捧げ物 | ナノ


二人の形
「いただきます」

大気はバスケットからサンドイッチをひとつ取り出すと、口を開けてかぶりつく。

大気の隣に座り、その横顔を緊張の面持ちで見つめる亜美。

「……」

もぐもぐと咀嚼したサンドイッチを飲み込み亜美にとびきりの笑顔を向ける。

「すごくおいしいです」

大気がそう言うと、亜美はほっとした表情をみせる。





『明日デートしましょう』
そう誘ったのは大気だった。
明日は学校も休みで、仕事も一日オフ。
天気予報は「明日は快晴で、陽気な一日になるでしょう」と言っていた。

『そんないい一日を亜美と過ごさないなんて絶対に間違ってる!』
大気はそう思った。

亜美はもちろん大喜びで快諾した。

どこに行くかを話し合った結果、朝から公園に隣接された図書館に行くことになった。

その時に
『あの、もし大気さんが迷惑じゃなかったらお昼を作っていってもいいですか?』
と、言った亜美の申し出を大気が断るはずがなかった。

そんなわけでお昼は公園で食べることに決めて、亜美は朝からサンドイッチを作った。



大気が車で亜美を迎えに行き、公園近くの駐車場に車を停めた。
そこから公園を通り図書館に行き、お互いがすすめる本を読んだ。

この話をうさぎや星野、美奈子あたりが聞いたら
「わざわざ図書館に行かなくてもいんじゃ…」
と、言いそうなものだが、家で読書をするのと図書館で読書をするのとではワケが違う。

まず、圧倒的に本の冊数が違う。
専門書もたくさんある。

そして、なによりも亜美がとても嬉しそうなのだ。

時々、大気の方をちらりと見ては目が合うと恥ずかしそうに逸らせる。
そして、再びそっと大気を見て、彼が優しく微笑むとはにかんだように亜美も笑った。

大気は、本を読むこともそこそこにそんな亜美の反応を楽しそうに見つめていた。



あっと言う間にお昼になり、亜美が自分の為に作ってくれたお昼を早く食べたい大気は
「亜美、すごくいい天気ですし、外でゆっくりしませんか?」
と、彼女を誘い、図書館をあとにした。

自動販売機で飲み物を購入して、二人は並んでベンチに座った。

「サンドイッチなんですけど…ごめんなさい…。こんなものしか作れなくて……」
と、しょんぼりする亜美の髪を大気はくしゃりと撫で、優しく笑った。

「何を言ってるんですか?私にとって大事なことは“亜美が私のために作ってくれた”ってことなんですよ」
「え?」
「作ってくれたんでしょう?私のために」
「……はい」
「すごく嬉しいです。お腹も空いたことですし、早速いただいてもいいですか?」
「はいっ!」

大気は亜美の作ったサンドイッチをほおばった。





(良かった。大気さん喜んでくれた)

亜美は大気の言葉に安心し、自分もサンドイッチをもぐもぐと食べる。

「お昼を食べたら公園を散歩でもしましょう?
亜美と二人で読書をするのも好きですが、今日は日差しも心地よくて、風も気持ちいいです。
たまには、のんびりしませんか?」

