大気×亜美 | ナノ




4秒

放課後、うさぎ達と別れた亜美は図書室へ行くため廊下を歩いていた。
生徒の大半はもう帰路に着いたのだろう。生徒の姿はまばらだ。
図書室に入ると、お気に入りの席に鞄を置いて本棚を見てまわる。
いつもなら、今日はどれを読もうか楽しみで仕方がないのに、亜美の心は目の前に並ぶ本には向いてはくれない。
(…………大気さん)
仕事で東京を離れている恋人のことが、どうしても頭から離れない。
普段なら、ここまでではないのだが今日は、その恋人の誕生日なのだ。
日付が変わってから、メールで「おめでとうございます」と送った。
朝起きると、大気から「ありがとうございます」と返事があった。
本当は電話で伝えたかったが、迷惑になるだろうと思って、やめておいて正解だったと思った。
プレゼントは用意してあるが、今日中に渡すことはできないだろうから、大気が帰ってきてから渡そうと思っている。
(大気さん、無茶してないかしら)
真面目な大気のことだから、睡眠時間を削ったりして、体調を崩したりしていないか心配になる。
(……会いたい、な)
せめて、少しだけでも大気の声を聞きたいなんて、我侭を思ってしまう。
(いけない、あたしったら……)
自分の我侭のせいで、大気を困らせたくはないし、迷惑をかけたくもない。
ましてや、面倒な子だなんて、思われたくはない。
あと一週間ほどで大気は帰ってくるのだから、と言い聞かせた亜美はゆっくりと深呼吸をすると、視線をあげて目に入った本に手を伸ばす。
(……あと、ちょっと)
背伸びをして指先が背表紙の上に触れたので、少し力を込めて引っ張るが、きっちりと本が入っているためか、思ったように動かない。
諦めて台を取りに行こうとした時だった。
後ろから伸ばされた手が亜美の取ろうとしていた本に触れた。
「これですか?」
聞こえた声に、息を飲んだ。
「亜美」
会いたくてたまらなかった人の声が、自分の名前を紡ぐ。
驚きで固まった亜美の身体が、後ろから優しく抱きしめられて
「亜美」
さっきよりも、甘く、優しく名前を呼ばれる。
「っ、大気、さん」
「はい」
「なんで、こんな、ところに」
だって、大気は今、遠方でスペシャルドラマの撮影中のはずだ。
「大切な仕事があるからと、呼び戻されたんですよ」
大気の言葉に亜美はハッとする。
「だったら、早く」
「大丈夫ですよ」
「えっ?」
「大丈夫」
大気の言葉の意味がわからず、亜美は戸惑う。
過密スケジュールのはずなのに、大丈夫とはどういうことなのだろう?と不思議に思っていると、腕の力が緩められる。
「亜美。こっちを向いて、顔を見せてください」
大気の言葉に引かれるように、ゆっくりと彼の方に振り向いたものの、顔を上げられない。
「亜美」
「はい」
大気の大きな手が、亜美の頬に触れる。
「顔、上げてください?」
そっと顔を上げると、優しく微笑む大気がいた。
「会いたかったです。亜美」
「っ、大気、さん」
「はい」
「ーっ」
言いたいことがあるのに、大気がここにいることの驚きと、会えたことの喜びが入り混じって、言葉が出てこない。
「あ、の……」
「はい」
「お誕生日、おめでとうございます」
今、一番大気に伝えたいことを言わなくては、と、考えたら、そんな言葉が亜美の口から飛び出していた。
亜美の言葉に大気は驚いたような表情を見せてから、ふっと笑った。
「ありがとうございます。亜美」
そう言った大気は、ぎゅっと亜美の華奢な身体を抱きしめる。
「っ、た、大気さん」
「はい」
「あの、ごめんなさい。プレゼント今、持ってなくて」
亜美の言葉に大気は優しく彼女の碧い髪をなでる。
「今、もらってます」
「えっ?」
「亜美が、私の腕の中にいてくれるじゃないですか」
大気の言葉に亜美はハッとする。
ここは学校の、図書室なのだ。
「あ、あの」
「ん?」
「だ、だめです。ここ……っ」
言いかけた亜美の唇に、大気の長い指が触れた。
「ここの本棚を利用するのは、亜美と私くらいですよ?」
そう言って大気はにっこりと、綺麗すぎる笑顔を見せた。
「だから、ね?」
指を滑らせて唇をなぞり、そのままくいと亜美の顎を上げてまっすぐにアメジストで彼女の瞳を射抜くと、ゆっくりと顔を近づける。
「…………何を、するんですか?」
唇に触れてキスを阻止した亜美の小さな手を掴んで、隠さずに不満そうな顔を見せた大気から視線を逸らせた。
耳まで真っ赤になっている亜美の横顔に微笑んだ大気は、唇を寄せて低く囁く。
「真っ赤、ですよ?」
大気の声と、耳に触れる吐息に、亜美の体が小さく跳ねる。
「本当に可愛いですね。亜美」
楽しそうな大気の声に、思わず彼を見ると無邪気な笑顔があった。
こんな風に、大気の無邪気な笑顔を見られるのは自分だけなのだと、最近ようやく分かってきた。
「大気さん」
「はい」
少しだけ勇気を出して、大気に抱きつくと、優しく抱きしめ返してくれて、しっかりと抱き合う。
「あたしも、大気さんに、会いたかったです」
そう言って上目遣いで見つめる亜美に、大気は優しく微笑む。
これまであまり「寂しい」とか「会いたい」とか口にしてくれない亜美が、こうして言葉にしてくれるようになっただけでもすごいことだと言っていたのは、誰だっただろうかと思い出して、亜美の友人4人ともが言いそうだと思う。
今は亜美の言葉が聞けただけで充分だ。
「亜美」
「はい」
「そろそろ、向こうに戻らないといけないので、プレゼントは、仕事を終わらせて帰ってきてから、改めてもらいに行ってもいいですか?」
小さく頷いた亜美の髪をそっと撫でると、パッと彼女が顔を上げた。
「大気さん」
「はい?」
「ちょっと、しゃがんでください」
亜美に言われて少しだけ屈むと、柔らかいものが大気の頬に触れた。
「っ、今日は、これで、許してください」
「亜美」
「はいっ!」
大気は真っ赤になっている亜美の唇をかすめるように奪った。
「今日は、これで充分です。ありがとうございます。亜美」






大気さんお誕生日おめでとうございます。
難産でした。短くてすみません。
でもきっかりイチャイチャさせられたと思いますり



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