりと微笑む。
「ーっ、分かりました!必ずお返しします!」
そう言って、今度こそクラウンをあとにする。

「おぉっ、はっやーい」
窓から走る浅沼を見ながらうさぎは目を丸くする。
「そうね」
「亜美ちゃんは、さ」
「ん?」
「すごいね」
「そんな事ないわ?あたしはうさぎちゃんの方がすごいと思うもの」
言いながら、亜美は一等が座っていた席の方へ移動する。
「え?どこが?」
「ふふっ、ヒミツ」
亜美がくすりと笑ってすっかりぬるくなったロイヤルミルクティーを飲む。
うさぎはそんな亜美を見つめて、先ほどの事を思い出す。
(にっこり笑顔の使い方が大気さんに似てきたねって言わない方がいいよね…絶対)
そう心に決めて、残りのパフェをもぐもぐと食べながら笑顔を向ける。
「あとは、うまくいくように祈るだけだね」
「えぇ、そうね」



学校から逃げるように帰ったまことは制服から着替えを済ませると、いつもの流れで一等からもらったブレスレットをつけてベッドに寝転がりぼんやりと見慣れた天井を見つめる。
指先でビーズに触れながら想うのは、会うのが怖くて避けている恋人のことで。
“あの光景”を見て以来、会いたくないと思いながらもどうしても彼の事を考えてしまう。
うさぎと亜美も心配してくれているのはわかっているけれど、どうやって話せばいいのかわからなくて、話し出せば泣いてしまいそうで、結局二人のこともさけてしまっている。

「いっくん…」
まことは二人きりの時にしか呼ばない彼の愛称をつぶやくと、ぎゅっとくちびるを噛み締める。
(いつまでも避けてても何も始まらないじゃないかっ!)
そう思うけれど、「日曜日一緒にいた子誰?」と聞けなくて。
学校の友達?他に好きな子が出来た?
仲が良さそうに腕を組んでいた理由が分からなくて。

「っ、ーーーっ」
考えが悪い方にばかり向かってしまい息が詰まりそうになる。
(いやだ…)
一等が自分から離れてしまうことを怖いと思ってしまう。
それを“恐怖”と感じるほどに彼の存在はすでに大きくて。

(あたし、どうしたら、いいの)

───ピンポーン

   ピンポーン

   ピーンポーン

「……」
しつこく鳴らされるチャイムの音を無視していると、携帯が震える。
「?」

From:浅沼 一等
Subject:会いたい

まこ、家にいるよね?
開けてほしい。
話があるんだ。

-END-

「っ!」
まことはひくりと息を飲む。

携帯を握りしめたままキッチンと玄関に続く扉をそっと開け、気配を殺して玄関に行く。

───ピンボーン

「……っ、帰って」
小さくかすれた声でドアに向かってそうつぶやく。
「いやだ」
聞こえないと思っていた声は聞こえていたようで、一等の声ではっきりと否と答えがあった。
「帰って、いやだ。会いたくない。顔見たくない」
(違うっ、こんな事、言いたいんじゃないっ)
「…………帰らないよ」
「っ」
「まこが俺に会いたくなくても、俺は今まこに会ってちゃんと話をしなきゃダメなんだ…」
真剣な声音にまことはカチャリと鍵を開けた。

ゆっくりとドアを開けると、そこには誰よりも会いたくてたまらなかった人が嬉しそうな笑顔で立っていた。

「良かった。やっと会えた」
優しい声と笑顔にまことはその場に崩れ落ちる。
「まこっ!?大丈夫?」
慌てて一等に身体を支えられる。
玄関は寒いのでとりあえず部屋に入る。

「はい、落ち着いた?」
勝手知ったるキッチンで暖かい紅茶を淹れた一等がことりとまことの前にマグカップを置いた。
「うん」
帰ってから暖房器具を付けずにいた身体が少しあたたまる。
「あの…、なん…で」
「日曜の事、月野さんと水野さんから聞いた」
「え?」
「二人ともまこからちゃんと話を聞いたわけじゃないから自信はないけどって言ってた」
「…っ、二人に会ったの?」
うさぎと亜美の心配に「なんでもない」と言って振り切って帰ってきた。
なにより、二人は今日は星野と大気と放課後に久しぶりにマンションに行くと話していたはずなのに。
「まこに会いに学校行ったら、月野さんと水野さんが『もう帰った』って教えてくれて、そのまま話を聞きたいって言われたんだ」
「星野君と大気さんは?」
「え?いや、俺は会ってないけど…」
「……っ」
二人ともきっと校門に一等の姿を見つけて駆けつけてくれたのだろうと想像できた。
「二人とも心配してたよ」
「うん…」
まことは申し訳なさでいっぱいになる。