大気がそう提案すると亜美は一瞬きょとんとして、それから、とびきりの笑顔を見せてこくりと頷く。



「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「ありがとうございます」
亜美もごちそうさまをする。

「行きましょう」
大気が立ち上がり差し出した手に、亜美はそっと自分の手を重ねる。

広い公園を手をつなぎ歩いていると、大きな池が見える。

『ボート貸し出し中』の看板を見た大気は、すごく楽しそうに乗り場へと向かった。

大気がボートを漕ぐ。

亜美は楽しそうに池の中を覗き込んだり、水にぱしゃぱしゃと手を触れさせて微笑む。

「やっぱり水のそばだと亜美はいきいきしますね」

そんな彼女を見つめ大気は優しく微笑む。

「あぅ///」

大気に子どもっぽく思われたと感じた亜美は恥ずかしそうに水から手を戻し真っ赤になってうつむく。

そんな仕種が可愛くて大気はくすくす笑う。
「亜美は本当に恥ずかしがりやさんですね」

「からかわないでください///」

少し拗ねたように言う亜美がまた可愛くて大気は優しく微笑む。

そのまま時間いっぱいまでボートを堪能した。

再びベンチに座ってゆっくり話をする。

二人の間にゆるやかな時間が流れる。



久しぶりの二人の時間。
ただ、こうして二人で一緒にいるだけで幸せだと感じる。





「あ」
亜美がある方向を見て小さく声を上げる。

「ん?あぁ、クレープワゴンですか。食べたいですか?」
「あ、はい」
「何がいいですか?」
「えっ?いえ!自分で行きます」
「だーめ。亜美はここで座っていい子にしててください。ね?」
大気が笑顔でそう言うと、亜美はおとなしく引き下がった。
「はい」
「何がいいですか?」
「えっと、ストロベリー生クリームをおねがいします」
「わかりました。ではちょっと行ってきますね」
「はい。いってらっしゃい」
クレープワゴンに向かって歩いて行く大気の背中を見ながら亜美は微笑む。

(今日は朝からずっと大気さんと一緒にいられて、すごく幸せ)

大好きな本を読めて、安らげる水に触れられて、何より、隣に愛しい大気の存在がある。
それだけで、亜美の心は満たされた。



「はい。お待たせしました。亜美」
「ありがとうございます」
大気は亜美にクレープを渡し、彼女の隣に腰かける。

「大気さんは食べないんですか?」
「えぇ。私はさっきのサンドイッチで充分です」
「〜っ///」

大気は亜美の反応にクスリと笑う。

──確信犯だ

「っ/// いただきます」
亜美は生クリームとイチゴがたっぷり入ったクレープを、もぐもぐと食べ始める。

「おいしいですか?」
口にクレープを含んだ亜美は、こくりと頷く事で肯定する。
あえて聞かなくても、亜美の嬉しそうな顔を見れば分かる。

亜美は、はっと気付いたように大気にクレープを差し出す。

大気はそれを笑顔で受け取る。
「そうですね。いただきます」
亜美は、こくこくと頷き、こくんとクレープを飲み込む。

そのタイミングを見計らい、大気は素早く亜美のくちびるを奪う。
「っ!」
亜美は突然の事に驚く。
大気はそのままそっと舌を入れる。
「ふぅっ///」
亜美は抵抗できずされるがままになる。

くちびるを離し、大気はクスリと笑う。
「甘くておいしいですね」
「〜っ///」
亜美は涙目で真っ赤になっている。

「なん、で」
やっとの事でそれだけを口にする。
「クレープより亜美が食べたかったからですよ」
「っ!?」
笑顔でさらりとそんな事を言う大気に亜美は固まる。

亜美の反応を見て、大気はくすくす笑う。
「本当に可愛いですね。亜美」
そう言いながら、さっき亜美から受け取ったクレープを返す。
亜美はそれを受け取ると、大気の方に背中を向けてしまう。

「あーみ?」
「もう知りません///」
亜美のこんな反応は珍しいので、大気は楽しくなる。

「キスしたくなったんだから仕方ないじゃないですか。
亜美のクレープの食べ方が可愛いのがいけません」
「っ///」
大気は時々、とんでもない事をさらりと言う。

亜美はその言葉ひとつひとつにドキドキさせられる。

少なくともクレープを食べ終わるまでは、絶対に大気の方を向かないでおこうと密かに心に誓うと、亜美はもぐもぐとクレープを食べる。
そんな亜美の後ろ姿を大気は優しい眼差しで見つめる。



「ごちそうさまでした」
亜美は包み紙をきれいにたたむと、ようやく大気の方に振り向く。
「おいしかったですか?」
「はい」
「良かったですね」
大気はそう言うと亜美の頭を撫でる。
亜美は恥ずかしそうにしながらも、されるがままになる。

しばらくそうしていた大気は、亜美の頭から手をおろし、そのまま彼女の小さな手を握る。

「亜美」
「はい」
「今夜はどうしますか?」
「え?」
「亜美さえ良ければ泊まりに来ませんか?」
「あの…」
「先に言っておきますが、迷惑でもお邪魔でもありませんからね?
私が亜美ともっと一緒にいたいんです」
「あ、ありがとうございます///」
「どうしますか?」

「あ、あたしももっと大気さんと一緒にいたい、です///」

真っ赤になってそう言う亜美に、大気は優しく微笑みかける。





駐車場に向かう道
夕日に照らされる二人の影は
ぴったりと寄り添い
しっかりと手を繋いでいた











あとがき

夕依様への相互記念小説です。

『大亜美で甘いお話』とのことでしたが、
こんなのでよろしければ、もらってやってください。

夕依様のみお持ち帰りオッケーです。

お読みいただきありがとうございます。



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