「まこ」
「……」
「俺が女の子と一緒にいたの見たんだよね?」
「……っ、うん」
「それで、勘違いした?」
「…ん」
小さく肯定したまこと。

「うん。なるほど」
一等はそう言うと携帯を取り出すと操作してまことの前に差し出す。
「な、なに?」
「まこが見たのってどっちかの子じゃなかった?」
まことは恐る恐る携帯を見る。
そこには───一等の他に見た事のない三人の少年少女の画像があった。
一等以外の少年と少女の一人は黒髪で、もう一人の少女はこうして見ると一等に髪色がとてもよく似ている。
そして、髪色を除けば四人は雰囲気がなんとなく似ているような気がした。

「……後ろ姿だったから、わかんないけど、多分この黒髪の子だと思う」
「やっぱり」
「……やっぱり?」
「今まで言ってなくて、ホントにごめん」
「ーっ」
突然謝る一等にまことの鼓動がどくんと跳ねる。
「俺───実は」
一等が真剣に、まっすぐにまことの瞳を見つめる。
「……っ」
聞きたい気持ちと、小さな不安がまことの中で渦巻く。
「四人兄妹の長男なんだ」
「…………え?」
「まこが日曜に見たのは一番下の妹だよ」
「…いもーと?」
「そう」
「…………」
驚いたように目を丸くして自分を見つめるまことの視線を見つめ返す一等。

(妹!?妹って…いっくん妹いたの!!って言うか…四人兄妹!?)
まことは自分が見た“仲の良さそうな女の子”が妹と言う事実と、四人兄妹だったという事に驚いていた。
「いっくんて…」
「うん」
「……お兄ちゃんだったんだ?」
「うん」
「そう…なんだ」
「うん。黙っててごめん。いつか言うつもりだったんだけど…なんかタイミング逃しちゃって…さ」
「う、ううん。えっと……あの…」
「うん?」
何かを言いたそうに口ごもるまことに首を傾げる。

「っ、ごめんなさいっ!」
まことは頭を下げる。
「その子との事……勘違いして…っ、いっくんからの連絡、無視、してた……。ホントにごめんっ!」
まことは泣きそうになる。
勝手に勘違いして、本人に確認もしないで、ひとりで拗ねて、心配してくれる親友たちにも迷惑をかけた。

「いいよ。妹がいるって言ってなかった俺も悪いし」
一等は優しく笑う。
「でもっ!!」
「まこ。ヤキモチ、焼いてくれたんだよね?」
一等は嬉しそうに無邪気な笑顔を見せる。
「っ!なっ…うぇぇぇっ//////」
そう言われてはじめて自分が嫉妬していた事に気付いたまことは真っ赤になってうろたえる。
「だっ…だって、腕組んでたじゃんか!」
「あれは妹がはしゃぎまわるから」
「仲良さそうだった!」
「うん、兄妹みんな仲いいよ」
「ちっさかった!」
「まだ中1だからね。『もうちょっと大きくなる』って本人が言ってた」
「中1!?」
「あ、うん。俺が高1で、みんなひとつずつ歳が違うから、弟が中3、って言ってももうすぐ高校入学だけどね。それでその下に中2と中1の妹」
一等が説明する。
「なんだよ…あたしひとり勝手にいじけて…」
まことが拗ねたように自分を責める。

「言ってなくてごめん」
「いっくんは何も悪く無いだろ!」
「でも、まこを不安にさせた」
まっすぐにまことを見つめるその視線にはさっきまでの無邪気な雰囲気はなかった。
「もっと早くに言ってれば、まこにそんな想いさせなくてすんだんだ。ごめん」
そう言ってまことに頭を下げる。

「っ、ーっ」
まことは一等のこんな風にまっすぐなところにたまらなく惹かれていると改めて気付かされる。
「あたしこそ、ごめん」
ここで自分が泣くのはズルいから、泣くのを我慢して謝ると、彼は優しい声で「うん」とだけ言ってくれた。

「そうだ、まこ」
まことが落ち着くのを待ってから、一等は少し恥ずかしそうに口を開く。
「ん?」
「今度さ、家に遊びに来ない?」
「え?」
「妹たちが『彼女連れてきて』って言っててさ」
「え?///」
「まこに会いたいみたいで/// 嫌じゃなかったらどうかなって///」
そう言って照れたように笑う一等にまことは今日一番の笑顔を見せる。
「うんっ!行く!あたしもいっくんの兄妹に会ってみたい」






あとがき

スター様
お待たせいたしました!

27000のキリ番ゲットおめでとうございます。
リクエストありがとうございます。

最初のリクエスト要望にお応えできずに妥協していただき申し訳ありません。

浅まことのことでしたがこんな感じになりました。

浅沼君の兄妹設定はオリジナルです。

少しでもお気に召していただけると嬉しいです。



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